不動産の電子契約、全面解禁。ユーザーと不動産会社、どんなメリットがある?

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不動産の電子契約、全面解禁。ユーザーと不動産会社、どんなメリットがある?

電子契約全面解禁によるユーザーメリットと事業者メリット

2022年5月18日より、不動産の電子契約が全面解禁になります。事前に相手方への承諾を得た上で、重要事項説明書、賃貸借契約書などの書面の電子化(電磁的方法による交付)が可能になります。不動産各社もこの動きに対応をしており、たとえば不動産賃貸仲介大手のハウスコム部屋探しの契約までをオンラインで完結できる仕組みを用意すると発表。今回は、同社のカスタマーサービス室 室長の惠崎 裕久氏に話を聞きました。

ハウスコム カスタマーサービス室 室長の惠崎 裕久氏

——5月からの全面解禁によって、何が変わるのでしょうか。

惠崎 裕久氏(以下、惠崎氏):これまで紙で押印をしてやり取りしていた契約書類などを、電子的な取引で済ませられるようになります。これまでもオンラインで説明をしたりはしてきましたが、紙の書面は交付しなければいけませんでした。そのため、ここはオンラインですが、このあとは紙の書面を送るので押印して戻してください、といったことが起きていました。

——「一気通貫」でできないわけですね。そうなると、最初から全部リアルでいいかなと思う人もいるでしょうね。

惠崎氏:はい。しかし今回からすべてオンラインで完結できるようになります。これはお客様にとっても、不動産会社にとっても大きなメリットになります。お客様にとっては紙の書類がなくなることで、管理がしやすくなります。私はお客様相談室の担当もしているのですが、 ご連絡の多くは契約書の紛失や、記載ミスによる再発行の依頼などでした。こうなると、契約にまた時間がかかってしまいます。デジタルなら、いつも持っているスマホからデータを確認できるのでこういったことは減るでしょう。

——不動産会社にとってのメリットはどうですか?

惠崎氏:まず何より紙の書類の管理からの解放ですね。賃貸であれば、最初の契約時のほかに、契約の更新、退去などの手続きがありますが、これら紙の書類を管理しなくてはいけない。このコストは大幅に削減できます。

電子契約で利便性が高まりコスト削減にもつながる

——電子契約が進むことで何が変わると思われますか?

惠崎氏:私も不動産業に25年いて感じることですが、デジタルによって物件探しは大きく変わりました。アナログの時代は、最新の情報は街の不動産屋さんに直接行かなければ手に入らなかった。それがインターネットで物件を探せるようになり、やりとりもメールで行えるようになった。昔はたくさんの物件を直接見て、1つを選ぶというスタイルでしたが、いまはネットで「コレ!」という物件をお客様が選び、問い合わせをするというスタイルが主流です。オンラインでもお客様と不動産会社が連絡をとりやすくなったことで、物件探しの部分はオンラインが主流になってきました。

しかし、契約自体は書面でのやりとりが必要だったわけです。郵送でのやり取りもありますし、直接来店いただいての押印・契約もあります。この部分だけまだアナログで、書類が行ったり来たりしていました。時間的にも郵送料も含めた金銭的なコストは多かった。これが、電子化でなくなります。

もっと細かく話すと契約時に求められるのは、重要事項説明書や契約書に加え、保証会社の委託契約書や損害保険の契約書などですが、この前2つの重要事項説明書や契約書が電子化になります。これによって、保証会社などもオンライン契約が進んでいくかもしれません。そうなると、お客様にとってはいつも持ち歩いているスマホで、いつでもどこでも契約内容を確認して、戻すことができるようになります。

——不動産会社にとってはどうですか?

