見込顧客を“顧客”へ!不動産業界におけるエンゲージメント・マーケティング事例

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見込顧客を“顧客”へ!不動産業界におけるエンゲージメント・マーケティング事例

はじめに

不動産に特化したデジタルマーケティングのサービスを展開する企業に、株式会社プライムクロス(以下、プライムクロス)があります。プライムクロスが取引先企業へ提供しているのは、インターネット&不動産に特化した広告サービスです。

さらなる広告サービスの強化を図るため、プライムクロスは株式会社マルケト(以下、マルケト)が提供するエンゲージメント・マーケティングプラットフォーム『Marketo』の活用を発表しました。2017年12月の出来事です。

プライムクロスが導入した『Marketo』は、不動産仲介やマーケティングの自動化を強化し、見込顧客を“顧客”へと変化させる手法として高い効果を発揮します。

  • 具体的には、どんな効果なのか。
  • そもそも、株式会社マルケトとは何か。
  • エンゲージメント・マーケティングとは。

この記事は、それらの疑問に丁寧に答えていく記事です。エンゲージメント・マーケティングの効果については、ソニー不動産、野村不動産、日本エスリードなどの成功事例を取り上げ、具体的に解説していきます。

目次

エンゲージメント・マーケティングを提唱するマルケトとは

マルケト: https://jp.marketo.com/company/

マルケトとは、全世界に6,000社以上の顧客を持つソウトウェア企業です。最高マーケティング責任者(CMO)のスティーブ・ルーカス氏(Steve Lucas)は、2017年8月に開催された「THE MARKETING NATION SUMMIT」で次のように述べています。

誰も、マーケティングされたいと思っていない。しかし、誰もが、エンゲージされたいとは思っている

エンゲージという英語には、「会話やディスカッションに(誰かを)巻き込む」「参加する、関わりあう」という意味があります。

2006年の創業より、マルケトが一貫して訴えているメッセージは、この“エンゲージ”の重要性です。

エンゲージメント・マーケティングとは

Tech Book Zone "Manatee":https://book.mynavi.jp/manatee/detail/id=63875

ひとことで説明すると、「相手(消費者や顧客)を理解しようという意図を持ってマーケティングをする手法」のことです。

マルケトによると、私たちが1日に目にするメッセージの数は約3,000を超えるにもかかわらず、その日の終わりに思い出せる数はたったの4つなのだとか。

不動産会社の広告(マーケティング)担当者の立場になって考えると、「自社のメッセージを、たった4つのメッセージの内の1つにするにはどうしたらよいか」が気になるポイントです。

記事の冒頭でご紹介したプライムクロスの『Marketo』導入発表は、その問いの解として、代表的な事例といえます。プライムクロスは、取引先企業にとっての、「自社のメッセージをたった4つのメッセージの内の1つにする」ための手段として、エンゲージメント・マーケティングの導入を決めたのです。

どうしてでしょうか。プライムクロスに代表されるような、不動産の広告サービスを提供する企業や、そのサービスを利用する不動産会社は、エンゲージメント・マーケティングの何に期待を寄せているのでしょう。次に、その理由を解説していきます。

企業がエンゲージメント・マーケティングに期待を寄せる理由

エンゲージメント・マーケティングの特徴が、インターネットの普及以来、徐々に明確になってきたマス・マーケティングの問題点を補うから、とされています。この考察で重要なことは次の点です。

マス・マーケティングほどの広告費を捻出することなく、マス・マーケティング以上の効果を期待できる

その効果に、いま、不動産業界でも期待が寄せられています。具体的なエンゲージメント・マーケティングの効果を紹介する前に、マス・マーケティングの問題点を整理していきましょう。問題点をしっかりと理解しなければ、エンゲージメント・マーケティングの効果を最大化できないためです。

マス・マーケティングの3つの問題点

問題点は、大きくわけると次の3つだとされています。

  1. マス・メディアの視聴者数が減っている
  2. 企業の一方的な発信が嫌われつつある
  3. 「第ゼロの瞬間」を生かせていない

1つずつ見ていきましょう。

1.マス・メディアの視聴者数が減っている

テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などを視聴する人の数が減っていることで、これまでのようなマス・マーケティングの効果が期待できない、という問題です。

