不動産テック協会前代表(現顧問)、赤木正幸衆議院議員に聞く 不動産テック業界の最新動向と展望

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不動産テック協会前代表(現顧問)、赤木正幸衆議院議員に聞く 不動産テック業界の最新動向と展望

2年近くにわたって続く新型コロナ禍のなかで不動産業界のIT化は急速に進み、新たな不動産テックサービスも次々に登場した。不動産テックはこのまま不動産の現場に根付くのか。業界地図「不動産テックカオスマップ」を作成する一般社団法人不動産テック協会の前代表理事(現顧問)で、リマールエステート代表取締役社長、衆議院議員でもある赤木正幸さんに不動産テック業界の2021年の振り返りと、2022年の展望を聞いた。

あかぎ・まさゆき/1975年、岡山県出身。早稲田大学法学部卒業、同大大学院政治学研究科博士過程修了。2016年に不動産テック企業リマールエステート株式会社を創業。また、不動産テック協会を創設して代表理事となり、不動産テック業界をリードした。2021年、日本維新の会公認で第49回衆議院議員総選挙に出馬し、当選。



赤木正幸さん。オンライン取材の画面から

――2年近く続く新型コロナ禍のなかで、不動産業界全体のテックへの視線は変わりましたか?

オンライン会議などの基礎的なツールが浸透したことは大きな進歩です。これまで「足で稼ぐ」のが基本だった不動産事業者が、自分たちでもこういったツールを活用できると実感した。ウェブ会議に限って言えば、ある種の「小さな成功体験」がありました。これまでのような「直接会わなければ始まらない」という「思い込み」がなくなったのは大きな前進です。

――不動産テック業界には、どのような変化が見られましたか? オンライン会議のようなサービスは大きな成長が見られたと思います。

昨年の夏に、不動産テックカオスマップの最新版である第7版を発表しました。そのときに感じた最も大きなトピックスがARやVRなど非対面サービスの再増加です。実は、これらのサービスはテック化が進み始めた最初期、2017~18年ごろにブームの兆しがありました。テックとして「わかりやすい」のでサービスが増えたのでしょう。その後2年ほど動きが少なかったのですが、コロナ禍に入って再び急増した印象です。ただし、これらのサービスは不動産そのものの付加価値を高めているというより、「コロナで会えないから家で」という不動産サービスの付加価値として、対面の代替要素が大きかった。どんなに素晴らしいVRシステムを用意して完璧に使いこなしたとしても、決め手となるのは物件の良し悪しかもしれません。実際に成約につながるか、事業を成長させる上で有効だったか、というのはこれから検証が必要です。


2021年7月に公開された「不動産テックカオスマップ」第7版。446サービスが掲載されている

――逆に、民泊やシェアリングなどのサービスにはダメージがありましたか?

私も空間を共有することになるシェアリングサービスは激減すると予想していましたが、実はそうではありませんでした。確かに苦戦したり、撤退したりしたサービスもありましたが、新たに生まれたサービスも多く、サービス数で言えばむしろ増えています。同じシェアリングでも個室を使ったコ・ワーキングスペース、ホテルや別荘を中・長期で借りられるサービス、キャンピングカーをオフィス替わりに使うサービスなどが誕生しました。コロナがなければそこまでのバリエーションは増えなかったかもしれません。
シェアリングは長期的な「保有」ではなく「使用」の世界なので、世の中の動きに合わせた使い方が生まれやすい分野です。社会情勢に応じたサービスの変化やダイナミックな動きが見られるので、シェアリングサービスの動向を追うのはおもしろいですし、ビジネスチャンスのネタの宝庫ですね。

――不動産テックカオスマップ第7版の発表時には、「不動産テックが成熟期を迎えている」(不動産テック協会代表理事・巻口成憲さん)との発言もありました。新型コロナ禍が収まっても不動産業界全体のテック化はこのまま進むのでしょうか。

