スマートビルを身近にする!IBMのコグニティブ・コンピューティング・システムが見せる人工知能活用の可能性

2018.12.18
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スマートビルを身近にする!IBMのコグニティブ・コンピューティング・システムが見せる人工知能活用の可能性

はじめに

日々、様々な業界から「AI(人工知能)」を使った製品やサービスが登場しています。AIという単語自体に目新しさを感じることは少なくなってきた、という方も多いのではないでしょうか。

AIそのものをリリースする会社も少なくありませんが、一口にAIといっても、その機能や役割は多岐に渡ります。その中でも、特に大きく差別化を図ろうとしているのが、IBMの「コグニティブ・コンピューティング・システム」。

2018年11月、総合不動産サービス大手のJones Lang LaSalle(以下、JLL)は、IBM製ソフトウェアの統合とコンサルティングサービスを行うValuD Consulting(以下、ValuD)の買収を発表しました。これにより、JLLはAIをはじめとするIBMのデジタルソリューションに関する知見を得ることになります。

今回の買収は、JLLが進める不動産テック及びデジタル変革への取り組みの一つと発表されています。世界最大級の不動産総合サービス会社であるJLLも期待をかける、IBMの「コグニティブ・コンピューティング・システム」とはどのような技術なのでしょうか。

AIとコグニティブ・コンピューティング・システムの違い 

2016年8月4日、IBMのコグニティブ・コンピューティング・システム「Watson」が、わずか10分で患者の正確な病名を見抜き、患者の命を救ったことが大きく報じられました。膨大な医学論文を学習させることで、人間の医師にも診断が難しいとされる白血病の細かなタイプを識別し、医師に適切な治療法をアドバイスしてみせたのです。

メディア等では「AI」として語られることの多いWatsonですが、IBMはこれを「コグニティブ・コンピューティング・システム」と呼び、AIと区別しています。一般的なAIとWatsonでは、どのような違いがあるのでしょうか。

2017年まで日本アイ・ビー・エム東京基礎研究所で自然言語処理研究に従事していた武田浩一氏によれば、両者には下記のような違いがあるそうです。

・AI:人を基準とした知性や知的なタスクの再現を目的とした研究領域
・Watson:膨大なデータから解を見出すというような人が不得意とするタスクの支援や、感情や環境に影響されて非合理な判断をすることを防いだり、年齢的に衰えたり欠けたりする能力を補完することを目的としている

つまり、端的に言えばAIは「人の脳を再現すること」を目的としている一方、Watson(コグニティブ・コンピューティング・システム)は、あくまでも「人の能力を増強・補強する」目的で研究開発が進められていると主張しているのです。

どちらもコンピュータ自らが理解や学習を深め、アウトプットを行うシステムであることに変わりはありません。しかしAIはコンピュータ主体、Watsonは人が主体。目指すゴールが異なるということですね。

AIの考え方とWatsonの考え方の違いを図解したイラスト

スマートビルへの導入でも期待される人工知能

IoT機器などの最新設備を備え、ビル全体を統合的に管理・制御できるスマートビル(スマート・ビルディング、インテリジェントビル)の登場が期待される不動産業界においても、人工知能の果たす役割は大きくなっていくでしょう。

冒頭で紹介したJLLも、WatsonをはじめとするIBMのデジタルソリューションに精通するValuDを買収したことで同社は今後、認知機能付きビル(Cognitive Buildings)の開発や予測分析(predictive analytics)といった新たな技術の習得ができると発表しています。

より人間に寄り添った人工知能を目指し、研究開発が進められるWatson。スマートビルの実現に向けて、AIやコグニティブ・コンピューティング・システムに求められる役割とはどういったものなのでしょうか。「ビルのスマート化」を軸に、人工知能の導入事例を見てみましょう。

エレベーターの保守

保守やメンテナンス、機器のリニューアルが肝となる「ストック型ビジネス」ともいわれるエレベーター事業。人工知能による管理事業の効率化によって、利用者の待ち時間削減や収益拡大につながると期待されています。

