投資家が考える選ばれる会社の条件|HOUSECOM DX Conference

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投資家が考える選ばれる会社の条件|HOUSECOM DX Conference

企業と投資家の対話は好ましいものに変化している

森戸氏:進行担当の森戸裕一です。現在、一般社団法人日本デジタルトランスフォーメーション推進協会代表理事を務めています。今回は、投資家が考える選ばれる会社の条件というテーマで、お三方に登壇していただきます。それぞれ自己紹介をよろしいでしょうか。

藤野氏:レオス・キャピタルワークス代表取締役 会長兼社長CIO(最高投資責任者)の藤野英人です。当社は、日本株、世界株、グローバル債券などの運用をしている投資信託の運用会社です。私自身、プロのファンドマネージャーとして長らく経験を積んできましたので、本日はその観点からお話をさせていただこうと思います。

市川氏:マーケットリバー代表取締役の市川祐子と申します。私は楽天で12年間、IRを担当したのち2019年に独立、現在IRのコンサルティングをしています。

田村氏:ハウスコム代表取締役の田村穂と申します。今日はすごく楽しみにしています。

森戸氏:では、早速セッションに移っていきます。昨今、投資家と企業の関係はどう変わってきたと感じていますか?

藤野氏:従来、日本における投資家と企業の関係というのは、あまり良い関係ではありませんでした。企業からすると「投資家には株をずっと保有してもらいたいけど黙っていてほしい存在」だったわけです。ところが、最近は様々なタイプの投資家が出現したこともあって、必ずしも対立関係や無視し合う関係ではなくて、緊張感がありながらも協力し合う関係に変化してきたと思います。

大人気ファンド「ひふみプラス」を運用するレオス・キャピタルワークスを率いている、著名ファンドマネージャーの藤野氏

市川氏:まさに藤野さんがおっしゃったように、企業にとって投資家というのは、かつてはプレッシャーをかけてくる存在でしたが、ここ数年で「対話を通して共に価値を作る存在」へと少しずつ変わり始めていると思います。

国民の年金を運用しているGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が、2016年から東証1部上場企業にアンケートを取っていて、「機関投資家との対話が好ましいものに変わってきた」という質問に対して、YESと回答する割合が2022年に初めて5割を超えました。それまでは、「対話は形式的なものだ」といった声が多かったのですが、ここにきて大きな変化が起きていると見ています。

森戸氏:DXにも絡めて伺いたいのですが、投資家の方々もインターネットやSNSを介して色々な情報を得られる時代になりました。それによって企業と投資家のコミュニケーションが変化しているという考え方はできますでしょうか。

市川氏:個人投資家との関係で言えば、SNSを上手に活用している企業が増えています。そうした企業は楽しんでIRに取り組んでいる印象です。時価総額の規模が小さくて機関投資家との対話が叶わない企業も少なくありませんが、個人投資家を巻き込んで、さながらお祭りのように盛り上がりながらTwitterやYouTubeを運営しています。

田村氏:私自身、投資家の皆さんとどう繋がっていくのか、繋がっていかなきゃいけないのかということは、いつも心の中にあります。5年後、10年後はどう変わっていくのかというのを伺ってみたいです。

「住まいを通して人を幸せにする世界を創る」をミッションに掲げるハウスコムの田村氏

藤野氏:投資に必要なのは、「真のインサイダー情報」です。これをトレンドの言葉で表現するならば「パーパス」なんですよね。要するに、「この会社は一体何を目的にしているのか。何を解決したいのか。どれだけ本気なのか」という情報が非常に大事です。「どういうものを作るんだ」「何をやるんだ」という「What」に関心が集まりがちですが、Whatよりも大事なのは「How」です。どのようなやり方で提供するのかを考える方がもっと重要で、さらにHowの先にある「Why」がとても重要になってきます。

市川氏:私が以前、シリコンバレーのアクセラレータープログラムに参加したときに、ベンチャーキャピタリストが「Whyが一番大事だ。Whyに納得しなければ投資しない」とおっしゃったんです。Whyがしっかりしてれば、環境が変わっても必ずサバイブできるし、人もついてくるという話をしていました。また、数年前に世界有数の資産運用会社、ブラックロックのCEOが企業向けに書いたレターに、「パーパスと収益は表裏一体だ」と記載していました。いろいろな投資家がいらっしゃいますけれども、パーパスに納得すると、長い目で企業を評価して株を持ち続けるケースが多いのだと思います。

投資のプロが見逃さない「社長挨拶の主語」

森戸氏:では、次のテーマに移ります。投資家が選ぶ企業の条件について、まずは藤野さんのご意見を伺いたいです。

ファシリテーターを務める森戸氏は、地方や中小企業のIT化を推進するための人材育成、啓蒙普及活動、プロジェクトなどに取り組んできた第一人者

藤野氏:私は、投資先として3つの条件を満たしている企業を探しています。1つ目は「お客様第一主義」です。裏を返すと投資したくないのは、ご都合主義の企業です。2つ目は「長期目線」です。駄目なのは、短期目線の企業です。3つ目は「データ主義」です。駄目なのは、感覚と過去の成功体験に頼る企業です。

3つとも当たり前だろうと思われるかもしれませんが、これがなかなか難しくて、会社都合・短期目線・感情優位になってしまいがちなんですよね。なぜかというと、日本企業のディスクロージャー(財務内容や業務内容などの経営内容を開示)の体制が、「月次で数字を開示」「クォーターで決算を出して3ヶ月ごとにチェック」というものになっているからです。なおかつ、上場するときには予実管理が大事だということで、取締役会のほとんどは予実管理の確認に終始してしまいます。なので、真面目に取り組めば取り組むほど、短期目線の経営になってしまうわけです。そうすると、経営を長期目線で語るとか、パーパスやWhyを深める話ができないんですね。

