【イベントレポート】サービス数は前年比127% 不動産テック協会が発表の最新版カオスマップ「成熟期に入り、次のステージへ」

- 2021年7月に不動産テック協会が第7版のカオスマップを発表、イベントを開催
- コロナ禍によって不動産テックの新サービスの増加率に変化が起きた
- 不動産テックは成熟期に入り、人気カテゴリーでは競争→淘汰も起きていくと予測
不動産テック協会から恒例の不動産テックカオスマップの最新版が発表され、その説明会(ウェビナー)が行われました。今回はその内容をレポートします。
(SUMAVEでは、前回の6版(https://www.sumave.com/20200626_18133/)はもちろん、これまでの変遷のレポート(https://www.sumave.com/20200310_16476/)も掲載しているのであわせてご確認ください。)
第6版から最新7版「コロナ禍」要因も含めた“7つの変化”
前回の不動産テックカオスマップとカテゴリーを比較して「VR・AR」(155%増)や「不動産情報」(160%増)の2カテゴリーが150%を超える増加率となりました。
「コロナ禍の影響でサービスやカテゴリーは減るのではないかと考えていましたが、総数で前年比127%増の結果に。一方で淘汰もあり、昨年の6版で掲載し、7版から消えたサービスは10あります」と話すのは、解説担当の不動産テック協会の赤木正幸代表理事。消えたサービスの代表としては、インドのスタートアップOYO LIFEの日本撤退は記憶に新しいでしょう。「海外の不動産テックサービスを日本へスライドさせる難しさ」と赤木氏は話します。
増加率の高かったものとしては、「管理業務支援」(142%増)、ローン・保証(130%増)、「価格可視化・査定」(130%増)、スペースシェアリング(129%増)があります。
一方でマッチングや業務支援系は伸び率が低く、7版はこれまでとは違う動きがあったと赤木氏は振り返ります。
「私見ですが、コロナ禍を受けて非対面・リモートサービスがかなり増えてきています。また技術普及が進み、これまで難しいとされてきた「不動産情報」「価格可視化・査定」系は新しい会社が再度、サービスをリリースしてくるパターンが見受けられます」
赤木氏による、今回のトピックは以下の通り。
1.コロナ禍による、非対面・リモートサービスの増加
2.「不動産情報」「価格可視化・査定」に新技術をベースに新サービス
3.コロナ禍による、シェアリングサービスの増加
4.6版同様、業務支援系サービスの増加
5.基幹システムの登場
6.既存の不動産事業者による不動産テックサービスへの参入増加
7.SDGs・ESG・BCP関連サービスの登場
特に5の基幹システムの登場は「不動産テックの多くが次のステージである成熟期に来た証」と同氏は分析。「クラウドファンディングのシステムだけ、シェアリングの管理システムだけといったサービスが出始めている。自前でシステムを構築する必要がないため、これらを利用した新しいサービスが増えてくるのではないか」と話します。「他のサービスでも、これまでのような機能を前面に押し出すのではなく、キャラクターを使ったりUIに工夫をしていたり、使いやすさ、ユーザー体験の重視が見受けられ、これも成熟期と分析する理由です」。つまり、スタートアップが自前でシステムとサービスを開発し、新しいニーズを開拓するこれまでの状態から、既存の不動産業界とそれに関わる人たちが自分たちでも「不動産テックを導入」、ないし「利用をする」ニーズが高まりつつあり、そのニーズに応えるように基幹系システムやUI重視のサービスが登場してきたというわけです。
不動産テックカオスマップ掲載のサービスの一部を紹介
ここからは、解説の中で、赤木氏がピックアップしたサービスを一部ご紹介します。
■VR・ARサービス
いえみーる
[https://iemi-ru.com]
気になるマンションにスマホをかざすだけで、間取りや賃料が見えるサービス。「情報取得の新しいありかた」と赤木氏は話します。
BoxBrownie.com
[https://www.boxbrownie.com/jp/virtual-staging]
バーチャルステージングの専門サービス。「CGによる加工で時間・費用双方のコストを劇的に下げる」と赤木氏。
■スペースシェアリング
モバイルオフィス
[https://mobileoffice.carstay.jp]
キャンピングカーで働くサービス。「車の中でリモート会議などをやるケースも多く、コロナ禍ならではのサービス」と赤木氏。
Bessoo.com
[https://bessoo.com]
2週間以上貸し切りできる部屋を提供。「ワーケーションとのつながりもあり、これも新しい考え方のサービスなのでは」と赤木氏。
fixU
[https://fixu.jp]
コワーキングスペースの運営支援を行うSaaS。
■マッチング
COSOJI
[https://cosoji.jp/]
SUMAVEでも紹介したサービス(草むしりから空き家の維持まで、不動産の軽作業をデジタルで改革する「COSOJI」代表インタビュー)。「アメリカなどではこのような清掃やちょっとしたお手伝いサービスは多いが、日本にもついにきたという印象」と赤木氏。
■リフォーム・リノベーション
インスペ
[https://www.insupe.com]
ホームインスペクション(既存住宅状況調査)業務効率化アプリ。アプリで情報を入力・写真撮影で調査報告書を自動作成する。
