「電子契約」「不動産DX」の現在地を大規模調査×ディスカッションから考察|オンラインセミナーレポート

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「電子契約」「不動産DX」の現在地を大規模調査×ディスカッションから考察|オンラインセミナーレポート

2022年8月2日、不動産テック4社・2メディアの共同で実施したアンケート「不動産業界のDX推進状況調査」の結果が公表されました。これを受けて、調査結果から得られる気づきや、改正宅建業法施行以降に加速する「電子契約」「DX」の現状についての理解を深めるためオンラインセミナーを開催。

調査結果の振り返りをはじめ、「電子契約」「DX」をテーマに不動産業に従事する実務者・メディア・経営者など幅広いゲストを迎え、パネルディスカッションを行いました。こちらの記事では、セミナーの内容をレポートします。

「不動産業界のDX推進状況調査」の結果を考察

セミナーは、「不動産業界のDX推進状況調査」の結果報告からスタート。この調査は、2022年6月中旬から7月初旬にかけて、不動産管理会社や不動産仲介会社を中心とした不動産関連事業者を対象に実施したものです。

今回は、766名から得た回答のうち、セミナーの主旨に合わせて「電子契約」と「DX推進」の2点を中心に、WealthPark事業開発部の高橋和久氏が結果を解説。まず、電子契約について、高橋氏は、「2022年5月の改正宅建業法施行により、不動産取引における必要書類への押印不要になった影響が大きい」と総括します。

高橋氏:「アンケートでは、各DXサービスの利用状況を質問しています。『導入している/導入進行中のDXサービス』のうち、最も多かったのは『ウェブ会議システム(70%)』、次いで『賃貸管理(不動産基幹ソフト)システム(52.3%)』でした。一方、導入検討中の割合が多かったDXサービスは、『電子契約システム(18.7%)』です。さらに、各DXサービスの導入時期の質問では、2022年に導入される割合が最も高いサービスは『電子契約システム(31.7%)』でした」


続いては、DX推進について。「DX推進すべきだと思う」は98.4%で、ほとんどの回答者がDXの必要性を認識していることが分かります。さらに、「DXに実際に取り組んでいる(いた)・予定」も71%と高く、高橋氏は「DXに取り組む上で、皆さまの一番の関心事は何をするべきかという点ではないでしょうか」と指摘します。

高橋氏:「アンケート結果を分析すると、DXの成果を『とても実感している』と回答された方の比率は少ないです。現状、DX推進を順調に実現している企業は少なく、結果を出せずに苦戦しているケースもあると思います。苦労するポイントとしては、予算はもとより、DXを推進する人材の確保やプロセスの理解が難しいなどではないでしょうか」

<パネルディスカッション(1)>業務量が約5分の1まで減少!電子契約導入企業の実例

この調査結果を踏まえて、現場でDXを推進する人のリアルな声を知るべく、続いてのプログラムではパネルディスカッションを実施。イタンジのプロダクトマーケティングマネージャーで、賃貸借取引に特化した電子契約事業の事業統括をしている黄健輔氏がモデレーターとなり、2名のゲストに「電子契約」についての問いを投げかけました。その一部をハイライトでお届けします。


一人目のゲストは、投資型マンション「アドバンスシリーズ」をはじめとするマンション開発事業を手掛ける不動産会社、日成アドバンス賃貸管理事業部の津守信男氏です。


電子契約の利用実績を多数持つ同社では、イタンジの電子契約システムを導入しているとのことで、黄氏が導入の経緯や効果をヒアリングしました。

黄氏:「電子契約の導入のきっかけについて教えてください」

津守:「電子契約を導入すると売買で印紙が不要になると聞いて検討を開始しました。2022年5月の改正宅建業法施行で賃貸でも電子契約ができるようになり、導入を決断しました。皆さん同様だと思いますが、不動産業は書類が多いため、出社を前提とする業務がほとんどでした。しかし、コロナ禍でリモートワークの機運が高まったことも相まって、導入に至りました」

黄氏:「電子契約の導入で業務は変わりましたか?」

津守:「まず、契約書の準備が変わりました。従来は、契約書に付箋を貼ったり、捺印したり、発送したりと、細かい業務にかなりの時間を要していましたが、電子契約にしてからはそうした時間を省略できるようになりました。もし書類に不備や捺印漏れがあると、何度もやり取りをしなければなりませんでしたが、そうした手間もかかりません」

