不動産業界における体験提供型DXをまなぶ/オンライン接客・内見についての考察

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不動産業界における体験提供型DXをまなぶ/オンライン接客・内見についての考察

はじめに 

2020年728日に、公益財団法人日本賃貸住宅管理協会が、IT・シェアリング推進事業者協議会を実施しました。完全オンラインによるウェビナーです。当日は140名以上が参加しました。この日のウェビナーに登壇した、ハウスコム株式会社のサービス・イノベーション室長、安達文昭氏(画像下)を本記事で取り上げます。プレゼンのテーマは、「オンラインの取り組み実績から学んだカスタマーファースト」です。

ハウスコムは、不動産業界のなかでリアルとデジタル(オンライン)の新しい関係を築こうとしています。それは、ほかの産業ではじまりつつある、ニューノーマルであり、“アフターデジタル”社会を意識したデジタルトランスフォーメーション(DX)です。そこで求められるマインドを(オンライン)接客・内見を例に挙げて解説します。まずは、安達氏のプレゼンをご覧ください。

アフターコロナのDXで求められる、顧客の“状況”視点


安達:他社さんもやってらっしゃるかもしれませんが、当社でも、顧客満足度の向上や顧客ロイヤルティを高めたいという社の方針があります。取り入れているのがNPS調査です。NPSは、ネットプロモータースコアの頭文字をとった略語で、顧客ロイヤルティを測ることができます。「知り合いにハウスコムを推薦しますか」という調査にたいして、「推薦する」という推薦者、「推薦しないし批判もしない」という中立者、「ハウスコムを二度と使いたくない」という批判者に分類します。成約したお客様に限らず、当社をご利用いただいたお客様に実施したアンケートです。その結果より、推薦者の割合から批判者の割合をひいた数が、NPS指標になります。アンケートに、オンライン接客やオンライン内見の設問を組み込んだ結果が次のスライドです。


安達:設問はこうです。

Q:お店にご来店することなく、ビデオ通話を利用して画面越しに不動産会社のスタッフとやり取り(物件紹介・お問い合わせ)したり、物件を内見したりするサービスについて利用したいと思いますか?


安達:調査期間は527日から711日まで。成約の有無を問わず、店舗へご来店されたすべてのお客様を対象にしました。そこから、有効回答者数は約200名でした。結果はスライドの通りです。「利用したくない」が58.2%、「利用してみたい」が41.8%でした。では、利用したくないと答えた58.2%の理由を見てみます。


安達:ちょっと文字が小さくて申し訳ないですが、理由をちゃんと丁寧に分析していくと見えてくることがあります。それは、「オンラインか、もしくは、リアルの内見の、どちらかを選べといわれると、リアル」そんな視点の存在です。「そういうことなら、利用したくない」というように考えていることが見えてきました。次は、「利用してみたい」という4割の人の意見です。


安達:私は、利用したいと考えるお客様の割合は、もっと少ないと思っていました。私の感想は、「意外と、4割もいる。オンラインでいろいろやりたいと考えているお客様は案外、多かった」というものです。コロナ禍という事情もあると思いますが、4割くらいのお客様は、「オンラインでのサービスを受けたい」と考えていることがわかりました。ポジティブな回答をすべて読み解くと、ポイントは移動です。利用したいというお客様のマインドは、時間のコスト削減という視点で、オンラインのサービスを利用したいと答えています。そうしたお客様の声よりわかったことは、接客であれ内見であれ、オンラインでやり取りするというサービスは、物件から離れた場所に住んでいる人のためのサービスではないという点です。当社の実績としても、東京都の蒲田というエリアの物件を蒲田に住んでいる人がオンライン内見するという事例があります。そのお客様に理由を尋ねたときも、「時間がないから」というものでした。店舗や物件までの移動コストが、そのタイミングでは嫌だった、ということなんです。「時間があれば、お店に直接行きましたよ」とおっしゃっています。お客様目線に立つと、「移動時間のコスト削減につながるからオンライン内見(接客)を利用したい」という意見が多いのです。


安達:NPS
の調査結果を当社のマーケティング顧問である、丸岡先生に共有したところ、次のようなコメントもいただきました。

お客様のオンライン内見に対する潜在的なニーズは、4割よりもっと多いのではないかと思います。「利用したくない」理由を見ますと、「リアル内見の代わりに」と考えて回答していらっしゃる方が多いようにみえるからです。「リアル内見の前に」とか「リアル内見に来られない方にも意見を聞きたい場合に」「リアル内見に代理の方が参加される場合に」などの使い方が(あることをお客様が)分かればもっと(オンライン内見を利用したいと感じるお客様は)増えるのではないでしょうか。


