空室を「リモートワーク推奨物件」へ。テレワークにいどむ不動産会社のいま【後編】

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空室を「リモートワーク推奨物件」へ。テレワークにいどむ不動産会社のいま【後編】

※前回の内容を確認したい人はコチラ

先週のつづき


石村:オンラインで管理会社のみなさんとお話するのは、今日(4月16日)で5回目です。これまでのセミナーで、私たちはアンケートをとってきました。必ず設ける質問に、「リモートワークをはじめるにあたり、お困りのことありますか」という項目があります。この回答で目立つのが、「役員の説得方法」でした。社内の説得に苦労されているかたは、少なくないわけですね。ほかの人たちがどう対応しているかも聞いてみましょう。神奈川のBさんや愛知のSさんの会社は、社内のテレワークへの温度感ってどうですか?


神奈川のB(30代):社員は数千名おりますが、リモートワークができているのは、ほぼ総合職です。どうしても、実作業がともなう現場の社員は出ざるを得ない状況です。


石村:会社のうえのかたたちから、リモートワークなどのコロナ対策に積極的な姿勢を感じていますか?


神奈川のB(30代):ある程度は感じますね。会社としては在宅勤務を推奨しています。なので、対応できるところはすぐにリモートワークへ切り替えやすかったです。もともと総合職にはノートパソコンが配布されていましたし。


石村:社歴でいうと愛知のSさんも長いですよね。社内の文化なども熟知していると思いますが、会社全体の雰囲気、上役や幹部社員のかたたちの温度感はどうですか?


愛知のS(30代):上層部はピンときていないと感じています。Bさんの話にあったノートパソコンの配布も当社の場合はなく、デスクトップパソコンを使っての業務です。IP制限やセキュリティのルールが厳しいのでパソコンを社外に持ち出せない問題もあります。そうはいっても、今後、コロナによる外出自粛や休業要請などが長期化したとき、リモートワークをせざるを得ない。ということで、上からは、「Sの部署でとりあえず実施してみろ」という話になりました。Bさんがおしゃっていたように、仲介だと現場仕事なので、そこのリモートワーク化は課題になりそうです。営業部は500名くらいいて、その人たちへのテレワーク導入をどうしようって話も検討課題です。現時点で1つ、気になっているのがお客様の反応です。すでに、お客様側から次のようにいわれるケースが増えてきました。

IT重説をやってほしい

WEB内覧をやってほしい


愛知のS(30代):この声がチラホラと店舗に入ってきているので、「そこに対応していかないとマズイな」という危機感を抱いています。そうしないと、結局は売上という数字が作れないので。それらも、やらざるを得ないだろうなって考えています。


石村:「お客様の声として、IT化や不動産テックサービスのニーズがあるからはじめましょう」という切り口は、社内のIT化を進めるアイデアの1つかもしれませんね。そこで、売上を作って、「こうなりますよ」と示すことができれば説得力も強まりますし。気が付くと、この座談会は開始から1時間半以上になりますね。ちょっと中途半端なので続きを来週やりましょう。今日(4月16日)の夜には全国に緊急事態宣言が出るようですし、週明けに再度集まって課題や認識を共有しましょう。

 

4月21日/全国に緊急事態宣言が発出されてから5日後


石村:みなさん、再びお集まりいただきありがとうございます。早速ですが、前回、都合によりご参加いただけなかった、大阪のHさんの自己紹介からリスタートしたいと思います。


大阪のH(20代):当社は本社が大阪になるんですが、それ以外に、福岡、名古屋、横浜、東京に事務所があります。管理戸数は5,000弱で、仲介店舗もいくつかあります。そんな状況で、東京と大阪でのリモートワークやコロナ対策への温度感をすごく感じるところです。リモートワークをはじめた部署、はじめられない部署があります。当社の事例を共有して、みなさんから学べるところは勉強して、社内に共有したいなと思っています。よろしくお願いいたします。


石村:従業員は何名ほどいらっしゃるんですか?