たとえば、アマゾンは「買うとは何か」をめちゃめちゃ考えます。哲学者も雇って、「買うことの哲学的意味は何だろう」と常に議論していて、経営層が合宿して話をすることもあるようです。でも、どうしても予実管理を中心に考えてしまうので、それを脱していくことが、今の日本企業の課題なんじゃないかなと思いますね。

市川氏:短期的に投資をする人は収益性を重視する人がいる一方で、長期目線の投資家というのは、足元の収益性ではなくて将来の成長性やリスクの少なさを重視します。そのあたりを企業がどう表現するかで、本質的な強さを見極める投資家もいます。たとえば、赤字事業があるとして、立て直すために必要な金額しか聞かない投資家もいれば、どうやって立て直すのか詳しい説明を求める投資家もいます。私は、数字についての簡潔な回答と、取り組みの本質的な価値を説明する回答、両方を用意していました。

市川氏は楽天で12年間、IR責任者として同社の投資家との対話、資金調達、東証一部上場(指定替え)を担当。現在は上場・未上場の複数企業の社外役員を務める

藤野氏:余談ですが、僕がよく見ているのは、ホームページの改変履歴なんです。儲かっていたり、売りたい商品があったりして自信があると、ホームページにお金をかけるんですよ。それまで活発にホームページを改変していた会社がピタッと改変しなくなると、その後、下方修正が出てくることが多いように感じます。会社というのは、こういうところからも状態を見て取れるので、観察が大事だと思います。

田村氏:それは、びっくりですね。私、何年もホームページの顔を変えていないです(笑)。

市川氏:経営者の方って、当然ながら立ち居振る舞いを気にされるのですが、それ以外は「良きに計らえ」という感じの方が多いです。けれども、個人投資家も機関投資家も、ホームページやSNSをチェックしますので、そこも重要なんですよと申し上げることがよくあります。

藤野氏:あと、ホームページの「社長挨拶の主語」はよく見ていますね。「私、私達、当社、弊社、主語なし」などいろいろあって、「誰が何を言っているかわからない文章」って結構あるんですよ。本来、社長が個人として話しているわけなので、「私、私達」になるはずですけど、意外と「当社、弊社」のパターンが結構あるんですよね。恐らく無意識に使っているのだと思いますが、よく考えたら自分の会社の社長が挨拶しているのにおかしいですよね。会社の本音やカルチャーは、開示事項以外の「自由記載事項」にも現れると思っています。

ESGは善行ではなく企業の成長に必要な指標

森戸氏:次のテーマで、ESGを取り巻く環境というのが変わってきているんじゃないかという点について、藤野さんはどう捉えていますか?

藤野氏:8年前、経済産業省の健康経営を推進するプロジェクトのメンバーに参画しました。そのときにアンケートで、「健康経営は誰の仕事か」と質問したときに、「社長の仕事」と回答した人は5%程度だった気がします。今、同じような質問をすると、7割から8割の人が「社長の仕事」と回答するんですよね。このように、やっぱり会社は社員の健康にコミットしなければいけないと思う人が増えて、考え方が激変したんです。

ESGへの考え方も同じように変わっています。ESGの取り組みをコストだと捉えるならば、なるべく抑えた方がいいわけです。でも、今は将来への投資なんだという概念が広がってきたと思います。

市川氏:10年以内で企業価値向上に効くと証明されているのが、社会(Social)で特に従業員なんですね。長期で企業価値を高めるのは人であるということが、投資家にも注目されるようになりました。環境(Environment)も、長期で儲けるには地球環境が安定していないということなので、ESGには経済合理性があります。経営者の中にはESGによって、善行を強要されている気がする方もいるかもしれませんが、そうではなくて、長期的な価値に効くものだと分かってもらいたいと思います。

森戸氏:いろいろなお話を伺ってきましたけれども、最後にお一人ずつセッションの感想をお聞かせいただけますか。

田村氏:今日はありがとうございました。もう胸いっぱいになりました。ホームページが大事だという思いもよらないお話を聞けてびっくりしました。正直に言うと、ESG経営というのは、なんとなく上から降りてきたような感じはしていました。ただ、いろいろ勉強させていただいて、我々企業の成長の指標になっていくのかなと思っています。あと、ホームページを見直したいと思います。

市川氏:藤野さんのお話を聞いて、定性的な情報が投資には非常に重要なんだなと思いました。最近はESG情報をAIで判断して投資に生かそうとする動きもあるようなので、また違うDXの流れがくるんじゃないかなと思っています。働き方がESGとDXで変わるんじゃないかと改めて今日感じました。

藤野氏:世の中は良くなっているんです。20年前は長期労働で体を壊しても働くことや、セクハラ、パワハラが当たり前だったわけですよ。でも、今はそうではありませんよね。僕ら一人ひとりが真面目に楽しく働き、人をいじめず、のびのび働いたら、結果的にそれが評価される。そうした社会に向かっていると思います。より良い消費者、より良い会社、より良い社会、より良い国になっていくことは、決して難しいことでもなく、怖いことでもないので、未来についてポジティブに考えられるんじゃないかなと思いますね。

 

▼2022年11月24日に開催された「HOUSECOM DX Conference」の第一部のレポートはこちら
ESGは「コストではなく投資」、花王から学ぶイノベーションの「起こし方」|HOUSECOM DX Conference

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