【カオスマップ第5版】安全と納期を担保する最新「施工管理」サービス

- 総合的な管理能力が求められる施工管理職は業務範囲が広く、残業時間もかさみがちである。
- 書類作成業務や現場の安全管理、会議準備の効率化といった業務をサポートするサービスが登場。導入により現場と事務所の行き来や手書きデータの取り込み作業などが不要に。
- 政府もICT活用による建築現場の生産性向上を推進するなど、この分野の不動産テック活用が加速していくのではないか。
残業時間第1位? 負担の大きい施工管理
一般社団法人不動産テック協会が作成している「不動産テック カオスマップ」には、建築や工事の施工管理に活用されているサービスも掲載されています。例えば「管理業務支援」カテゴリに掲載されている“Greenfile.work”や“ANDPAD”、“eYACHO”。そして「IoT」カテゴリの“Safie”などがそれに該当します。
不動産テック カオスマップ 第5版【出典】一般社団法人不動産テック協会ホームページより【URL】https://retechjapan.org/retech-map/
施工管理とは、工事が定められた工期内に終えられるよう作業のスケジュールを組んだり、資材や機材・作業員の手配や調整を行ったりする工事現場の要となる仕事。小規模な会社の場合は特に、施工管理職は「現場監督」と同様の職種として扱われることが多いようです。
しかし、施工管理職は現場の監督役となる重要な職種である分、負担も大きいようです。パーソルキャリアが運営する転職サービス「doda」が2019年11月25日に発表した「残業時間ランキング2019」によると、調査対象となった105職種中で最も平均残業時間が多かったのは「設備施工管理」(41.6時間)、続く2位に「建築施工管理」(36.7時間)、そして6位には「土木施工管理」(34.2時間)がランクインする結果に。
現場での管理業務に加え、事務所に戻ってからも書類作成に対応しなければならないといった業務範囲の広さ。そして工期が迫っている場合など、どうしても残業や休日出勤で対応せざるを得ない場面も少なくないといった事情があることも、他職種と比べた際の残業時間の長さにつながっていると考えられます。
こうした状況があるものの、施工管理は現場関係者の安全を守り、建物の品質を左右する重要な仕事です。最新の不動産テックサービスを取り入れることで担当者の負担を軽減させ、業務の最適化を図ろうとする動きが活発化しています。
施工管理を最適化する最新不動産テック
施工管理の業務は大きく次の4つに分類されます。作業現場での事故を防ぐために設備などを整える「安全管理」、工期に間に合うよう工事のスケジュールを調整する「工程管理」、求められているものがより良い品質でつくられているかを管理する「品質管理」、そして工事にかかる人件費や材料費の原価を管理する「原価管理」。
これらは「4大管理」といわれ、施工管理の基本となるこれらのポイントを見るだけでも、業務範囲が非常に多岐にわたっていることがよく分かります。現場の監督業務だけでなく、書類の作成・やり取りも多く発生する職種ですが、例えば情報共有の手段が一定でなかったり、工程表を旧来のExcel管理で行っていたりと、一つひとつの業務に多くの改善点が残されていました。こうした状況を打破すべく登場した、施工管理の時間や手間を大幅に削減するための不動産テックサービスを見ていきましょう。
Greenfile.work
現場の作業員や、使用に危険が伴う機械を管理し、安全に工事を行うために必須となるのが「安全書類(グリーンファイル)」の作成。施工体制台帳や作業員名簿など、安全書類として用意しなくてはならない書類は数も多く、作成から提出、確認出しから修正まで時間も手間も必要です。こうした書類の作成や確認・修正業務の手間を大幅に削減するのが、地方から大手ゼネコンまで3,500社以上に導入(2020年3月時点)されている、安全書類作成・管理ソフトの「Greenfile.work」です。
スマホやタブレットを使い、場所を選ばず利用できるのはもちろん、画面の指示に従い必要項目を入力したり、あらかじめ用意されている候補から当てはまるものを選択したりといった簡単な操作をしていくだけで、安全書類における普遍的な書式として広く利用されている「全建統一様式」に則った書類を自動作成することができます。また、作成した書類の提出・受取・保管業務の電子化にも対応。書類の中に記入ミスや漏れ、資格や保険といった期限付きの項目がある場合は自動でチェックしてくれるなど、細やかな配慮がなされています。また、作成した書類データをExcelやPDFでダウンロードすることもできるので、状況に応じて柔軟に対応することも可能です。