大阪のH(20代):百数十名ほどです。


石村:大阪には、4月7日から緊急事態宣言が発出されています。それから2週間がたったいまも、御社のなかでエリアによる危機意識の差はあるんですか?


大阪のH(20代):ありますね。事業所ごとにも温度差があります。売上の下がっている部署はリモートワークやオンライン化の対策に着手しているし、あまり、売上の下がっていない部署では温度感が低めです。


石村:管理と仲介だと、仲介店舗がしんどい?


大阪のH(20代):そうですね。仲介の売上はどんどん落ちています。管理業務への影響は、さほど大きくないです。


石村:Hさんがまとめているのは管理部門ですか、それとも仲介部門?


大阪のH(20代):管理部門です。私の部では、2週間前からリモートワークをはじめました。


石村:今一度、みなさんのコロナ対策やリモートワークへの温度感をお聞きしておきたいんですが、東京のIさん、いかがでしょうか。東京も大阪と同じく、4月7日の時点で緊急事態宣言が発出されています。そこから2週間たち、その範囲が全国になったわけですが。


東京のI(60代):私は、不動産業界団体の地域役員をしています。毎月、理事会をやるんですが、コロナの影響をかんがみて、「2月以降の理事会を止めよう」という話になりました。でも、打ち合わせをしないわけにもいきません。そこで、はじめたのがオンライン会議です。私は60代なんですが、理事会には私よりも上の年代の人が多い。年齢で区別してはいけませんが、オンライン会議にまるっきり対応できない人も数名いて。事務局は、いま、完全にリモートワークへ移行しましたから、事務局の指導で、すべての会議をオンライン化しました。全部WEBです。こういう取り組みは、誰かが強いリーダーシップを発揮して進めたほうがいい。私はそう思います。そうでないと、この業界の人はなかなか動かない。強引にやってしまうくらいの気持ちでよいのかもしれません。

いまはステイホームで大事なときだから、全部、WEBでやるぞ


東京のI(60代):私がそう声をかけ、会長にもオンライン会議に入ってもらいました。やってみると会長も、「これ、WEBでできるな」と。すると、動き出すわけです。


石村:佐賀のKさんのところは、どうですか? 先週に全国への緊急事態宣言が発出されましたけど。


佐賀のK(20代):ウェルスパークさんと船井総研さんのセミナーを4月上旬にオンラインで聞いて、そのあと、福岡県に緊急事態宣言が出ました。福岡は佐賀からけっこう近いんです。「そのうち佐賀にも緊急事態宣言がでるだろうな」とは思っていたので、以前からリモートワークへの取り組みを進めていました。「ノートパソコンもないのに、どうするの」って意見が社内から上がっていましたが、外出自粛の要請に、当社の社長は応じる姿勢です。その場合は、リモートワークにする意向を社内に出していたので、リモートワークへ取り組む姿勢は積極的なほうかと。グループ会社は30名弱の建築系ですが、そちらも同じような緊張感です。当社にかんしては、部長や役員がリモートワークに抵抗を示すような話を聞きません。社長から、「進めよう」と提案してもらえるので、ありがたい環境だなあと思います。


石村:会社の社長は2代目でしたか?


佐賀のK(20代):そうです。


石村:2代目の年齢は?


佐賀のK(20代):社長は30代で、ITや先進的な取り組みが大好きです。


石村:大阪のHさんはどうですか?


大阪のH(20代):私は、なんでも楽しみながらやるタイプです。でも、自分をふりかってみると、「仕事をするのは事務所」という固定概念が強かったかもしれません。

テーマ4/続・テレワークに難色を示す上司をどう説得するか


石村:Hさんのところでは、リモートワークやオンラインへ取り組みに抵抗する人はいらっしゃらない?


大阪のH(20代):すぐに取り組んでくれない人はいました。


石村:リモートワークの取り組みは、Hさんきっかけではじめたんですか?


