ZoomではなくLINEを活用する理由

都心へのアクセスが抜群。都会的な雰囲気と下町の雰囲気の両方を持ち合わせ、幅広い年齢層から人気の高い三軒茶屋に店舗を構える「三軒茶屋不動産株式会社」では、仲介だけでなく売買も手がけており、今回のコロナ禍では「テレワークのために賃貸をやめて部屋数の多いマンションを購入したい」というお客様が数多く来店されたようです。
今回は、代表の久保氏にインタビューを行い、不動産テクノロジーの導入事例やコロナ禍における変化などについて伺いました。
■会社概要及び事業内容
SUMAVE:御社の事業内容を教えていただけますか。
久保氏 : 三軒茶屋不動産株式会社の久保と申します。弊社は、三軒茶屋駅周辺・田園都市線・世田谷線・小田急線沿線など幅広いエリアで不動産売買及び仲介を行なっています。集客に関しては、賃貸はポータルサイトや自社ホームページ、売買はチラシやポスティングが中心となっています。自社物件はそれほど多くないので、他者の管理物件の仲介をメインに行っています。
■不動産事業におけるコロナ禍、コロナ前での業績の変化について
SUMAVE:コロナ禍で売上や反響、お客様の要望に変化はありましたか?
久保氏 : 緊急事態宣言直後は来店を躊躇されるお客様も多く、一時的に来店数は減少しました。しかし、繁忙期前後には例年通り多くのお客様にお越し頂くことができました。コロナ禍での要望の変化としては、今まで賃貸に住んでいて、「テレワークをするためもう1部屋多いマンションを購入したい」というお客様が多くいらっしゃったことです。直近3年間はマンションの価格が上がり続けており、長期的に購入を検討されているお客様は、なかなか購入に踏み切れなかったので、コロナ禍におけるマンション需要はとても大きな変化でした。
■LINEビジネスアカウントを駆使した新たな接客で顧客満足を目指す
SUMAVE:御社の不動産テクノロジーの活用について教えてください。
久保氏 : 弊社では、内見やIT重説でLINEを利用しております。時間がなくて来店出来ないお客様や遠方にお住まいのお客様に対して、LINEを利用して、現地で撮影した動画をお見せしたり、ビデオ通話を利用して遠隔案内を行なっております。このLINEによる案内のおかげで、以前はお部屋を全く見ないで契約されていた遠方のお客様にも、納得出来るまでお部屋を見て頂き、安心してご契約頂けるようになりました。IT重説に関しても、ご来店が難しいお客様に対してはZoomではなく、LINEのビデオ通話を利用して行なっております。
SUMAVE : IT重説をZoomではなくLINEで行うのは何か理由があるのですか?
久保氏 : Zoomはパソコンをお持ちでなかったり、パソコンを使ったことのないお客様にとってはハードルが高いツールです。一方、LINEでしたら年配の方も多くご利用になられているので、パソコンよりも気軽にご利用頂けるのではないでしょうか。
SUMAVE : LINEはいつ頃導入されたのですか? 肌感で結構ですので、御社の重説におけるLINEと来店の割合を教えてください。
久保氏 : LINEビジネスアカウントを導入したのは約2年前です。重要事項説明では、漏れがあってはいけないので、原則として近郊のお客様はLINEではなく出来る限り来店をお願いしております。それでも、一昨年は契約全体の僅か数パーセントでしたが、今は2割程度まで増加しました。これも、コロナ禍によるIT化の加速と言えるのではないでしょうか。
SUMAVE : LINEでの情報は社内で共有されているのですか?
久保氏 : そうですね。全社員がLINEのビジネスアカウントを持っていて、全てのメッセージを共有しています。ですから、担当営業が休みだった場合でも、他のスタッフが代わりに対応するのでお客様をお待たせすることもなく、リアルタイムで情報共有ができるので非常に重宝しています。
■三軒茶屋不動産における不動産テック導入事例
SUMAVE : LINEを活用した接客は素晴らしいと思います。御社では、Web申込や電子契約などは取り入れていますか?
久保氏 : 弊社は、自社物件が少なく他社物件の仲介がメインです。ですから、管理会社がWeb申込を導入していればそれに従っております。電子契約も同様に管理会社が導入していれば行います。ただ、電子契約はまだまだ不便なことが多いです。
例えば、せっかくWeb上で契約が出来ても、重説のために書類を用意したり、保管するためにサインや記入が必要だったりして、結局紙が必要になるんですよね。現状では非効率なので、書類保管などの法整備を含めて、電子契約が浸透するには時間がかかると思います。
SUMAVE : 御社では、効率化のために他に何かテクノロジーを導入されていますか?
久保氏 : 来店やご契約頂いた顧客リストをWeb上で管理しております。売買物件に関する売却査定や周辺情報などを、今までは自分達で調査していましたが、今はWebから一括して取り寄せるサービスを利用しているので非常に効率的です。
他には物件を掲載をする際に、昔は現地で写真を撮影し、一度会社に戻ってPCデータを取り込んで、Web上にアップロードしておりましたが、今は現地で全て対応できるので、手間が少なくなったと感じています。
SUMAVE : 御社では、パソコンやタブレットなど、端末の支給はされているのですか?また、テレワークの導入は検討されていますか?
久保氏 : パソコンは一人一台支給しております。最近、不動産売買では、会社のタブレット端末にチラシや図面などを入れて、お客様のご自宅にお伺いして説明する機会も増えてきました。ただ、弊社は仲介がメインですから、お客様への応対が業務の要。そのため、どれだけ不動産テクノロジーが発達したとしても、完全にテレワークに切り替えるのは難しいと考えております。
■不動産業界とテクノロジーに関する今後の展望について
SUMAVE:こんな不動産テクノロジーが欲しいという希望はありますか?
久保氏 : 不動産仲介で最も時間がかかるのが、お客様への物件のご案内です。ですから、ここが効率化されたら良いなとは思います。例えば、自動ロボットがお客様の要望をお聞きして、最適な物件を選りすぐり、現地まで案内してくれるなど。でも、そうなると人間が全く必要なくなってしまいますね。
リアルに欲しいと思うのは、Web上での空室確認です。賃貸では半分以上がWebで確認できますが、売買では2割弱。それ以外は直接電話しなければいけません。もちろん、電話で直接確認したい要件が他にあれば構わないのですが「お部屋があるかないかだけを即座に知りたい」というケースが一般的です。Web上の全ての物件を、簡単に確認できるようなシステムが欲しいです。
また、先ほど電子契約に関してお話しましたが、契約書類も効率化が必要だと思います。特に、売買では同じことを何度も書かなければいけないので、肝心な質問が出来なくなるのは問題だと思います。
不動産業界でテクノロジーの導入が遅れている理由と改善案について
SUMAVE:業界全体として、テクノロジーの導入が他の産業と比較して遅れているという意見が多いのですが、久保さんはどうお考えですか。
久保氏 : 昔と比較して、今はWeb上で情報を収集できますし、ローン手続きも簡略化し、非常に便利になったと感じることは多々あります。しかし、保管書類が多く、ペーパーレス化には程遠い状況ですし、Webで全てが完結することはなく、管理会社とのやり取りでは今もFAXが欠かせません。ですから、もし、不動産業界全体のテクノロジー導入を加速させるのであれば、契約書類なども含めた法整備が欠かせないと思います。また、個人の小さな不動産会社ではテクノロジーの導入に対して多額のコストをかけることが難しいので、ハードルが高いものです。まず、大手の不動産会社や管理会社から不動産テクノロジーを積極的に導入し、加速させる必要があると考えています。
インタビュアー Rean Japan 高橋将人