不動産市場における「オンライン契約」の現在地(前編)

- 調査で不動産の購入、賃貸検討者の8割が「オンライン契約」を利用したいことが判明
- 調査で現在不動産の購入や賃貸を検討している人の78.0%が「オンライン内見を利用したい」
- 不動産管理会社はどのように感じているのか、株式会社いい生活に聞いた
不動産の購入・賃貸検討者8割が「オンライン契約を利用したい」という声
不動産の購入・賃貸検討者8割が「オンライン契約を利用したい」。
現在不動産の購入や賃貸を検討している人の78.0%が「オンライン内見を利用したい」。
GMOインターネットグループで電子契約サービス「電子印鑑GMOサイン」を提供するGMOグローバルサイン・ホールディングス株式会社と、不動産業務クラウド・SaaS「ESいい物件One」を提供する株式会社いい生活が、不動産の購入・賃貸を検討している人を対象に不動産DXのニーズに関する共同調査を実施しました。冒頭はその調査結果のトピックです。納得する方、驚く方、それぞれいるかもしれません。
そこで今回は、GMOグローバルサイン・ホールディングスといい生活の2社との対話を通じて不動産業界におけるオンライン契約の現在地について考えます。前編は、いい生活との対話で、不動産業界、特に管理部門におけるデジタル化、DX、オンライン化について考えます。
・後編はこちら
生活者の想定以上のニーズの高まりに「素直に驚いた」
——今回の調査では「不動産の契約をオンラインで行いたいと考えている人は約8割」という結果でした。率直に調査結果についての所感をお聞かせください。
いい生活 マーケティング部 飯島博昭部長(以下、飯島氏):素直に驚きました。今回はインターネットアンケートで不動産の賃貸や購入を考えている、もしくは1年以内にその予定がある500人の調査でしたが、2021年5月に成立したデジタル改革関連法のうち、「オンラインによる重要事項説明」(IT重説)の認知も46.2%ありました。業界関係者くらいしか知らないものだと思っていましたが、生活者の方々にも不動産DXがある程度知られているのだなと感じました。
【出典】不動産の購入・賃貸を検討している方を対象に不動産DXのニーズに関する共同調査より【URL】https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000003362.000000136.html
——現在不動産の購入や賃貸を検討している人の78.0%が「オンライン内見を利用したい」と回答でした。
飯島氏:いい生活のクラウドサービスでは、募集から契約、入居後までの業務すべてをカバーしていますが、オンライン内見のニーズの高まりも感じられる結果でした。ただ、賃貸においてオンライン内見の需要は高まっていますが、売買はまだまだ現物をというニーズが高い印象です。不動産投資などで特定の条件を満たせば買われるといったお客様は別でオンラインで買われていくと思いますが。
いい生活 賃貸管理ソリューション本部 中川 和之本部長(以下、中川氏):私は素直に生活者側がオンラインのサービスを求めてきていることが明らかになったことは良かったと感じます。
——生活者側が不動産業界に対し、オンラインのサービスを求めていることで、不動産業界のDXが推進する可能性はありますね。
中川氏:私どもの賃貸管理ソリューション本部は、「ESいい物件One」の管理領域を担当しています。普段は管理会社様との関係性が強く、こうした生活者の声をお聞きする機会はありませんでした。その点で、管理会社様に入居者様の声を届けるきっかけとなる調査だったと思います。
——管理会社側の電子化は進んでいるのでしょうか?
中川氏:確実に増加傾向です。2022年5月には宅地建物取引業法が改正予定ですから、その点でもご興味は持たれている印象です。
(参考リンク:不動産の電子契約が来年から本格化https://www.sumave.com/20211020_21603/)
「電子印鑑GMOサイン」との連携で目指すデータ一元管理へ近づく
——今回、共同調査を行われたGMOグローバルサイン・ホールディングスの「電子印鑑GMOサイン」は「ESいい物件 One」でもサポートしていますが、契約部分がオンライン化されることは、御社にとっても管理会社様にとってもインパクトがあるのでしょうか。
飯島氏:間違いなくありますね。今までは「ESいい物件One」で契約の管理をしていても、最後の契約書部分は紙になっていたところが、最後までデジタルで行えることは大きいです。
中川氏:管理会社様の業務でも煩雑且つ、負荷が比較的高いと言われているのが契約業務です。不動産はさまざまな関係者がいますので、1つの契約書が何往復もします。郵送費も馬鹿にはなりません。それぞれの契約書のステータスも常に変わります。先に進んでいた契約書が、誰かが何らかの理由で手元に置いたままになると、後に進んでいた契約書の方が先に完了するなんてことはザラです。これらを管理していくのは職人芸といってもおかしくはありません。電子契約でこうした契約書の動きを「ESいい物件 One」で管理できるのは、私たちが目指す「不動産市場のすべてのデータを一元管理」する世界に近づきますし、管理会社様も含めた不動産市場にとってプラスに働くと思います。
飯島氏:契約時もそうですが、解約時もそうですね。紙の処理が一つでも減ることで、工数削減、効率化が期待でき、ひいては生産性向上につながるのではないでしょうか。
——工数削減はわかるのですが、生産性向上については具体的にはどのようなことでしょうか。
飯島氏:シンプルですが、紙の作業が減ることで本来やるべき業務に社員が集中できます。仲介会社様であれば、お客様の対応に集中できる。管理会社様も同様です。たとえば、当社のお客様で「ESいい物件 One」を導入し、間接部門(経理担当者)の業務負担が減りました。その結果、営業部門が対応していた事務的な作業を間接部門に割り振れるようになり、営業は空いた時間を他の営業活動に費やせるようになりました。その結果、売上の増大につながったのです。
中川氏:集客面でオンラインを活用される仲介会社様は多かったと思います。ただ、そのあとは来店して申込書を手書きで書いてもらい、それを手打ちでデータ入力するケースがほとんどではないでしょうか。「ESいい物件 One」のようなSaaSならオンラインの申し込みデータをそのまま流用可能です。その結果、飯島が言うように社員が本来の業務に集中できます。
——課題はありますか?
飯島氏:不動産業界は業法のある業界であり、また膨大な紙社会でもあります。ここをデジタル化、DX化していくのは非常に大変ではありますが、その分、変革の効果は絶大だと考えています。その中で今、課題としてあえてあげるとしたら、オンライン契約の業務フローをどのようにしていくかでしょうか。管理会社様、物件ごとに契約のフローは異なることもありますから、誰が契約の主体となっていくべきかが不明確な部分もあります。
中川氏:これまで紙社会の中で培われた商慣行がある中、それをどのようにデジタルにスライドしていくかということですね。
——「ESいい物件 One」の今後の考えをお聞かせください。
中川氏:今まで不動産市場の仕組みは紙の世界が中心でした。部署単位などではRPAなどを用いてデジタル化を推進してきましたが、その場合、部署最適になってしまう。私たちは「ESいい物件One」を通じて全社最適を目指していきたいと考えています。
飯島氏:もちろん、不動産は業法がありますから、その業法に沿っていかなければならない。だからこそ、ほかの業界と比べてデジタル化は遅れてきました。裏を返せば来年以降、業法の変化、生活者の変化でDXの進み方も加速していくのではないでしょうか。それに対して「ESいい物件One」もサービスをしっかりと提供していきたいですね。
——ありがとうございました。
※後編、GMOグローバルサイン・ホールディングス 電子契約事業部 牛島直紀部長インタビュー記事はこちら