そう期待しています。これまで、一口に不動産テックと言ってもあらゆる分野のあらゆるサービスを一緒くたに考えている企業が多かったのですが、最近はIT化とDXを切り分けて議論する会社さんが出始めています。すごく簡単に言うと、IT化は業務効率を上げて作業時間を減らしたり、ひとりでより多くのミッションをこなしたりできるようにすること。DXはテックを使って新しいビジネスチャンスをつくったり、ビジネスの構造そのものを変えていったりという一歩進んだ世界です。
最近はここをしっかり理解して、「業務効率はだいぶ上がってきたから、次は機会創出を増やすサービスはないかな」と考えるような会社さんが増えました。これは大きな変化の兆しです。
「テックとは何か」という根幹がサービスを利用する側の不動産業者のなかで整理されてきていて、これ以上後退することはないのかなと感じています。

――不動産テックサービスのなかで、今後さらに伸びそうだと注目している分野はありますか?

新たな情報をとってきたり、集約したりするサービスですね。物件そのものの情報や地図情報、行政情報などは、これまであちこちに散らばっていてうまく集約されていませんでした。それをまとめるサービスが出始めているのは、すごく頼もしいです。
それから、不動産分野では注目されてこなかった新たな情報を取得して活用するサービスも今後生まれるかもしれません。個人的に興味があるのは、上空、場合によっては宇宙からの情報です。衛星画像を使えば、相当細かい単位で地上の情報を把握することができます。例えば空き家問題に活用できるでしょう。空き家問題は不動産業界の大きなトピックスのひとつですが、まずどこに空き家があるか把握するのが難しい。もちろんプライバシーの問題をクリアする必要がありますが、衛星情報を使って人の出入りを見れば、空き家の把握が進むはずです。ほかに、商業施設のマーケティングに活用できる情報も、衛星を使えばかなり取得できるでしょう。
不動産テックの周辺というか、別の領域と不動産テックが結びつくことで、さらにおもしろいサービス、言い方を変えると「儲けにつながるサービス」がまだまだ生まれるはずです。

――不動産テックサービスがさらに伸び、不動産業界全体の活性化につなげていくためには、どんなことが課題になってきますか?

これからも新たなサービスは生まれるでしょうが、まず一通りのサービスは出そろったと言えます。今後は、サービスを使う不動産事業者さんがそれをどう使いこなし、収益につなげていくかという結果ありきの不動産テックが必要とされます。「おもしろそうだし、とりあえず使ってみようか」というフェーズはもう超えていて、本当に効果があるのか、儲けにつながるのかが厳しく評価されるタイミングになってきました。不動産テックサービスを提供する企業にとっては、勝負どきです。
そして、サービスを使う不動産事業者側にも不動産テックを活用して儲けていく時代がやってきたので、やはり、勝負どきです。導入したテックサービスに本当に効果があったのか検証するのはもちろん、次に不動産事業者がすべきは予算の確保です。
これまで、不動産事業者にとって、ITの予算といっても「総務部がメールシステムとサーバーにいくらつかうか」程度のものだったんです。その状況からあまり変わっていない会社がまだまだ多い。昨年夏にアンケートしたときは、月に使えるIT予算が5~10万円程度という業者さんが多かった。電子契約サービスも、VRやARも、業務支援系のサービスも、同じ財布から5万円です。本来なら、業務効率を上げる不動産テックサービスのライバルは同じカテゴリーの業務効率化サービスのはずなのに、別の不動産テックカテゴリーのサービスがライバルになってしまっているんです。ものすごいレッドオーシャンです。「うちは電子契約サービスを入れているから、業務効率サービスは使えないや」ということが現実に起こっている。「そこに予算を使っても、業務が効率化されて処理能力が上がったり経費削減ができるし、新たな機会や収益も創出されてトータルではプラス。「ITの予算は単なる消費ではなく儲けにつながる投資である」というほかの業界では当たり前に乗り越えてきたことを、不動産業界はこれから乗り越えて行かなければなりません。


構成/川口穣

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