顧客をつかんで離さない商業施設DXの世界
- 商業施設のDX化が進み、革命的な変化をもたらしている。
- 商業施設のDX化はメリットが多く、多くの企業が導入をしている。
- 顧客との接点をオンラインとオフラインで強化し、データ分析を基に売上規模の拡大、効率化を目指している。
実用度が高まり活用が進む商業施設のDX
商業施設におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)は、小売業界に革命的な変化をもたらしています。今回は商業施設がどのようにDXを推進し、ビジネスに活用しているのかを見ていきましょう。
はじめに知っておきたい商業施設をDX化するメリットとデメリット
はじめに、商業施設のDX化におけるメリットとデメリットを整理してみましょう。商業施設をDX化することによるメリットは次のようなことが挙げられます。
- 顧客体験の向上:DXにより、顧客はより効率的で便利なショッピング体験を享受できます。自動支払い、パーソナライズされたオファー、迅速なカスタマーサポートなどが可能となります。
- データ活用: DXは顧客のデータを収集・分析し、購買傾向を理解し、予測分析に活用する機会を提供します。これにより、商品調達や在庫管理が最適化され、需要予測が向上します。
- 効率化:プロセスの自動化、在庫管理の最適化、従業員の生産性向上など、DXにより業務プロセスが効率化され、コスト削減が可能となります。
- オンライン・オフラインの融合:DXはオンラインとオフラインの販売チャネルを統合し、顧客にシームレスなショッピング体験を提供します。顧客は店舗での試着後にオンラインで購入するなど、複数のチャネルを自由に行き来できます。
- 競争力の獲得:DX化された商業施設は、市場競争に対応しやすく、新たな顧客層を獲得しやすい競争力を持ちます。
一方のデメリットは次のようなことが考えられます。
- セキュリティリスク:DXを推進することで データの取り扱いが増加、セキュリティリスクが高まります。顧客データの保護が不十分な場合、データ漏えいやサイバーアタックの脅威が存在します。
- コスト:DXプロジェクトは高額な投資が必要であり、予算オーバーランが発生する可能性があります。また、システムのアップデートやメンテナンスにもコストがかかります。
- 変更管理の難しさ:従業員や組織の文化への変化は難しいことがあり、DXプロジェクトを導入する際には、変更管理に関する課題が生じることがあります。
- 技術依存:DX化された商業施設は、技術に依存するため、システムの障害やアップデートの必要性に対処する必要があります。
- プライバシー問題:顧客データの収集と利用に関する倫理的な問題が浮上することがあり、プライバシーに関する懸念が生じることがあります。
総合的に考えると、商業施設のDX化には多くの利点がありますが、その一方で潜在的なリスクや課題も存在します。成功するためには、計画的なアプローチ、セキュリティ対策、変更管理の戦略などが重要です。
具体的な事例から商業施設DXを見ていこう
商業施設のDX化はどのように進んでいるのでしょうか? まずはPARCOの事例から見ていきましょう。PARCOはファッションビルの「PARCO」 を全国で展開する日本の企業。PARCO以外の商業施設も展開しています。
同社は決済とコミュニケーションでデータを取得し、CRMを回しています。PARCOは商業施設として顧客データの取得ができていませんでしたが、2019年PARCOポイントを導入して以降はデータを自社で取得できるようになりました。
ONLINE PARCOでは限定商品の販売なども行っている【出典】https://online.parco.jp/
PARCOでは、IDを持っていない顧客に登録を促し、稼働・ランクアップと維持で中長期にわたり経営を支える顧客資産の最大化を目指しています。販売時点情報管理(POS)レジのデータがなくても、いつどのお店でどんな人がいくら買ったかがわかる仕組みを用意しているのです。
データを取得することで顧客を理解し、どのような顧客がPARCOのファンになってくれるのか? ファンになってくれるとしたらどのタイミングなのか? を細かく分析しています。つまり、DXを実行した結果、CXの最適化・最大化を狙えるようになったわけです。同社は分析の結果、新規の顧客よりも長年通っている顧客が同社を支えていることがわかり、そのためのコミュニケーション施策をしているといいます。つまり顧客が常連化してくれれば、ビジネスとして成立がしやすくなるわけで、そのためにできる施策を打っていこうというわけです。
PARCOでは現在、デジタル広告およびコンテンツの活用を強化し、ショッピングセンター内のデジタルスクリーンを通じて広告キャンペーンの実施なども行うほか、オンラインとオフラインの販売チャネルを融合させ、顧客に多様なショッピングオプションを提供しています。DX戦略でテナントや顧客にとって価値のある場所としての地位を維持しているのです。
オンラインとオフラインの顧客接点をどうつないでいくのか
PARCOのような取り組みは他社も行っています。三井不動産も以前から「三井ショッピングパークアプリ」や公式通販サイトなどをリリースし、ネットで買った商品を「ららぽーと」などの商業施設で受け取れるサービスなどを行ってきました。
オフラインの優位性も活用しており、同社では商業施設の「ららぽーと」に3D骨格診断サービスを設置しています。これはスキャナーで全身を測定し、体形タイプを出し、自身のスマホで確認できるというもの。さらに、アプリを通じてお得なクーポンを提供し、来店者を引き寄せ、店舗のインフォメーションやナビゲーションサービスも表示しています。オフラインでないとできないことはオフラインで、オンラインで便利なところはオンラインで行うという「いいとこどり」を多くの商業施設が実行し、成果を出し始めているのです。
「三井ショッピングパーク ららぽーと海老名」に2023年12月にオープンした「LaLaport CLOSET海老名」では3D骨格診断などの診断体験サービスを用意する【出典】https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000570.000051782.html
これらの取り組みはオムニチャネルとも呼ばれています。異なる販売チャネル間でのシームレスな顧客体験を提供するアプローチで、物理店舗とオンラインストア、モバイルアプリなど、複数のチャネルを統合し、顧客に一貫したサービスを提供します。オフラインとオンラインを融合する上で特に多用されるのがPARCOや三井不動産が行っているようなモバイルアプリです。顧客はアプリを通じていつでもどこでもショッピング体験を享受でき、購買プロセスが効率化されています。
モバイルアプリ活用によって、企業はデータ分析とパーソナライゼーションが可能となります。顧客に適した製品推薦やプロモーションが可能になります。パーソナライズされた体験は顧客のロイヤリティを高め、長期的な顧客関係の構築に寄与しています。
また家電量販店などが特に推進しているシームレスな在庫管理もオムニチャネル戦略を成功させる上で重要です。在庫管理システムを統合し、オンラインとオフラインの在庫情報をリアルタイムで同期させ、どのチャネルからでも在庫確認などを できるようにします。
テクノロジー活用としてはほかにも、人工知能(AI)を用いて在庫をリアルタイムで追跡し、需要予測を行うシステムを導入するケースや、セルフレジを導入し、顧客が自分で商品をスキャンして支払いを行うシステムが広がっています。
DX化、オムニチャネル化によって、商業施設は従来のビジネスモデルを大きく変革し、新たな顧客体験を提供し、効率化やサステナビリティを追求できるようになってきました。今後はさらに、この動きが加速する中で例えばよりオンラインとの接点をつくりやすい設備設計などが建物にも求められてくるかもしれません。