サラリーマンの副業に福音をもたらすか? 不動産分野にも活用されるAI投資

- 手軽かつ少額から始められるAI投資がブーム
- 逆風とも言われる不動産投資市場だが、若い投資家にもニーズは高い
- 不動産投資にAIを活用することで、市場の不透明性が解消できると期待されている
はじめに
近年、様々な分野で活用されている「AI(人工知能)」。他業界に比べてデジタル化が遅れているといわれる不動産業界においても、AIを導入することで業務を効率化したり、新たなサービスを生み出したりといった動きが見られます。
中でも注目されているのが不動産投資におけるAI活用です。今、不動産投資は市場全体に逆風が吹いているイメージがあるかもしれません。シェアハウス投資問題や銀行の不正融資に関する報道で取り上げられた「将来のために始めた投資で、経済的に破綻してしまうサラリーマン投資家」の姿は世間に強烈な印象を与えました。
しかし、投資家と不動産会社との情報格差が一端となって起こるこうした問題も、AIを活用することで解決できるのではないかと期待されているのです。
今回はAIに不動産投資を任せることのメリットや需要、その可能性についても見ていきましょう。
AI投資ブーム到来
日本型雇用の大きな特徴ともいえる「終身雇用」や「年功序列」が崩壊しつつある今、副業によって複数の収入源を確保しようと考えるサラリーマンは少なくありません。しかし現実問題として、日々本業で忙しいサラリーマンが副業に確保できる時間や労力は限られています。
そのような中、限られた時間で気軽に始められる副業として注目を集めているのが、ロボアドバイザー(ロボットアドバイザー、ロボアド)による「AI投資」です。
投資方針などに関する質問に回答するとAIが投資のアドバイスをしてくれたり、実際の資産運用までしてくれたりといったサービスです。従来は資産運用のプロが一部の富裕層や機関投資家向けに行なっていたサービスを、一般の人がPCやスマートフォン上で気軽に受けられるようにしたものといえます。
これまで全く投資をしたことがない初心者の場合、分散投資の配分はもちろん、どんな銘柄を選べばいいか目星も付けづらいですよね。本業が忙しくて投資の勉強をする時間が取れないビジネスマンも多いでしょう。そうした人にとってはロボアドバイザーの存在が投資を始めるハードルをぐっと下げてくれるはずです。
他にも比較的少額からの投資が可能な点もメリットとして挙げられます。
一方デメリットとして、多くのAI投資は分散投資を行なうため短期間で高リターンを求める人には向かないことや、手数料が発生する点などが挙げられます。また当然、AI投資といえど一般的な投資に付随するリスクがゼロになるわけではないので、注意しておきましょう。
先ほども少し触れましたが、ロボアドバイザーは大きく「①投資助言型」と「②投資一任運用型」の2種類に分けられます。本格的に時間や手間を切り詰めつつ投資を始めたい場合は「②投資一任運用型」ロボアドバイザーの利用を検討したいところでしょう。銀行に預金していてもほとんど利息がつかない昨今、放っておいても勝手に資産運用してくれるAI投資サービスの需要は今後も伸びていくと予想できます。
それぞれ、著名なサービスをいくつかご紹介します。
①投資助言型:投資のアドバイスのみを行なう
・「SMART FOLIO」
みずほ銀行のロボアドバイザーです。年齢・年収・投資目的などの6つの質問に答えることで、リスク許容度を診断。診断結果に基づき、投資家一人ひとりに適した資産配分モデルを提案してくれます。設定した投資ゴールに対する投資プランの進捗率をメールで知らせてくれるほか、メンテナンスが必要な場合はそのポイントを教えてくれるなど、投資開始後のサポートも充実しているのが特長です。
・「FUND ME」
簡単な質問に答えていくと、リスク許容度に応じたポートフォリオを提案してくれるスマートフォンアプリです。資産構成比や地域別構成比、過去・将来チャートの4つの視点からシミュレーションを行ない、資産運用の指標を具体的に示してくれます。また、投資方法や毎月の積立金額を入力すると、最適なアセットアロケーションを一覧で表示する機能もあります。
②投資一任運用型:投資のアドバイスに加えて、実際の資産運用まで実行する
・「WealthNavi」
6つの質問に答えるだけで、ロボアドバイザーが自分にあった運用プランを提案してくれます。発注・積み立て・リバランスもすべて自動。ノーベル賞受賞者が提唱する理論に基づいた金融アルゴリズムをベースにしています。
・「THEO」
証券口座開設と投資一任契約を申し込むと、年齢や資産額などに応じて適切な資産運用方針を設定してくれます。方針は年に一度、市場データの変化や年齢に応じて自動で変更(自身で設定することも可能)されるほか、リバランスも自動。1万円という少額から気軽に始められることが特徴です。
サラリーマンに狙いを定めた不動産投資市場
ここまでAI投資の需要について見てきましたが、不動産投資市場の様子はどうでしょうか。
老後資金に不安を抱えながら「人生100年時代」を迎えようとしている現役世代に対し、関連会社は猛攻をかけています。老後の不労所得の源や、生命保険の代わりとしての役割が注目されているようです。
事実、中古不動産のプラットホームを運営するGA technologiesが2017年5月25日に発表した「不動産投資動向に関する意識調査の結果」によると、副業感覚で不動産投資を始める若い投資家が増えています。加えて全体の30.9%が年収400万円未満、48.4%が500万円未満と、「不動産投資は富裕層が行なうもの」というかつてのイメージは崩れつつあることが分かります。
【出典】GA technologiesのプレスリリース(不動産投資動向に関する意識調査):https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000006.000021066.html
一方で「2020年以降」への懸念もあります。特に都内のワンルームマンションやアパートの需要は、東京オリンピック・パラリンピック後は激減するのでは?と思われている方も多いのではないでしょうか。