総務省が2016年に行った調査によると、「20〜30代の5人に1人はリアルタイムでのテレビ視聴をしない」という結果が出ています。この傾向は10代になるとさらに進み、割合は約3人に1人です。下のグラフをご覧ください。

出典元:『総務省・平成28年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書』より
http://www.soumu.go.jp/main_content/000492876.pdf

10代では2014年を境に、20代では2013年を境に、インターネットの利用時間がテレビの視聴時間を上回っています。この調査結果からわかることは、「テレビ広告に、これまでの効果が期待できない」というマス・マーケティングの問題点です。この傾向は、ラジオや新聞といった媒体でも表れています。

同調査によると、全年代のラジオ平均視聴時間は1日17分、新聞ではさらに短い10分という結果でした。

視聴者のマス・メディア離れは、マス・マーケティングのはたす役割が限定的になりつつあることを示しています。

2.企業の一方的な発信が嫌われつつある

インターネットの普及に伴い、企業の一方的な都合による情報発信(コミュニケーション)は嫌われつつあります。

経営コンサルタントの酒井光雄氏が、著書『全史×成功事例で読む「マーケティング」大全』のなかで次のように述べています。

企業側の一方的な都合による情報発信を用いたコミュニケーションでは、消費者に見てもらえなくなるだけではなく、場合によっては嫌われる原因になる

インターネットが登場する以前は、消費者が情報を得る手段はマス・メディアや書籍などに限られていました。そのため、企業が一方的に発信する情報が、消費者にとって重要な情報源でした。

ところが、インターネットの普及率が国民の83%(総務省の平成28年度版情報通信白書より)に達した現在は、自分がほしい情報を自分で手に入れられる時代です。この時代の変化は、「一方的に発信される企業の情報が消費者にとって重要な情報源ではなくなった」ことを意味しています。

重要ではない情報であるダイレクトメールに嫌気がさした体験は、多くの読者が持つ共通体験ではないでしょうか。「場合によっては嫌われる」とする酒井氏の主張には、専門家でなくてもうなずける部分があります。

3.「第ゼロの瞬間」を生かせていない

みなさんは、「第ゼロの瞬間(Zero Moment of Truth=ZMOT)」をご存知でしょうか。

「第ゼロの瞬間」とは、2010年にGoogleが発表したマーケティング概念です。「商品やサービスに触れる前に、見込顧客がそれらに関する調査をしている段階(瞬間)」(『Winning the Zero Moment of Truth eBook (2011) - Think with Google』より)を指しています。

ここでいう見込顧客とは、“あともう少しで顧客になりそうな消費者”のことです。具体的にいうと見込顧客は、商品やサービスの購入予定があったり、そのための比較検討をしていたり、興味があったりする状態にいます。

2011年にGoogleが5,000人に対して行った調査(『The Zero Moment of Truth Macro Study – Think with Google』)によると、「購入の意思決定を後押ししてくれる体験」としてもっとも多かった回答(84%)が、「第ゼロの瞬間」でした。

この調査結果から、「購買の意思決定に大きく関与しているのは、インターネットで商品の情報やレビューを調査しているときである」ことがわかります。

「第ゼロの瞬間」を生かした、一人ひとりへのマス・マーケティングは難しいため、現代ではマス・マーケティングの問題点とされています。

ここまで述べてきた3つの問題点に対し、エンゲージメント・マーケティングはとても有効です。その理由は、エンゲージメント・マーケティングの特徴にあります。

エンゲージメント・マーケティングの2つの特徴

特徴は、大きくわけると次の2つだとされています。

  1. 長期にわたって相手と信頼関係を築ける
  2. オンライン上の見込顧客を“顧客”へと育てられる

1つずつ見ていきましょう。

1.長期にわたって相手と信頼関係を築ける

無印「くらしの良品研究所」:https://www.muji.net/lab/

身近な企業の導入事例でご説明しましょう。

たとえば、生活雑貨を中心に小売販売を展開している無印良品は、会員顧客からの「もっとこうしてほしい」や、「こんな商品があったらいいのに」という声をきっかけに、信頼関係を築いています。

暮らしの良品研究所というウェブサイトを運営し、そのなかに設けているのが『IDEA PARK』というコミュニケーションの場です。無印良品は、『IDEA PARK』に寄せられた会員顧客からの要望を1つひとつ検討しています。そのうえで実践しているのが、以下のような対応です。