大阪のH(20代):いえ。そもそも、東京支店のスタッフにいわれて、ハッとしたことがきっかけです。3月末くらいの話です。

大阪本社の危機意識は、低いと思います


大阪のH(20代):なかのよい部下で、本音で話せる間柄です。そんな相手だったからかもしれませんが、「確かに、そうだな」と。そこから考え直しました。

もし、うちの社員がコロナに感染したら命にかかわる。これまで通りの仕事をスタッフにさせていたら取返しのつかないことになるかもしれない


大阪のH(20代):私は、「この業界は勘と度胸と経験がものをいう」そう教えられて育ちました。それを追求すること=働くことである、というのが当たり前だ。そういう部分があると思います。でも、いまのご時勢ではバランスが重要なのかなと。さらに、直近の状況を考えるなら、優先順位は社員の安全なんだと思います。従業員の感染リスクを下げる取り組みは、考えられるものできることをやる。安全性に配慮したうえで、業務をしながら精一杯に売上をあげると。「リモートワークをしたくない」という人が、いま、いたとするなら、それは回り回って自分を苦しめることになりますよと、そう言いたいですね。社員を出社させたり3密に配慮しなかったりすることによって従業員が感染したら、人命にかかわる。それだけじゃない。その従業員が出入りする事務所を閉める必要も出てきますよね。急にそんな事態になって、何の準備も取り組みもしていない状況で、翌日からすぐにリモートワークがはじめられるだろうか。機材の手配や工事の順番待ちなどが重なると、そのあいだは仕事できないわけですから、場合によっては自宅待機です。それが長引けば、売上もたたず給料は下がる。そういう話を社内でしました。それからは、みんな、理解を示してくれて、協力的に動いてくれている感じですね。


石村:前回、リモートワークに難色を示す管理部の部長さんがおられると話していた兵庫のRさん。Hさんの話を聞いていかがでしょうか?


兵庫のR(20代):管理部長のいる部署のなかに、Hさんのような強い危機意識を持つ人がいて、そういう人からアクションしてもらえるとよいのかなと思いました。違う部署や違う会社(の私)からアプローチしても、相手にしてもらえない感じがします。部長は、「リモートワーク=さぼる」なんだと思っていて。だから、さぼらせないために、社員を1台の車に相乗りさせていて。そのあたりの固定概念から変えていかないとなあというのがありますね。


石村:Hさんがおっしゃってたように、勘と度胸と経験を追求することが働くことなんだ、というような固定概念ですかね。


兵庫のR(20代):そうです。


石村:個人的には、当事者意識を持てるかどうかがポイントなんだと思っています。私は、娘の学校のPTA役員をしています。リモートでの終業式、入学式をどうするのかという話があるんですが、この話をPTAでやる前段にあるのが、「みなさん、自分の子供を危険にさらしたくないので自粛しましょうね」という当事者意識だと思うんです。当事者意識を持つために、どうしたらよいかというと身近な話なんですよね。伝えられる身近な話があれば、それも1つかなと。


東京のI(60代):テレビニュースはバーチャルですよね、他人事というか。でも、自分の近くでニュースにあるようなことが起こると真剣になります。当事者になるからでしょうね。じつは、私が管理しているビルの店舗からコロナの陽性者が出たことがありました。すぐに保健所から人が来て、閉店、消毒です。そういう現実を目の当たりにすると、「いやいや、これは大変なことだ」という実感がわいてきます。問答無用で閉められちゃいますから。


石村:Hさんがいっていた通りの展開ですね。「社員を出社させたり3密に配慮しなかったりすることによって従業員が感染したら、人命にかかわる。それだけじゃない。その従業員が出入りする事務所を閉める必要も」という話です。


東京のI(60代):本当ですよ。「バシャ」っと、閉められちゃいますよ。これが業界団体の事務局本部だったら。そう考えると青ざめますね。事務局が閉まるわけですから、団体の運営が機能しなくなる。真剣にやらないとだめだぞと。自分ができることをやんなきゃって。