日本不動産研究所が5月29日に発表した「東京23区のマンション価格と賃料の中期予測(2018~2020年、2025年)/2018上期」では、「新築マンション賃料は、2020年まで微増し、以降ほぼ横ばいで推移する」との予測が立てられています。つまり同調査では、2020年を境に急激に不動産の価値が下落するとは考えられていないのです。
また、かつて東京の総人口は2020年にピークに達すると言われていましたが、東京都による最新の予測(東京都区市町村別人口の予測)では2025年、区部に至っては2030年がピークとされています。このことからも、「2020年以降、急激に都内の物件需要が無くなる」という心配はしなくて良さそうです。
そして、副業としての不動産投資が広まれば広まるほど、管理会社の需要はいっそう高まると予想できます。老後ならいざ知らず、忙しいサラリーマンが毎週末、現地に出向き、物件を自己管理するのは現実的ではありませんよね。
不動産投資をAIに任せる理由
では、AIを不動産投資に活用するとどうなるのでしょうか? 元来不動産は物件ごとの個別性が高く、機械的に価値を判断するのが困難とされてきました。人間の目利きが非常に重視される分野だったのです。
しかしディープラーニングの登場をはじめとする技術の進化により、状況が変わってきました。AIによって利回りやリスク、物件の将来性を予測できるようになってきたのです。
最新事例として、8月28日にオリックス銀行が発表して話題となった「キャッシュフローシミュレーター」をご紹介しておきましょう。
リーウェイズが開発した投資用不動産分析ツール「Gate.」をオリックス銀行がカスタマイズしたもので、投資を検討している物件情報やローンの借入条件を入力することで「賃料」や「空室率」の収益変動予測と修繕費などの運営経費の想定値が表示され、将来のキャッシュフローを試算できます。
機能①キャッシュフローシミュレーション
検討中の物件情報を登録し、シミュレーションできます。管理費や修繕費用などが自動表示されるほか、借入条件を入力すれば、ワンクリックで将来のキャッシュフローがシミュレーション表示されます。
【出典】オリックス銀行のプレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000065.000003922.html
機能②分析データ
検討中の物件について、賃料や築年数などさまざまな条件を用いてポジショニングマップ(分布)を確認できます。おおよその市場感をつかむ参考になります。
【出典】オリックス銀行のプレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000065.000003922.html
機能③統計データ
人口動態や商業などの各種統計データをヒートマップ形式で確認できます。需要の濃淡が直感的に把握できます。
【出典】オリックス銀行のプレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000065.000003922.html
投資家と業者の「情報格差」を埋めることで不安や課題の解消を目指す
他にも下記のようなサービスは、投資する物件やエリアを選ぶ際の参考になりますね。
・「おうちダイレクト」(ヤフー・ソニー不動産)
ソニー不動産とソニーのR&D部門が共同開発した高精度のシミュレーターを用いて、マンションの売却推定額をすぐに知ることができる機能を提供しています。運営はヤフーとソニー不動産。こちらも現在のサービスエリアは1都3県に絞られていますが、時期や景気、エリアの地価変動など様々な要素も考慮に入れた最新の推定額を算出してくれるため、物件の購入・売却のタイミングや同エリアの不動産価格を知りたい場合は参考にできるでしょう。
・「IESHIL」(リブセンス)
同社が蓄積してきた約9,000万件の賃貸情報や売買履歴などのビッグデータをもとに、マンション査定価格が分かるサービスを提供しています。住所や駅名のほか、マンション名などのフリーワードからも検索可能です。またマンションごとの災害リスクや、学区情報なども掲載されています。会員登録をすると、部屋ごとの査定価格や、将来にわたっての査定価格の変動予想などを閲覧できるようになります。対応エリアは1都3県(東京都、神奈川県、埼玉県、千葉県)に限定されていますが、中立的な立場から物件を多角的・客観的に定量評価しているため、同エリアで不動産投資を行う際は参考になるサービスといえるでしょう。
このように、各社が長年蓄積してきた大量のデータを分析することで、プロの「目利き」に近い査定能力を持つAIが登場してきています。
先に挙げたオリックス銀行では、こうした流れの本質を表すようなコメントを発表しています。
不動産投資におけるさまざまな情報を一元化してご提供し、不動産投資に対するローン返済リスクを可能な限り「見える化」することで、お客さまの不動産投資における「不安」や「課題」の解消に貢献します
【出典】オリックス銀行のプレスリリース:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000065.000003922.html
ニュースで報じられているように、昨今の不動産投資市場はその不透明性が問題視されています。銀行もしばらくは不動産投資関連の融資には慎重にならざるを得ないでしょう。
しかし、このようなAIを活用したサービスによって投資家と業者との「情報格差」を埋めることができれば、業界全体の透明性を担保し、健全化を図ることができるのではないでしょうか。それこそが「投資家が今までよりも効率的な投資が行なえる」こと以上に価値のあることであり、不動産投資分野において、AIに期待されていることなのかもしれませんね。
まとめ
サラリーマンの副業として注目されるAI投資、そして不動産投資。どちらも投資家にとっての関心事は「いかに時間や手間がかからないか」です。ただ最近、不動産投資業界では業者を信頼して任せた結果、望まぬ結果を招いてしまった投資家が続出しています。その分、投資家達に信頼できる公平な情報を提供し続けることができれば、今後投資市場で存在感を示していくことができるでしょう。
スマホアプリ一つで公平な情報を取得し、家賃収入が得られる時代が待ち遠しいですね。