安達:オンライン内見を実施して気が付いたのですが、オンラインだけでは伝えきれない情報があります。たとえば、におい、触ったときの感触などです。これを現在のテクノロジーでは伝えることができません。逆に、それを伝えることができる点は、リアルな内見の強みともいえます。それらの結果から私たちが導き出した結論は、そもそも、オンライン内見とリアル内見は別々なサービスであるということです。決して、オンラインの内見はリアル内見を代替するものではない。


安達:これが、まとめです。利用したくないと答えた58.2%のお客様は、リアル内見の代わりにオンラインを使うなら利用したくないというものであり、オンラインによる内見はリアルな内見を代替することはできない。このテーマの話をすると、よく、質問される問いに次のようなものがあります。

Q:オンライン内見をしたお客さんはリアル内見をしますか?


安達:この質問にも答えておくと、100%に近いお客様がリアル内見をします。オンライン内見もリアル内見も、どちらも部屋探しにまつわるサービスの一環です。写真で見る、動画で見る、パノラマで見る、VR内見をする、オンライン接客を受ける、リアルな内見に行く。「そうしたサービスの1つとしてオンラインでの内見という新しいサービスが追加された」というのがお客様の感覚です。「オンラインで内見をしてくれると来店しなくていい。それは、移動のコストが減らせるのでうれしい。オンラインでも対応してくれる不動産会社ってよいね」という声なのです。おかげ様でお客様には喜んでもらえています。緊急事態宣言が全国に発出されていたときに、必要に迫られてお部屋探しをしていたお客様の親御さんからは、当社のお客様相談室に、お礼のお手紙を頂戴したこともあります。

コロナ禍にもかかわらず、うちの娘の部屋探しで、ハウスコムのスタッフが現地まで行って、物件からオンラインでつないでくれて、とても感謝しています


安達:そのようなお手紙をいただくことでも、「オンラインによるサービスは、お客様に喜ばれるサービスなのだ」という実感があります。私たちは今後も、顧客の視点に立ってサービスを提供していきます。

おわりに ~オンライン内見(接客)についての考察~

安達氏のコメントのなかで、とくに、不動産業界関係者に注目してもらいたいのは次のセリフです。

そのお客さんに理由を尋ねたときも、「時間がないから」というものでした。店舗、物件までの移動コストが、そのタイミングでは嫌だった、ということなんです。「時間があれば、お店に直接行きましたよ」とおっしゃっています

“そのタイミングでは”という顧客の状況が、アフターコロナの不動産業界において、DXのポイントになります。ユーザーにとって、1つのサービス(接客や内見)が、オンラインかオフラインかリアルかバーチャルかは、どうでもよい。自分の状況にあったサービスを使いたいだけ。そう感じることができる不動産取引の体験を顧客へ提供することができるか。不動産会社が不動産テックを活用したDXを考えるとき、そこへ目を向けることができるか。ここは、時代にそくしたDXを進めることができるかどうかの大きなターニングポイントであると考えています。

のどがかわいて飲み物がほしくなったとき、ECサイトで注文する人はいないでしょう。そんな状況のときは、コンビニへ行ったり、汗だくなら現在地から一番近い自販機で買ったりするはずです。2リットルのミネラルウォーターを買うなら、持ち帰るのがおっくうなのでネット注文したい。コロナ禍のいま、スーパーで買い物をするとき、接触したくないのでアプリ決済ができると安心。ユーザーは、自分の状況にあったサービス/手段を使いたいだけ。オンライン内見やオンライン接客についても、同じことがいえる時代です。賃貸であれ売買であれ、消費者であれ物件オーナーであれ、「顧客に、よい不動産取引の体験を提供したい」という思いを持つプレーヤーが、その体験を具現化していくでしょう。そこには、リアルなのかデジタルなのかという二者択一の議論は存在しません。どちらかわからないようなシームレスな顧客体験が、アフターコロナの不動産業界におけるDXです。

2020年731日に、宮崎県は県内全域による休業要請を発しました。期間は、816日までの16日間という予定です(宮崎県新型コロナウィルス感染症対策特設サイトより)86日には、愛知県の大村秀章知事が、県独自の緊急事態措置に踏み切りました。824日までの19日間です。措置の内容としては、県をまたぐような移動を自粛してほしいというもの(85日付け毎日新聞より)。次は、あなたが住む自治体から、休業や自粛の要請が出るかもしれません。この現状で持続可能な不動産経営を実現していくには、さまざまな顧客の状況にあったサービスを提供できるかどうかがキーポイントです。

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