同サービスを展開するシェルフィー株式会社によれば、年間完工高100億円規模のゼネコンにGreenfile.workを導入した際、手作業に比べ平均73.8%の残業時間削減、1,000万円規模のコスト軽減に成功した実績があるといいます。2018年2月1日の正式リリース前、同年1月4日のβ版公開から1,500名もの事前登録者を集めた点からも、こうしたサービスが待ち望まれていたことが分かりますね。
Greenfile.work【出典】Greenfile.work公式ホームページより【URL】https://greenfile.work/
なお、シェルフィーは国内最大級のスタートアップイベントとして有名な「TechCrunch Tokyo 2015」で開催されたピッチコンテスト「スタートアップバトル」を勝ち抜いてファイナリストとして登壇したこともあり、建設テック(Con-Tech)界隈では名の知られたスタートアップ企業でもあります。
ANDPAD
株式会社オクトが展開するクラウド型の建築・建設プロジェクト管理サービス。現場の効率化から経営改善まで一元管理することが可能で、特に民間の新築・リフォーム、商業建築などの施工現場で、スマートフォンアプリを中心に利用されています。2019年12月時点で契約社数は1,600社を突破、継続利用率は99.4%(2018年2月時点)。2020年3月でサービス開始4周年を迎える施工管理アプリです。
バラバラに管理していた写真や資料をクラウドで一元管理・整理することでスキャンやFAXの手間を無くせるほか、チャット機能によるコミュニケーションを導入することで現場の作業員と事務所にいる施工管理者との電話やFAXでのやり取りや、現場への移動時間を削減することができます。
ANDPAD【出典】ANDPAD公式ホームページより【URL】https://lp.andpad.jp/
また、クラウド管理によりどこからでも常に最新の工程表を確認できるようになるので、社内の施工状況を「見える化」し、工期遅れの防止や品質向上につなげることも可能です。
eYACHO
株式会社MetaMoJiが大手ゼネコンの株式会社大林組と共同開発したデジタル「野帳」アプリ。野帳とは、測量調査などの際に野外で利用するために作られた、耐久性の高い縦長のノートのことです。
建設現場でも備忘録や測量結果の記録、打ち合わせのメモなど、さまざまなシーンで利用されています。しかし、アナログな「野帳」はコンパクトで即座にメモを取れる反面、後から必要な箇所を探すのに手間取ったり、共有すべき内容がある場合は改めてパソコンで入力し直す必要があったりするなどと、管理に手間がかかるという課題がありました。
「eYACHO」はこうした課題を解決するため、大林組の知見を活かしたテンプレートやアイテム、タグを組み込むことで、アナログな野帳の手軽さはそのままに、デジタルの特性である管理機能を大幅に向上させたアプリケーションです。
タブレットに直接手書きで記録することが可能なため、現場から事務所に戻って手書きのメモを電子化する必要が無くなり、業務の時間短縮と品質の向上を図ることができます。ページにはWebページや別のノートのリンクを貼り付けることもできるため、情報を分かりやすく集約・一覧できます。
さらに、複数人が同時に図面や設計図へ書き込みを行い、それをリアルタイムで共有できる「Share(シェア)」機能を搭載。離れた場所からでも齟齬なくコミュニケーションが取れる仕組みです。
また、カレンダー機能やミーティングの開催・進行を支援する機能も搭載。会議資料の作成や配布までWebブラウザ上で完結させることが可能です。
eYACHO【出典】eYACHO公式ホームページより【URL】https://product.metamoji.com/gemba/eyacho/
前出の大林組をはじめ、導入企業数は200社以上(2020年3月現在)。2019年3月27日には計測機器開発メーカーの株式会社ディジ・テックとの協業も発表されており、業界内の働き方改革に一役買っています。
Safie Pocket
「Safie」はセーフィー株式会社が展開する、クラウド防犯カメラ・監視カメラサービスの総称。その中でも、今回取り上げる「Safie Pocket」は、2019年3月12日から提供が開始されたトランシーバー型のクラウド録画カメラです。
