「コロナ前には戻らない、コロナは完全になくなることはない」という前提で完全テレワーク化を目指す

■取材先
横濱コーポレーション株式会社
エリア:横浜
従業員数:販売12名、管理15名の合計27名
事業内容:土地の購入、アパートの建築、販売、管理、売却
創業から9年目のベンチャー企業
SUMAVE:御社の事業内容を教えて頂けますか?
室伏氏 : 横濱コーポレーション株式会社、賃貸管理部の室伏と申します。弊社は、横浜を中心に、土地の購入からアパートの建築、販売、管理、売却までワンストップで行う、創業から9年目のベンチャー企業です。創業以来、業績は右肩上がりで推移しています。
■コロナ禍における業績の変化
SUMAVE : 今回のコロナ禍で、業績に変化はありましたか?
室伏氏 : 直近の5〜6月は若干落込みましたが、繁忙期は昨対比140%を記録し、トータルで昨対比100%以上をキープしています。
弊社は自社付けをせず、仲介業者さんに物件の紹介から契約業務までをお願いしています。今回のコロナ禍で、仲介業者さんの来店数や成約率は減少に転じました。しかし、弊社はそのような状況下であっても、新築物件が多いこと、直近3年で物件数が2.5倍に増えたことにより、申し込み件数や売上を昨年より伸ばすことができました。
SUMAVE : 今回のコロナ禍で感じたことなどはありますか?
室伏氏 : 来店を怖がるお客様が多く、IT重説やWeb内見が増えているという声を仲介業者さんから頂きました。賃貸は、決して安い買い物ではありません。対面での営業が厳しくなるなかで、ITだけでお客様の気持ちを動かすことの難しさを感じました。
■不動産テック導入事例 自動音声案内とRPAで業務負担の大きな削減をねらう
SUMAVE : 御社の業務フローと使っているツールなどあれば教えて下さい。
室伏氏 : 自社の空室物件に対して、紹介から契約までを仲介業者さんに依頼し、その後の契約書類の処理、入居後のフォローを行っています。使っているツールは、いえらぶCLOUDで、物件のインターネット掲載と仲介業者さんへのメール配信サービスを利用しています。さらに、今後導入するサービスとして、Web申し込みと電話の自動音声案内を検討しています。
SUMAVE : 自動音声案内を検討されているのはなぜですか?
室伏氏 : 私は、もともと仲介会社で働いていたこともあり、正直、自動音声には抵抗がありました。空室を確認する際に「直接話した方が早いのに」と感じることが多かったからです。ただ最近では、自動音声案内もかなり普及し、仲介業者さんも慣れておられるはずなので、今なら導入しても大丈夫なのではないかと思っています。
現在、電話対応に多くの時間を割かれ、お客様からのクレームによって、電話対応を行う社員がメンタルをやられてしまったり、やる気をなくしてしまうケースも増えています。とにかく、対応する電話の件数を減らし、業務効率を上げるために、自動音声案内の導入は必須だと考えています。
SUMAVE : 他に導入しているツールがあれば教えて下さい。
室伏氏 : RPA(Robotic Process Automation)という「人間の代わりにロボットが業務をこなしてくれるツール」を使って、解約と登録のメール送信、清掃が完了した際のオーナー様への報告メールを自動化しています。RPAを取り入れることで人的なミスを防ぎ、社員の負担も軽減されるので業務効率化につながっています。RPAは細かい作業をひとつひとつ作っていけるので汎用性も高く、非常に便利です。
SUMAVE : どれくらい時間が短縮できるのですか?
室伏氏 : RPAを使って削減できた時間は月で30時間以上になります。今後、導入を検討している自動音声案内に関しては、弊社の1日の空室確認の電話対応件数が約50件で1分程度、契約関係の電話が15件で2分程度なので、合計で1日90分、月で2000分、30時間程度の時間短縮が見込まれます。電話を取ることで、業務が中断されていたことも考慮すると、 RPAと合わせて非常に大きな効率化につながると思います。
SUMAVE : こんな不動産テクノロジーがあれば嬉しいというものがあれば教えて下さい。
室伏氏 : 弊社は管理会社なので、契約後、2年に1度更新を行います。その際の電子契約化を進めていきたいです。現状では、更新の時期に合わせて、お客様に電話連絡をしたり、契約書を郵送しているのですが、社員とお客様双方にとって、非常に面倒ですし手間がかかります。ですから、契約更新に関しては、メールやWeb上のシステムを利用して円滑に行えるようにしたいです。
■不動産業界が抱える課題点 リモートワークにシフトするには
SUMAVE : 契約書類といえば、仲介業者さんから「管理会社によって契約書が違うので統一して欲しい」というお話を聞くのですがどうですか?