■クラウドファンディング
CROWDFUNDING NETWORK Powered by EnjiNE
[https://relic.co.jp/services/enjine/]
クラウドファンディングの仕組みをSaaSとして提供するサービス。「こうした基幹系システムの登場は成熟期に入ったことを感じさせる」とは赤木氏。
■ローン・保証
任売ソリューション
[https://www.ninbai-solution.jp]
債権者(住宅ローンの借入先の金融機関 )と話し合いをし、同意を得た上で、住宅を売却する「任意売却」をサポートする。
Smetaクレジット
[https://smetacrezit.jp]
フリーランスのための賃貸契約金の分割サービス。
■価格可視化・査定
StockFormer
[https://stockformer.com]
不動産投資スコアリングサービス。自身の資産・収入をスコア化し、自分のレベルにあった商品とのマッチングなどを行う。
■管理業務支援
GMO賃貸DX
[https://chintaidx.com]
不動産管理会社向けオーナーアプリ。オーナーとのやりとりを一元化する。
EaSyGo
[https://www.goyoh.jp/easygo/]
収益不動産向けのソフトESGサービス。不動産とその利用者に関連する温室効果ガス排出量の解析などを行う。
magickiri
[https://pixiedusttech.com/magickiri/]
気流シミュレーションで感染症リスクが低い空間を設計し、実際にモニタリングをして感染症リスクを分析する感染症対策BCPソリューション。
■仲介業務支援
家やすっ!
[https://www.ieyasu.tokyo]
「キャラクターを使って親しみやすさをだしているサービスの例」と赤木氏。不動産購入を安く実現できるサービス。
コロナ禍が不動産テックに与えた「追い風」
続いて株式会社NTTデータ経営研究所のビジネストランスフォーメーションユニット シニアマネージャーで、不動産テック協会の川戸温志顧問がセミナーを実施。「コロナ禍は不動産テックには追い風」と話します。
また、不動産テックにおけるカテゴリーについてその成長曲線をガートナーのパイプサイクルを用いて説明し(下図に示す)「分析」は実用化に進んでいると語りました。
現在のトレンドを分析する一助になればと、次に川戸顧問は不動産テックのピッチコンテスト「MIPIM startup competition」で1位になった「ディスプレイ付きスマートBOX」を紹介しながら、「清掃や料理や買い物といった日々の生活を構成する要素が、デジタルによって必要な時にサービスとして提供される時代であり、Home as a Service=すまいのサービス化が進行している現在、スマートBOXやスマートキーなどはハブとなるもので今後、競争が激化してくるのではないか」と話します。
中国アリババなどが強力に推進するオンラインとオフラインがマージされるOMO(Online Merges with Offline)の世界は、世界中のトレンドになりつつあります。不動産テックでも、そうしたサービスの登場が増えている状況のようです。
不動産テックの認知度は向上、しかしまだ届かないケースも
最後に座談会が行われ、この1年の不動産テックの変化と、今後の広がりについてディスカッションが行われました。
株式会社コラビット代表取締役社長の浅海氏は一時期トレンドだったマッチングのサービスが、また増えている印象があると指摘。それに不動産テック協会代表理事を務めるリーウェイズ株式会社 代表取締役の巻口氏も同意します。
「不動産テックが成熟期を迎えているのではないでしょうか。不動産テックという単語が市民権を得たように感じます。不動産を事業とする方々から聞き返されることもなくなり、サービスが浸透しやすい土壌が整った一方、マッチングなどサービスが多い分野では、競合が厳しくなりマネタイズできなくなるサービスも出てくるかもしれません」
不動産テック協会理事で株式会社サービシンク 代表取締役の名村氏も「不動産業界で、中大手の事業者が業務支援系のサービスに対して前のめりになってきたなと感じています。一方で、カオスマップにはこんなにサービスがあるのに、まだまだ不動産業界に伝わってない点も感じます。知らないから探せない、探せないから知らない、という悪循環があります」と話します。
株式会社NTTデータ経営研究所シニアマネージャー 川戸氏も「ご自身で勉強していて、不動産テックを理解している不動産会社もある。一方でこれまで不動産テックやデジタル化に興味がなかったけど、コロナ禍で興味を持ったところはまだまだくわしくない。二極化していますね」と同意。不動産テックに対するリテラシーにまだ差があることを共通の認識としました。
川戸氏はさらに今後の展開として「不動産の仲介など従来のサービスのオンライン化は大きな変化はなく、そのまま成長していくでしょう。一方で不動産と他の業界との交わりが進んでいくと思います。オフィスにオンデマンドが入ってくるのはもちろん、不動産は商業や物流とも繋がっています。不動産を中心として繋がる業界全体のテック化が波のように進んでいくイメージがあります」と分析。まさに成熟期を迎えた不動産テックへの期待を登壇者が改めて認識したところで、ウェビナーは終了。不動産テックカオスマップ最新版は不動産テック協会のWebサイトでも確認できます。
●関連リンク
不動産テック協会
https://retechjapan.org