  • 要望された商品が既存商品として存在する場合は【販売中】
  • 改良希望に応える場合は【見直し中】
  • 要望された商品の開発が完了した場合は【できました】

これは、顧客を理解しようとするもので、相互コミュニケーション(エンゲージ)を重要視した企業の取り組み事例です。顧客の立場になって考えると、「この企業は自分の声を聞いてくれるんだ」という安心感へつながります。安心が継続して得られることにより、顧客は次第に期待します。期待とは、たとえば以下のようなものです。

  • 「次も意見を伝えると応えてくれるのではないか」
  • 「何かあっても、コミュニケーションをとれば改善してくれるんじゃないか」

無印良品はそうした期待に応えることで信頼を厚くし、顧客と信頼関係を築きました。この信頼関係は、“会員”のような長期的な関係を育てる上で、大きな手助けとなります。

2.オンライン上の見込顧客を“顧客”へ育てられる

不動産業界で考えてみましょう。たとえば、マンション購入を考えている見込顧客を“顧客”へ育てられるとは、次のような施策のエンゲージメント・マーケティングを指します。

「自社のウェブサイトで過去に数回以上、マンションAの価格ページを見ている見込顧客」を対象にし、「翌月のモデルハウス来場予約の案内を送ること」「マンションAに似た条件のマンションBの案内を送る」

情報を受け取った見込顧客は、その情報を生かして自ら調べたり検討したりして(「第ゼロの瞬間」の生かして)、不安要素を1つひとつ解消するでしょう。すべての不安が解消し、安心できたときに、いよいよ“顧客”へと変貌をとげるのです。

この変貌は、不動産会社の立場になって考えると、「エンゲージメント・マーケティングの働きかけによって、オンライン上の見込顧客を“顧客”へ育てた」と解釈できます。

つまり、エンゲージメント・マーケティングの2つの特徴からいえることは、こうです。

エンゲージメント・マーケティングを取り入れることで、企業は、オンライン上の消費者を顧客へ育て、その顧客と、長期的な信頼関係を築くことができる

さらに、見逃せない点があります。エンゲージメント・マーケティングの2つの特徴が、不動産業界の特徴と大変によい相性を見せている点です。次は、不動産業界でエンゲージメント・マーケティングの効果が期待される理由、その背景にある不動産業界の特徴を明らかにします。

95%は「モデルルームに行きたい」が、その約60%は「強い売り込が不安」

不動産業界の特徴を示す、興味深いデータがあります。やや古いデータですが、東急不動産が2013年に行った「住宅購入に関する意識調査」によると、住宅購入を考えている人の約80%が住宅購入に不安を抱えています。以下が、不安要素の一例です。

  • 資金計画やローンの選び方がわからない
  • 物件の見分け方やチェックすべき項目がわからない

さらに、この調査では次のようなこともわかりました。

住宅購入を考えている人の約95%は「モデルルームへ行きたい」と答えたが、その約60%は「モデルルームへ行った際、あるいはその後に、営業担当者から強く売り込まれることが不安」

不安要素を払拭する鍵となるのは、信頼関係です。相手と信頼関係を築ければ、「モデルルームへ行った際、あるいはその後に、営業担当者から強く売り込まれることが不安」と答えた60%の不安を取り去れ、その60%をモデルルームへ送客することができるかもしれません。これが、エンゲージメント・マーケティングの効果を不動産業界で期待できる最大の理由です。すでに業界内では具体的な成果が報告されています。

お待たせしました。不動産業界における、3つの導入事例のご紹介です。

マルケトのサービスを導入した日本エスリードの事例

日本エスリード株式会社のエンゲージメント・マーケティング導入事例です(『マルケト公式ホームページお客様事例:エスリード株式会社』より)。日本エスリードは、マルケトの『Marketo』を導入したことで以下のような成果を挙げています。

  • メール配信の作業量が4分の1に
  • 成約率が2%(金額換算24億円)増

『Marketo』を導入した日本エスリードが何をしたかというと、見込顧客のオンライン上での動きに合わせたエンゲージメント・マーケティングの強化でした。

1992年の創業以来、日本エスリードは、積極的にエンゲージメント・マーケティングに取り組んできました。しかし、悩みのタネとしてあったのがメール配信の作業量です。

  • 6物件のマーケティングを一人の担当者が担当
  • メール配信の手順が5つ以上あり煩雑

上記のような状況に、頭を悩ませていました。そこで、導入したサービスが『Marketo』です。結果として、日本エスリードはこれまでの効果を維持しつつも、メール配信の作業量を4分の1にすることへ成功しました。それだけではありません。