惠崎氏:わかりやすくコスト削減面でいうと、先ほども申し上げましたが更新業務で書面の送付業務を半減できます。レターパックや簡易書留郵便などのコストが浮くだけでなく、その対応をしている人の業務も削減でき、他の業務にあたってもらうことが可能となります。コスト削減と人材配置の最適化が進みますね。

オンラインなら、エリアを越えて役割分担が可能。生産性向上へつながる。

——惠崎さんはハウスコムで2019年に電子手続きツールの導入プロジェクトを起ち上げられて、運用を行ってきたと聞いております。御社の取り組みもお聞かせください。

惠崎氏:当初は「IT重説ができたら、かっこいいな」くらいのイメージで国土交通省の説明会などを聞きに行ったのですが、これはお客様にも業界にとってもプラスになると感じ、本格的に社内で活動をはじめました。社会がそういう動きになっていくのであれば、できるだけはやく対応して遅れを取らないようにしたい。施行されてからの対応ではお客様のニーズに対応できないという思いもありました。

——現在、御社は電子契約に対応していることを発表していますが、ここまでの道のりで壁としては何がありましたか?

惠崎氏:大きく2つです。1つ目はツールの使い勝手。2つ目は社内の理解です。どちらも2019年から2020年にかけて苦労しました。私たちの業務を、デジタルを使ってどのようにすれば効率化できるのか? ということを考えていく上で1つ目にあげたツールの使い勝手がよくなかったことは大きいですね。使い勝手が悪いので、社内の理解も進まない。2021年あたりから、ツールの使い勝手もよくなり、社内の理解も進み始めました。

——現在はどのくらいIT重説が行われているのですか?

惠崎氏:4割から5割くらいでしょうか。実際に電子化で大きなメリットと感じたのは、店舗の代わりに本社がIT重説をするなど役割分担ができること。オンラインで完結するので、IT重説センターのようなものを用意して、店舗はお客様の接客や案内といった業務に集中してもらうといったことが可能になります。実際、それができるのではないかと思い、いま本社でIT重説などをして知見をためているところです。

——社内的な実証実験ですね。

惠崎氏:デジタルやDXといっても、結局は「何を使うか」ではなく「どう使うか」だと思っています。そのためには、本社で仮説をもとに「どう使うか」を検証していかないと、店舗も含め社内浸透は難しい。自社にとって何が最適な解なのかを探り続ける必要があります。

5年後にはオンライン契約が8割を超える社会へ

——デジタルによって大きく変わったことは他にありますか。

惠崎氏:私は更新業務の部分も見ていますが、この部分は電子化を進めることで2年前と比べ同じ業務をしていても人員は4割減です。削減できた人員は、他の部署や業務にあたってもらう。労働人口が減少する中、人が本当にやらなければいけないところと、デジタルである程度自動化したり効率化できたりするところを見極める力が必要になってきていると思います。

お客様も私たちも、電子化によってこれまでよりも契約にかかる時間は減るはずです。減った分、他にあてられます。お客様であれば、たとえば契約はオンラインで済むのだから、現地にはみんなで時間をとって行ってみようか、という考え方も生まれるかもしれません。そういう自由な時間配分ができるようになるのが、電子化最大の魅力といえるかもしれません。

——メリットについてはわかりましたが、最後にあえてあげるとすると課題はありますか?

惠崎氏:たとえば仲介業でいうと、貸主様と借主様の間の存在。その立場で見ると、借主様はオンラインでできるほうがうれしい。一方、貸主様はまだ紙の書面が欲しいという方もいらっしゃいます。その点で、まだ私ども仲介側がデジタルとアナログを併用して貸主・借主様双方の満足度を高める努力をしている段階です。ただ、借主様のオンラインへのニーズは増加傾向で、今後5年のあいだに8割はオンライン契約になるのではないかと予測しています。借主様のスタイルが変われば、貸主様も変わるのではないでしょうか。先日、オンラインの話をある貸主様にした時、「紙がいいけど、しようがないよね。もうそういう世の中なのだから」とおっしゃっていたのが印象に残っています。

——まさに過渡期ですね。本日はありがとうございました。

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