不動産取引で水害リスクが重要事項説明に追加、義務化へ。ハザードマップ3Dやプラトーを活用しよう

- 大規模水災害の頻発により宅建業法が改正、不動産取引の重要事項説明に水害リスクの情報が追加される。
- ①洪水、②雨水出水(内水)、③高潮のリスクの説明が必須となる。該当地域のハザードマップをチェック。
- ハザードマップ3Dやプラトーの活用で、立体的でよりリアルな水害リスクの説明が可能になる。水害リスクの説明には不動産テックで対応を
宅建業法の改正で不動産の重要事項説明に水害リスクの情報を追加
2020年7月17日、国土交通省は宅地建物取引業法施行規則の一部を改正し「不動産取引で対象となる不動産が、水防法に基づき作成された水害ハザードマップ上のどこに所在するか」を宅建士の重要事項説明に追加することを発表しました。
重要事項説明 は宅建業法第35条において不動産を購入もしくは借りようとする人に対して、登記されている権利・法令による制限など宅地建物に関する事項と売買代金・手付金や敷金の額・契約解除・損害賠償の予定・違約金など取引の条件について伝えるものです。
業者として、売買・賃貸の契約が成立する前に必ず説明しなくてはいけません。
国土交通省のホームページには「近年、大規模水災害の頻発により甚大な被害が生じており、不動産取引時においても、水害リスクに係る情報が契約締結の意思決定を行う上で重要な要素となっている」ことから重要事項説明の対象項目として追加すると記されています。
台風・豪雨・大雨に伴う土砂災害など水害が急増
2014年以降に、国内で起きた自然災害は以下のとおりです。
【画像出典】総務省「2022年度版情報通信白書 今後の日本社会の展望」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/html/nd121130.html
大規模水災害(豪雨・台風による浸水・大雨による土砂崩れなど)が頻発化・激甚化の傾向にあります。
水害リスクが分かる!ハザードマップとは
水害リスクの説明に使用する「ハザードマップ」は、洪水・土砂災害・高潮・津波のリスク情報、道路防災情報などを調べることが可能です。
ハザードマップには、①洪水②内水③高潮④津波⑤土砂災害の5種類があります。
宅建業法の改正で重要事項説明に追加されたのは、①洪水、②雨水出水(内水)、③高潮の3つの水害で す。
内水とは「大雨が発生した時に下水道などに雨水を排水できないことまたは下水道などから公共の水域に雨水を排水できないことによる出水」を意味します。
ハザードマップを公表しているのは、地方自治体と国土交通省です。
地方自治体のハザードマップは各市町村のホームページで公開しています。以下は神戸市のハザードマップ(神戸市中央区波止場町付近)です。
【画像出典】神戸市「神戸市情報マップ」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://www2.wagmap.jp/kobecity/PositionSelect?mid=19
土砂災害警戒区域と特別警戒区域・河川の洪水による浸水想定区域・内水氾らんによる浸水想定区域を重ねて表示しています。説明義務のある水災を1つの図で示すことが可能です。
神戸市のように重ねて表示できない地方自治体もあります。紙のハザードマップや国土交通省のハザードマップと組み合わせて利用しましょう。
国土交通省の「重ねるハザードマップ」は、①洪水②内水③高潮④津波⑤土砂災害の5つを重ねて表示できます。
【画像出典】国土交通省 国土地理院「重ねるハザードマップ」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://disaportal.gsi.go.jp/maps/
上図も神戸市中央区波止場町付近で、洪水・高潮・津波・土砂災害が表示されています。
ハザードマップの入手方法
地方自治体と国土交通省のハザードマップは、以下のハザードマップポータルサイトからアクセス可能です。
ハザードマップポータルサイト
https://disaportal.gsi.go.jp/
地方自治体のハザードマップはサイト画面右側の「わがまちハザードマップ」から調べることが可能です。紙での配布を行っている自治体もあります。
国土交通省のハザードマップはサイト画面左側の「重ねるハザードマップ」で不動産が所在する地域を検索しましょう。
地方自治体のハザードマップは洪水・土砂災害に関しては多くの市区町村が公表済ですが、高潮や内水については未公表の市区町村が多いという現状があります。
【画像出典】国土交通省 ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会「第1回ハザードマップに関する現状と課題」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/universal_design/pdf/siryou7-1.pdf
