観光の形を“変える”AIやIoTなどを活用した新しいサービスを紹介!

- 日本国内の旅行消費額は2012年から約3.4兆円増加しており、観光産業は盛り上がりを見せている。
- AIやIoTといった先端技術、MaaSを利活用して観光の形を変える新しいサービスが登場している。
- 観光産業の活性化で地方の経済が潤い、その地域の価値が高まれば、不動産業界にも良い影響を与えるのでは。
盛り上がりを見せる観光産業
訪日外国人旅行者を含めた日本国内における旅行消費額は、2012年から比較すると約3.4兆円も増加しており、観光産業は盛り上がりを見せています。
そんな観光産業において、旅行者に対してより良いサービスを提供するため、テクノロジーを活用したさまざまな取り組みが広がっています。
今回はそんな観光の分野で広がる最新事例を見ていきましょう。
観光の形を“変える”新しいサービス
これまでは、観光地のエリアごとの情報をまとめて発信するメディアや、観光プランをパッケージで提供する旅行代理店などがありました。
最近では、AIやIoTといった先端技術を活用し、観光サービスをシームレスにつなぐMaaSや、地元と観光客をダイレクトにつなぐことができるサービスなど、観光の形を変える新しいサービスが登場しています。今回はその中から3つのサービスをご紹介いたします。
顔認証で利便性を高める、南紀白浜「IoTおもてなしサービス実証」
2019年1月から、日本電気株式会社(NEC)は株式会社南紀白浜エアポート、株式会社白浜館などと共同で顔認証を活用した「IoTおもてなしサービス実証」を行なっています。
まず、スマホやWebサイト、または南紀白浜空港にあるQRコードから、顔やクレジットカードといった情報を登録します。登録後は、対象の施設でその人に合った観光案内がサイネージに表示されたり、ホテルの客室の施錠ができたりします。また、飲食店や観光施設での買い物を顔認証だけで行なうことも可能です。
AIやIoTを活用したこの実証では、観光客以外にもビジネス客の利便性を上げるだけでなく、南紀白浜エリアの地域経済の活性化を目的としています。当初は実証期間を8月末までとしていましたが、2019年10月には新たにゴルフ場や観光名所といった施設が5箇所加わりました。さらに期間も2020年2月まで延期されるなど、この取り組みの注目の高さが伺えます。
施設の利用や飲食代をカードやお金を出すことなく、顔認証だけでできるというのは利便性が高く、盗難の恐れもないという魅力があります。
南紀白浜エリアにおけるIoTおもてなしサービス実証の概要【出典】南紀白浜空港プレスリリースより【URL】http://shirahama-airport.jp/
地方の新しい働き方を創出「TABICA」
株式会社ガイアックスが2016年から開始しているサービス「TABICA」では、国内外の旅行者に向けて、日本全国の地域でできる「体験企画」を販売しています。審査は特になく、体験を提供するホストは誰でもなることができ、体験内容の掲載は無料で行なえます。実際に予約がされると、手数料として価格の10%が徴収されるというシステムになっています。
同年の11月には月あたりのツアー開催数が150件で、流通総額540万円を突破。ホストに登録したのは800人、ゲスト参加者数が2,000人とサービスの利用者が多く、過去に最も収益を上げたホストは月40万円とされています。
また、定年退職の後、農家として農業体験の提供を開始したホストが、TABICA導入後1カ月で月50名ほどが体験に参加し、副業として成立しているなど、地域経済の活性化以外にも地域雇用の増加としての効果も挙げられています。
このサービスは、総務省のホームページに掲載されている地域活性化大賞 2016に選ばれており、今では副業としても注目され、今後も目が離せないサービスとなっています。
TABICA【出典】TABICA公式サイトより【URL】https://tabica.jp/
JR西日本(西日本旅客鉄道)が瀬戸内エリアで運用する観光アプリ「setowa」
JR西日本は、広島県とタイアップした「ミタイケンひろしま」のキャンペーンに合わせて、2019年10月から瀬戸内エリアへの観光客誘致拡大に向けた観光型MaaS「setowa」の実証実験を実施しています。
setowaには、観光客の行動幅を広げるような、移動や決済の利便性を高める機能があります。
1.スケジューラー機能
宿泊するホテルや立ち寄りたい観光地・飲食店などを組み込んだオリジナルの行程表を複数作成することができます。その目的地間の移動手段もアプリ内でルート検索が可能なうえ、レンタカー、レンタサイクル、カーシェアリング等も選ぶことができ、旅先での天候の変化に合わせてさまざまなパターンの行程表を作ることもできます。
2.デジタルフリーパス
特定の区間を走るJRや指定されたバスなどの乗り物が乗り放題で、さらに観光施設の入館料も料金の中に含まれている「デジタルフリーパス」機能があります。フリーパス以外にもクルーズや竹細工体験といったコンテンツを販売するデジタルチケットもあり、旅行を企画し行程表を作成することが苦手な人でも、気軽に瀬戸内を楽しめるような工夫がされています。
3.スマホでの予約・決済
スケジューラー機能で作成した行程表から鉄道の予約、決済はもちろん、アプリに対応しているタクシーやレンタカーといった二次アクセスの予約もsetowaで行なうことができるため、立てた計画の準備を速やかに行なえます。また、デジタルフリーパスや対象の宿泊施設・飲食店、駅弁までもが予約・決済ができるようになっているため、setowaだけで瀬戸内の観光を満喫することができます。
JR西日本グループではこのsetowaの実証実験を通して、瀬戸内エリアの観光の可能性を最大限に引き出し、地域活性化を目指しているそうです。
せとうち観光アプリ「setowa」【出典】JRおでかけネットより【URL】https://www.jr-odekake.net/navi/setowa/
おわりに
こうした新しいサービスの登場によって、地域の魅力をよりダイレクトに観光客に伝え、その地域でしか味わうことのできない「体験」を提供することで、人々が足を運ぶ動機を生み出すことができます。そして、実際の移動における手間が省けることで、観光を実現することのハードルが下がり、結果として観光需要が益々高まることが予想されます。今回ご紹介した事例はそのための手段となり得るものでしょう。
観光産業がさらに活性化すれば、観光産業そのものが潤うだけではなく、観光地になっている地域の経済の活性化も期待できます。このことは地域の価値をさらに高めることに繋がり、その地域の不動産市場に前向きな影響を与える可能性も十分考えられます。
観光産業と連携し、地域に新たな市場を生み出すことで、不動産業界として新たな事業の展開も考えられるのではないでしょうか。