黄氏:「契約業務にかける時間や手間を、どの程度まで削減できましたか?」

津守:「通常は1週間から10日ほどかけて契約書をやり取りしていましたが、今では3日で済むようになりました。業務量については数字で検証したわけではありませんが、作業効率を見ている限り、業務量を従来と比較するとおよそ5分の1程度まで減ったように感じています。不備があればすぐに修正できるので、時間のロスは少なくなりました。

また、目に見えるコスト削減としては、郵送費です。1契約に対して約2,000円程度の郵送費を要しました。もちろん印刷や書類の保管、人件費などのコストなどもかかっていますが、郵送費ははっきり費用が分かります。件数が増えると費用の桁が変わってくるので、負担は少なくありません。こうしたコストの削減だけ見ても、全体的な効率化を図れていると思います」

黄氏:「電子契約に関わる方々からの反響はいかがですか?」

津守:「やり取りの回数や電話の本数、郵送の手配などが減りましたので、一番喜んでいるのは、当社の申し込みや受付の担当者です。もちろん仲介業者様にもオンラインで完結できると大変好評ですし、入居者様にとっても契約書紛失の心配がなくなったので安心感につながっていると思います」

<パネルディスカッション(2)>新聞社デスクと語る、電子契約の現状とこれから

2人目のゲストは、マンション経営・賃貸経営のニュースを発信する、全国賃貸情報新聞社編集部の河内鈴デスクです。

「法改正から半年、電子契約の今」をテーマに、電子契約を進めるうえでの課題、電子契約を推進している企業の特徴・実績などを考察。引き続き、黄氏がモデレーターとなり、パネルディスカッションを行いました。

黄氏:「河内氏は、電子契約の現状をどのように見ていらっしゃいますでしょうか?」

河内:「電子契約サービス・電子署名などを提供する企業に取材をすると、法改正以降、管理会社や不動産会社から導入前提の問い合わせが急増したという声をよく聞きます」

黄氏:「イタンジも、どのシステムを選べば良いかという具体的なお問い合わせが急増しています。法改正前は情報交換レベルでのお問い合わせが多かったので、変化を実感しています」

河内:「2022年7月26・27日に弊社主催で実施した『賃貸住宅フェア』で、管理会社の電子契約の取り組みをテーマに講演したところ、電子契約解禁のタイミングと重なったこともあり、100名弱の定員に対して130名以上が集まり、立ち見が出るほど盛況でした。このことからも業界での注目度が高いことを実感しました」

黄氏:「Web申し込みやITによる業務効率化に後れを感じている企業は、今後どのような進め方をすれば良いと思われますか?」

河内:「まずは他社の話を聞くことからはじめてみると良いと思います。企業の規模や売買・賃貸管理・賃貸仲介などの事業構成比に応じて進め方は異なるはず。自社に近い業態や課題を持っている企業の情報を収集すると、スムーズに進められるのではないでしょうか」

黄氏:「オーナー様に電子契約の導入メリットをご理解していただくことも必要だと思います。その点はいかがでしょうか?」

河内:「何をメリットだと伝えるかが重要だと思います。例えば、自然災害で不動産会社やオーナーの自宅が被災してしまったら、紙で保管することがデメリットになります。電子契約はデジタルデータですから、そうしたデメリットがない、つまり保管に関連するリスクを極力減らせるという訴求の仕方が有効ではないでしょうか」

黄氏:「今後、電子契約はどのように普及していくと思われますか?」

河内:「皆さん自覚されているはずですが、電子契約から紙に戻ることはないと思いますので、電子契約は増加していくでしょう。申し込みのオンライン化や、IT重説を進めてきた会社っていうのは、電子契約の案件数もどんどん増えていくだろうというところは予測できる。かたや、今までITツールの導入がゼロベースだった場合、いきなり電子契約はハードル高く、慣れるまでには一定の時間を要します。ただ、1回目は間違いがないか心配だと思いますが、件数が増えると大体慣れます。爆発的な普及というよりも、徐々に広がっていくのではないかと予想しています」