地方自治体のホームページで入手できない場合には、役所に問い合わせるもしくは国土交通省のハザードマップを活用しましょう。
防災アプリでハザードマップを閲覧できる地域も あります。
水害リスクを3Dで、より分かりやすく説明するための3つのツール
水害は「建物のどこまで浸水するのか」「浸水する場合の深さ」など平面図では被害が分かりにくい傾向にあります。
説明する際には、重ねるハザードマップ3Dやプラトー・地方自治体が提供するアプリなど不動産テックを用いることでリアルに分かりやすく伝えることを目指しましょう。他社との差別化も期待できます。
ここでは水害リスクを分かりやすく説明するための、3つのツールをお伝えしていきます。ツールは全て無料で利用可能です。
- 重ねるハザードマップ3D
- プラトー
- ARを活用したスマホアプリなど地方自治体の独自の取り組み
1.重ねるハザードマップ3D
国土交通省の「重ねるハザードマップ」は3D版があります。
【画像出典】国土交通省 国土地理院「重ねるハザードマップ」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://disaportal.gsi.go.jp/maps/
上の図は2D、下の図は3Dです。スクリーンキャプチャでは分かりづらいかもしれませんが、下の図の方が立体的で特に黄色の土砂災害が起こる可能性のある場所が立体的に見えます。
2.プラトー
国土交通省の日本全国3D都市モデルの設備・オープンデータ化プロジェクト「PLATEAU(プラトー)」では、3D 都市モデルのオープンデータを一般公開しています。
2023年8月現在117市町村のオープンデータが公開中です。利根川水系の洪水浸水想定区域モデルを示した地域のスクリーンキャプチャを見てみましょう。
【画像出典】国土交通省「PLATEAU(プラトー)オープンデータ」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://plateauview.mlit.go.jp/
建物の高さも表示されていますので、洪水被害があり浸水してしまった際には「どの建物がどの位の高さまで水没する予測なのか」を確認できます。
あくまで想定されたデータであり、実際の水害とは異なる可能性があります。しかし買主や借主に対して、詳細に水害リスクを説明したい時には役立つでしょう。
3.ARを活用したスマホアプリなど地方自治体の独自の取り組み
東京島葛飾区では「葛飾区新小岩北地区ゼロメートル市街地協議会」が、これまで平面情報(2次元)でしか表現できなかった洪水時における区内各所の浸水状況を、立体的な情報(3次元)で表現するスマートフォン用のアプリ「天サイ!まなぶくん」を開発しました。
【画像出典】国土交通省 ハザードマップのユニバーサルデザインに関する検討会「第1回ハザードマップに関する現状と課題」よりスクリーンキャプチャにて作成
【URL】https://www.mlit.go.jp/river/shinngikai_blog/universal_design/pdf/siryou7-1.pdf
「天サイ!まなぶくん」はスマートフォンやタブレット端末のカメラから取り込んだ映像に、洪水ハザードマップで表示している浸水深のイメージ映像を重ね合わせて表示しています。
また、広島県広島市ではひろしま避難誘導アプリ「避難所へGo!」を提供しています。
現在地に避難情報が発令されると、開設する最寄りの避難所への避難ルートをボタン1つで検索可能です。地元住民だけではなく通勤・通学者や旅行者も、開設している避難場所がどこにあるのか視覚的に把握できます。
【画像出典】広島県広島市「広島市避難誘導アプリ『避難所へGo!』ルート表示機能の使い方」よりスクリーンキャプチャにて作成【URL】https://www.city.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/117018.pdf
土砂災害警戒区域・洪水・津波・高潮などの危険区域を地図上で表示し、確認できる機能もあります。
不動産が所在する地方自治体のホームページで、災害関連のアプリや情報サイトの有無を調べてみましょう。
水害リスクの説明義務化には、不動産テックで対応を
水害リスクの説明義務化で「ハザードマップで説明するのが大変」「ひと目で分かるツールは無いのだろうか」とお困りの事業者は多いのではないでしょうか。
ハザードマップを用いた説明も可能ですが、ハザードマップ3Dやプラトーなど不動産テックの活用でより分かりやすくリアルな情報提供をしてみてはいかがでしょうか。
執筆者/田中あさみ FPライター。大学在学中に2級FP資格を取得、医療系の仕事に携わった後ライターに。CFP(R)相続・事業承継科目合格。全科目合格に向けて勉強中。
金融・フィンテック・不動産・相続などの記事を多数執筆。
ブログ:https://asa123001.hatenablog.com/
Twitter:https://twitter.com/writertanaka19