Safie Pocketは「話せる・見える・録画する」をコンセプトとして、主に建築業界などでの利用を想定してつくられたクラウド常時録画型のウェアラブルカメラ。現場の作業員がカメラを身に着けて撮影することで、管理監督側とリアルタイムでコミュニケーションを取ることが可能になります。
これまでも施工管理業務の補助ツールとして利用されてきた従来型の定点カメラと違うのは、建物内部の作業の様子など、細かい部分まで目視で確認することができる点。その映像を見ながら遅延なくコミュニケーションできるので、作業確認や安全パトロールにかかる確認時間の短縮や移動コストの削減につながります。
さらに、特殊な工事の過程などを映像で残しておくことで、OJTや後継者の育成に活用できるといった利点もあります。
Safie Pocket【出典】Safie Pocket公式ホームページより【URL】https://pocket.safie.link/
Safie Pocketの特徴【出典】Safie Pocket公式ホームページより【URL】https://pocket.safie.link/
また、同サービスを開発・運営するセーフィーは2019年11月7日、三井不動産株式会社とグローバル・ブレイン株式会社が共同で運営するコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)、31VENTURES-グローバル・ブレイン-グロースⅠ合同会社より第三者割当増資を実施したことを発表しています。この協業は、Safie Pocketの大規模導入による建設現場管理のほか、スマートシティなどさまざまなシーンでの映像ソリュ―ションの創出、不動産テックの強化やIoTの活用推進を目指すためのものだと発表されており、今後も不動産テック業界での存在感を増していくものと考えられます。
政府も推進する施工管理のシステム化
施工管理の世界にはQuality(品質)、Cost(原価)、Delivery(工程、工期)、Safety(安全)、Environment(環境)の5つを指す「QCDSE」という言葉があります。前述の「4大管理」とも重なりますが、良質な建築物を造るには、原価や工期だけでなく、現場の安全や環境への配慮も不可欠だということ。施工管理職は細やかな気配りや総合的な管理能力が求められ、日々大小さまざまな業務に追われてしまいがち。
こうした状況を鑑みて、国土交通省もICTなどの活用により建設現場の生産性向上を図る「i-Construction」を推進する「i-Construction推進コンソーシアム」を設立し、産学官協働による取り組みを行っています。
Greenfile.workは2018年1月15日に同コンソーシアムの「技術開発・導入WG シーズ説明会」でシーズ(種となるアイデア)として選出されていますし、eYACHOは2018年8月2日、ANDPADは同年9月13日、新技術の活用促進のため、新技術に関わる情報の共有及び提供を目的として国土交通省が運用しているデータベースシステム「NETIS(New Technology Information System)」に登録されたことを発表。2019年2月18日には、建設現場の業務効率化や安全管理に活用されているセーフィーのLTE搭載クラウド録画型カメラ「Safie GO」が、同じくNETISに登録されたことを発表するなど、今回取り上げた企業やサービスも先進的な取り組みとして評価されていることが分かります。
最近ではこのように政府主導の大きな動きがあるため、施工管理にアプリケーションやクラウドカメラのようなICT技術を取り入れることは、既存業務の効率化や工事品質の向上だけでなく、導入企業の対外的な評価にもつながっていくのではないでしょうか。そうなれば、この分野のシステム化はますます加速すると考えられます。
担当者の負担を減らしながら、さらに安全でスピーディーに工事を進められるようになれば、不動産業界全体にも好影響が期待できます。新築物件の建設時だけでなく、今後も内装やリフォームなど、さまざまな現場でのニーズが高まっていくと予想される施工管理職。今回はその課題やそれらを改善するためのサービスに注目しましたが、今後もさまざまな角度から不動産業を盛り上げるサービスが登場してくるはずです。日進月歩の不動産テックからますます目が離せません。