室伏氏 : 仰る通りで、契約書が統一できれば、不動産業界の業務効率化が飛躍的に進むと考えています。契約書の条項などは同じでも、管理会社によって書式が細かく違っているので、仲介業者さんにとっては非常に紛らわしいのではないでしょうか。この部分が改善されると、業務効率化だけでなく、ペーパーレス化、将来的にはリモート化にもつながってくると思うので、業界全体で取り組むべき課題だと思います。
SUMAVE : 不動産業界は、なぜリモートワークが普及しないのでしょうか?
室伏氏 : 紙媒体が多いのが理由のひとつではないでしょうか。私は、オーナーさんの営業を担当していますが、営業は比較的リモートワークにシフトしやすいと思います。実際に、コロナが流行り始めた頃はリモートワークをしていました。ただ、契約処理や入金関係など、どうしても紙を見なければ出来ない業務もあるので、完全なリモートワークには至りませんでした。ですから、不動産業界では、ペーパーレス化をいかに進めるかがリモート化の鍵になると思います。
SUMAVE : 不動産テクノロジーを導入するにあたっての問題点などあれば教えてください。
室伏氏 : せっかく素晴らしいシステムがあったとしても、導入にはコストがかかりますし、すぐに使いこなせる訳ではありません。ぎりぎりの人数で経営している店舗にとっては、テクノロジーの導入は大きなリスクでもあります。ですから、やるのであれば、大きな波に乗って一気に業界全体で導入するのが理想なのではないでしょうか。
それから、現状、不動産出身でシステムを作っている人はほぼいないと思います。そのため、外から不動産業界を見たシステム屋さんの視点で問題を解決するシステムを開発しているのではないでしょうか。不動産業者の視点で、全体を俯瞰して必要なシステムを網羅したシステムを開発できれば良いのですが難しいです。結局、個々のシステムを必要に応じて導入するしかないのが現状です。
■不動産テクノロジーの進化により無人化は実現するのか
SUMAVE : 今後、テクノロジーの導入により不動産業界が無人化するのではないかという意見もありますがどうお考えですか。
室伏氏 : 管理会社の場合は、全てITで行うのは難しいので、ITと人をどう融合するかが鍵になるでしょう。ITと人をうまく噛み合わせることで、オーナー様の信頼を得て、仕事を任せてもらうことが出来ると思います。また、入居者は人ですから、設備の故障など、人が対応しなければいけない仕事を完全になくすことはできません。特に、このコロナ禍で家にいる時間が長くなり、騒音など、今まで気にならなかったことに目が向くお客様が増えて、対応件数も多くなりました。もちろん、テクノロジーの導入で、人員を削減することは可能ですが、完全にゼロになることはないでしょう。
今後、管理会社として生き残るためには、とにかく売上に直結する管理戸数を増やすことが重要です。事務手続きなどの業務を出来る限り効率化し、削減した時間を営業の時間にシフトさせ、空室を減らすことで、オーナー様にも喜んで頂けると考えています。
■横濱コーポレーション株式会社の今後の展望
SUMAVE : 御社の今後の展望について教えて下さい。
室伏氏 : 弊社は9年目の会社ですが、IT化の波に乗り遅れない土台を作るのはもちろん、IT化を引っ張っていけるような立場になれたらと思っています。「コロナ前には戻らない、コロナは完全になくなることはない」という前提に立ち、テレワークにも柔軟に対応していきたいと考えています。
やはり、リスクを抱えたご家族のためにも通勤を控えたいという社員もいます。「怖いものは怖い」という気持ちを尊重し、全ての社員が安心して働ける環境を整えるためにも、テレワークは必要だと思います。不動産業界はテレワーク率が低いと言われていますが、入れられるツールを全て入れたら、弊社のような管理会社は、充分テレワークが可能なはずです。もちろん、設備が壊れた場合には物件に行かなければいけませんが、それ以外のお客様対応や入金対応などは全てテレワークで対応できます。出来るはずなのに出来ていないことに対する問題意識を持ち続けることが重要だと思います。神奈川県は、東京都と比較して感染者数も少ないですし、通勤時間も短いので、社員からの要望が強くあるわけではありませんが、引き続きテレワーク化に対するテクノロジーの導入は進めるべきだと思います。
今回のコロナ禍で「テレワークでも充分やっていける」ことに気づき「テレワークをするために何をすべきか」まで見えてきました。現状にとどまることなく、社員とお客様のために、必要なテクノロジーを積極的に導入し、業務効率化に努めていきたいです。
インタビュー: Rean Japan 夏目 力