<パネルディスカッション(3)>不動産会社の経営者と考える、望ましいDXの進め方

続いてのパネルディスカッションのテーマは「DX」。「業務効率の先に見据える経営目線のDX」と題して、経営者ならびに経営に近いポジションの3名が語り合いました。

モデレーターは、不動産賃貸の業務と手続きを円滑にするサービスを提供しているイタンジの営業執行役員・増田直大氏。

パネラーとして福井県小浜市でDXを積極的に取り入れながら不動産業を営む平田不動産の代表取締役社長・平田稔氏、所沢市を中心に地域密着型の不動産会社を営むサンエイホームの専務取締役・新井克明氏の2名が登壇しました。

増田氏:「DXの定義は『企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データ技術を活用して、ビジネスモデル、組織、業務プロセス、企業文化、風土を変革し、競争上の優位性を確立すること』です。アナログなプロセスをデジタルに置き換えることが目的のデジタル化に対し、DXはデジタルの活用を前提に事業の競争力向上を目的としています。DXは『攻め』『守り』という言葉で表現されますが、いずれにしても顧客体験の高度化を含めて競争力につなげるために実施します。お二人は、DXの真の目的をどう捉えていますか?」

平田氏:「真の目的とは、『社会課題解決のためにデジタルを使うこと』ではないでしょうか。不動産業は文字情報をやり取りする仕事と言ってもいいくらい、人と人とのコミュニケーションがメインの仕事です。そのコミュニケーション手段にデジタルを活用しようというだけの話だと思います。DXと聞くと『人間が省かれてしまうのでは』と懸念される方が多いかもしれませんが、全然そんなことはなくて、知的生産性の高い仕事に人をアサインすることがDXの本質的価値ではないかと考えています」

新井氏:「私が不動産業界に入ったとき、営業職のタスクの多さを目の当たりにして、営業が何でもやらないといけない業界なのだなと痛感しました。現在、当社はDXをベースに役割分担を明確にして、各役割を専門化していく方向に舵取りをしています。でも、最初からそうだったわけではなく、22時に帰宅できたら早いと感じるくらいでした。今では18時になるとフロアに誰もいません。生産性向上のためにも、分業とデジタル化で仕事の仕組みを変えることが必要だと思います」

平田氏:「コロナ禍でオンラインミーティングが普及しましたが、以前から存在したツールがようやく開花したわけですよね。ITツールやシステムは未完成であり、開発企業に現場で働く社員などのユーザーの声をフィードバックして、アップデートするもの。自ら当事者として関与することで、不動産業界ならではのITインフラの構築に寄与することになります」

新井氏:「当社はDX推進にあたり、スモールスタートだったことが功を奏したと思います。まずは、営業部からDXに着手して、部門の成績が上がってきてから、全社での推進に移行しました。最近は、自主自立で考える組織をつくるように伝えているので、DX推進の基盤も各部門に委ねたいと思っています」


平田氏:「当社も少人数なので、基本的にすぐに着手する人、予定から逆算できる人を集めてDXを進めています。我々のように10人未満の小さい会社は、どうしてもトップダウンになってしまいます。何かを浸透しようとすると、トップ、マネージャー、スタッフの根気比べになるわけです。DXの実現には、『このシステムやツールが絶対に必要なんだ』と、経営者がしっかり言葉にして、推進していけるかどうかにかかっていると思います。

まとめ

DXのテーマでは、現役不動産管理会社のメンバーが語る「DX推進のホンネ」のパネルディスカッションも実施。こちらは、セキララなトークの展開とあって、こちらの記事では内容をご紹介できませんが、不動産会社の現場でDX推進の実務にあたる方々が登壇し、意見交換をしていました。

多様なポジションのメンバーが集い、日本の不動産業界が直面する「電子契約」「DX」を語った2時間。宅地建物取引業法が改正され、不動産取引の完全な電子化が実現したことで不動産契約の簡素化への期待が高まる今。これまでの仕事のプロセスを変えることは、そう簡単ではありません。しかし、社会全体でDX推進の流れがある現状を踏まえると、どの企業もいずれは向き合わなくてはいけないテーマです。ぜひ、こちらのレポートを電子契約導入・DX推進の参考にしていただければと思います。

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