テーマ5/いま、賃貸物件ができること

石村:Iさんの話を聞いていて思い出したんですが、昨日、茨城の不動産会社さんと会話しました。そのときの雑談なんですが、インターネット回線無料の物件って、よく、あるじゃないですか。この物件は、リモートワークをする私たちにとって、非常にありがたい物件なわけです。インターネットはリモートワークに必要不可欠です。そこで、その物件のみせかたを変える方法は、すぐにできる取り組みだなと思ったんです。従来のように、インターネット使い放題物件という打ち出しかたではなく、テレワーク推奨物件という見せかたに変えます。キャッチコピーを変えるだけで、お客様への届きかたも変わるんじゃないかなと思いますし、私は、“テレワーク推奨物件一覧”というウェブページを特設してもよいのではと考えています。


東京のI(60代):世のなかのテレワークの話題は2月ころからはじまりましたよね。もうすぐ2か月です。最近、「これ、事務所いるのかな」と思っています。そもそも、「駅前に事務所を構えると次から次にお客様が来店するから、物件管理の仕事ができないだろう」そう考えて、あえて駅から遠い場所に私は事務所を構えています。もともと、事務所にお客様が来る機会がほとんどない。そう考えていくと、「事務所はなくたっていいな」となるわけです。当然ながら宅建業法上は事務所が必要ですが、事務所を構えても機能しないから無意味だなあと感じはじめました。


石村:同じことを話す不動産会社さんを2社ほど知っています(笑)。1社は、都内の一等地で、投資用の不動産物件を売買する会社さんです。いま、社員の7割がリモートワークだそうで、なのに、都内でも指折りの一等地にオフィスを構えています。

固定費がばかにならない


石村:そう、おっしゃってました。ほかにも、中国人の富裕層を集客するための事務所を都内に構えている会社さんも、「固定費がばかばかしい」と。会議をZoomでやるだけでなく、商談もオンラインでやるようになってきたといいます。“3密”を考えると駅前に不動産店舗を構え続ける必要性があるのだろうか、と。お客様は対面での接触を避けたがりますから、そうなると内見するにしても現地集合です。そうなってくると、駅前の高単価で駐車場料金の高額な場所に、店舗を構える必要があるのだろうかと。このテーマは、最近、不動産会社のかたと頻繁に話しています。この流れが強まっていることを日々、実感しています。ほかにも、小さな子供がいる家庭でテレワークをやろうとすると、いろんな気遣いが必要です。そんなときも、空き家に、ニトリの机とイスを置くだけで、“リモートワーク推奨物件”として貸し出すことができるなあと。これは、すべての不動産会社にできる、国民支援のアイデアの1つだと思うんですよね。これで、多くのビジネスマンを支えていきたいと私は思いました。そうした取り組みをしている不動産会社である事実は、自社のブランディングにもなっていく。選ばれる不動産会社です。

 

おわりに

画像出典元:https://kyodonewsprwire.jp/release/202005059659

2002年に紫綬褒章を受章した野中郁次郎氏が、2020年5月5日に緊急提言をリリースしました。知識経営の生みの親として知られた存在でもある野中氏は次のように指摘してします。

ニューノーマルと言われるようにCOVID-19の影響は大きく社会を変えもう元には戻らない

ニューノーマル(new normal)とは、新しい日常、新常識などを意味する言葉です。先週に参加・取材したオンラインセミナーは参加者が1,700名を超える規模でした。コロナの影響をうけ、リモートワークの取り組みが進み、家にこもる時間が長くなったことで、従来の常識や価値観を見直す機会は増えています。そうした人たちは、緊急事態宣言が解除されたあとの世界が、コロナ以前の世界に戻るわけではないことに気づきはじめています。イギリスの数学者ニュートンが万有引力を発見したのは、ペストの流行により、通っていた大学が休みになった期間でした。ドイツの哲学者ニーチェはいいました。

孤独を味わうことで人は自分に厳しく、他人に優しくなる。いずれにしても人格が磨かれる

――フリードリッヒ・ニーチェ

ヒンズー教徒のことわざには、「人は一人のときに成長する」という言葉があります。このときに新しいビジネスモデルを考えるなら、ポイントはニューノーマルです。

 

 

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