成功したメルマガなどの施策を簡単に横展開できる仕組みのお陰で、『Marketo』導入以前に比べ、成約率が2%向上しました。顧客単価を3,000万円と仮定すると、金額換算で24億円もの売上差が出る計算です。

マルケトのサービスを導入した野村不動産の事例

マルケトのサービスを導入した事例を、もう1つご紹介します。野村不動産のプラウドシティ武蔵野三鷹です。300戸を超えるプラウドシティ武蔵野三鷹の物件において、マルケトのサービスを活用した野村不動産は、以下のような成果を挙げました(『ITproマーケティング野村不動産がマンション販売にMA活用・見込み客の購入意欲の変化を掴み「来場」を促す』より)。

  • メルマガの開封率が1.5倍
  • 来場率が11%増
  • 契約率が約2倍

サービス導入後に野村不動産が何をしたかというと、見込顧客への適切なアピールでした。たとえば、プラウドシティ武蔵野三鷹の近隣に住んでいない見込顧客へ、「この物件は住みたい街として人気の吉祥寺の近くですよ」とアピールします。土地勘のある近隣住民にアピールしたのは、プラウドシティ武蔵野三鷹の建物の素晴らしさでした。

「自社の会員組織」「不動産ポータルサイト」「ネット広告」を使って集めた3,700件ほどの資料請求済みの見込顧客へ、根気よくエンゲージメント・マーケティングを実践したことで、野村不動産はメルマガの開封率を1.5倍にしました。これをきっかけに、来場率や成約率を向上させたのです。

セールスフォースのサービスを導入したソニー不動産の事例

エンゲージメント・マーケティングの導入事例として最後にご紹介するのは、ソニー不動産の事例です。ソニー不動産は、セールスフォース・ドットコム(Salesforce)の提供する『Pardot』というサービスを導入し、エンゲージメント・マーケティングを実践しました(『Salesforce公式ホームページ導入事例ソニー不動産』より)。 以下のような成果を挙げています。

  • 反響数が6ヶ月で2.5倍
  • 新サービスの開発期間が3分の1に

セールスフォース・ドットコムは、顧客との関係を改善するサービスの先駆者です。彼らの提供するサービス『Pardot』を導入したソニー不動産が何をしたかというと、見込顧客にとって最適なタイミングで、最適なメッセージを発信することでした。そのために、ソニー不動産はメールの開封率やリンクのクリック率を分析しました。結果として、反響数は6ヶ月で2.5倍になったのです。

副次的な効果も得ました。新サービスの開発期間が3分の1に短縮されたのです。これまで、実装やテストも含めて3ヶ月間かかっていた開発期間が、『Pardot』を導入することで2ヶ月間も短くなりました。

まとめ

2010年にGoogleが行った調査では、「見込顧客が店頭に行く前に閲覧するサイトの数」は5.27でした。この数は、2011年の調査で10.4へ増えています。1年で約2倍。調査結果からは、店頭に行く前の「第ゼロの瞬間」の重要性を再認識できます。

見込顧客は、商品に関する調査をするときに、いろいろなサイトの情報を比較し、検討しているのです。なぜか。信用できる利用者のクチコミ増加、SNSの発達などが要因ではないでしょうか。それらには、企業の一方的な都合による情報発信がほとんど含まれていません。含まれていたとしても、コミュニケーションから生まれる信頼関係によって、不安要素は1つひとつ解消されていくはずです。

不動産売買を考える見込顧客の立場ならどうでしょうか。賃貸なら、部屋探しをする見込顧客の立場になって考えてみてください。彼らが、信用できる情報を得ようと「第ゼロの瞬間」へアクセスしたとします。そのとき、御社は彼らを巻き込むようなコミュニケーションをしていますか。そのコミュニケーションは、自社の一方的な都合による情報発信になってしまってはいませんか。

少しでも不安を覚えるようなら、エンゲージメント・マーケティングの導入を真剣に考えるときです。

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