上層階から見下ろした高層ビルのエレベーター

KONE×IBM:エレベーター製造業の世界大手、KONE(コネ)。一日に10億人もの人々の移動を支える同社のエレベーターやエスカレーターの24時間365日見守りサービスには、IBMのコグニティブ・コンピューティング・システム(Watson IoTプラットフォーム)が使用されています。建物が高層化すればするほど、移動効率と高い安全性が求められるエレベーター。KONEはエレベーターやエスカレーターに取り付けられたIoTセンサーから送られてくるさまざまな情報を分析し、部品の劣化状態に応じて適切に保全を行なう予知保全の仕組みに人工知能を組み込むことによって保全作業を効率化。競合他社を上回る顧客体験を提供しています。

三菱電機ビルテクノサービス:2017年8月14日付の日本経済新聞で、三菱電機のビル設備管理子会社である三菱電気ビルテクノサービスが、AIを使ったエレベーターの運行管理サービスを開始することを発表したと報じられました。過去の稼働データや保守履歴などのビッグデータを解析し、自ら運行プログラムを作成してエレベーターの待ち時間を減らしたり、故障から自動復旧したりする機能を提供します。

清掃の自動化・効率化

清掃員の高齢化や労働力不足が深刻化する清掃現場。清掃ロボット自体は以前から存在していましたが、人間の補助なしでは狙った箇所を清掃し辛いなどの弱点がありました。人工知能の発達により、清掃ロボットもより実用的なものに進化しています。

ビルを清掃するロボット

CYBERDYNE×住友商事:2018年3月28日、ロボットスーツの開発などを行うCYBERDYNEと住友商事は、共同でオフィスビル清掃の自動化・効率化に向けた取り組みを推進していくと発表しました。CYBERDYNEの清掃ロボットは、搭載された各種センサーで周囲の情報を取得し、人工知能が建物内部の形状や清掃経路を高精度に認識・記憶していきます。従来の清掃ロボットシステムは磁気テープやマーカーなどで予め誘導線を引いておく必要がありましたが、新システムではそうした下準備も不要になります。両社は今後、清掃ロボットの自律的なエレベーターの乗降を可能にするなど、オフィスビル清掃の効率化のための共同検証を進めていくと発表しています。

また、2017年11月27日にはソフトバンクと日建設計がスマートビルの設計開発を共同で行うために業務提携したことが発表されました。両社はIoTセンサーやAI、ロボットを使ってビル全体の設備管理を最適化し、働き方改革を実現する新たなワークプレイスをデザインすること。そしてビルの周辺環境を含めたスマートシティづくりに貢献するとしています。設計段階からビルのスマート化に取り組む企業は今後も増えていくでしょう。

人工知能やIoTによってオフィスビルや、その管理業務の在り方が大きく変化していきそうですね。

まとめ

人に成り代わるのではなく、人の可能性を広げるために進化し続けるコグニティブ・コンピューティング・システムは、今後ますますスマートビル分野でも重用されるようになっていくでしょう。

事実、2018年9月24日(現地時間)にIBMは9種の業界・業種向けに事前学習済のWatsonソリューションおよびサービスのリリースを発表しており、9カテゴリには「不動産およびビル」も含まれています。同発表では、産業向けIoTとAIを組み合わせた「IBM IoT Buildings Insights」を使うことで、ビル管理者はエネルギーコストの削減や、ビルの利用状況の変化を把握して対策を整えることができるようになるといいます。天候や過去のパフォーマンスなどの蓄積されたデータを総合的に分析することで、不動産投資による利益を最大化する施策を講じることも可能です。

このように大量のデータを学習し、それに基づいた分析を行うのはAIの得意とするところです。この特性を上手く生かすことができれば、新たな事業展開も期待できるでしょう。不動産業界でも、新機軸のサービスが生まれるかもしれません。冒頭で紹介したJLLのような企業の取り組みに、今後も注目していきたいですね。

AIを「人間が行っていた仕事をそのまま任せる」ためのものと捉えていると、新規事業立ち上げや事業拡大のチャンスを見逃してしまうかもしれません。AIの導入で事業に好影響を与えたいのなら、AIと「共に」新たな価値を生み出せないか、という視点で検討する必要がありそうです。

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