アフターデジタルのビジネスに対応した組織の作り方|HOUSECOM DX Conference

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アフターデジタルのビジネスに対応した組織の作り方|HOUSECOM DX Conference

「アフターデジタルの組織づくり」について4人の有識者によるディスカッション

秋田夏実氏(以下、秋田氏):アフターデジタルのビジネスに対応した組織の作り方について、セッションを進めていきたいと思います。まずは自己紹介からいきましょう。私はみずほファイナンシャルグループの秋田と申します。5月に着任したばかりで、人事の仕事を主に携わっています。それ以前は日本の国内外のマーケティングを専門的にやっておりました。5年ちょっと前に縁がありましてアドビの日本支社の副社長になりました。アドビのDXにも関わりましたが、お客さまの企業のサポートもさせていただきました。今日は私自身も学びの機会にしたいと考えております。

みずほファイナンシャルグループの秋田夏実氏

奥谷孝司氏(以下、奥谷氏): 奥谷と申します。オイシックス・ラ・大地という会社でCOCO(Chief Omni-Channel Officer)をやりながら、いろんな会社のデジタル支援・顧客支援を行っています。

藤井保文氏(以下、藤井氏):ビービットという会社で執行役員CCO(Chief Communication Officer)を務めています。ビービットはユーザーエクスペリエンスとUXのソリューションを提供している会社です。中国や台湾をはじめとした中華圏の責任者もしています。今日はこんなメンバーに囲まれて、私の書いた書籍のタイトル(筆者注:『アフターデジタル』)をセッション名につけていただき光栄です。

田村穂氏(田村氏):ハウスコムの田村です。ハウスコム株式会社はリアル店舗を200店舗ほどもっている賃貸仲介会社です。お客さま側に立ってサービスを提供しています。会社のミッションが「住まいを通して人を幸せにする世界を創る」で、地域社会でも最も人によりそう住まいのデザインカンパニーにしていきたいというビジョンを掲げています。お部屋探しをして終わりというわけでなく、地域の中で生活する人がおられますのでその人たちに対してデザインやライフスタイルを提供していきたいと思っています。

時代の変化で、顧客との関係性も変わっていく

秋田氏:本日のテーマに入っていきたいと思います。「顧客との関係性」。お客さまとの関係性の変化についてみなさん感じることも多いんじゃないかなと思います。

藤井氏:最近UXやCXのコンサルティングを通して考えていることがあります。特にマーケティング業界ではUXを使う時に、どのようにコンバージョンレートをあげるかという話が多いんですよ。これは「顧客体験の最適化」ですよね。ただ、DXで語られているのは、それだけではない。どちらかというと「顧客体験価値の最大化」の要素があります。
「最適化」は今あるプロセスをより良くしていくという積み重ねの話だけど、「最大化」はどのように領域を拡大していくべきか? という話になります。例えば、最近聞いた面白い話がありまして。Amazon Echoが登場し、ホームセキュリティ業界のシェアが奪われているらしいんです。Amazon Echoにはカメラもあり、家の中の状況が留守中も分かるんですね。リモート監視ができ、離れた場所からでも誰かいると声もだせる。十分ホームセキュリティとしての機能があるので、業界からすると思わぬところで価値の上塗りがされてしまったという状況です。これは、ほかの業界でもあると思うんです。

秋田氏:思いもよらぬところから現れるというのが、いろんな業界であると思います。奥谷さんいかがでしょう。

奥谷氏:僕はそれを異業種、パーソナライズ競争という言葉で表現してきました。例えば運動したいという時に、僕はジムに行きますが、娘は部屋に入ってYouTubeつけますからね。「部屋で運動してパパより痩せたよ」と言われてしまう(笑)。オンラインで体験が完結して満足している。(ジムからすると)気がついたら競合がいるという感じなのでしょう。マーケターとして視野を広くしておかないとダメだなと思います。

田村氏:顧客との関係性を見てみると、お客さんの部屋探しを見ても部屋を探して終わり、というゴールじゃなくなってきています。そこに住むとどういう生活が待っているのか、というところにまでなっている。ポータルサイトに入力して部屋の情報が出てくるだけでは満足しなくなっていて、そのあとの未来を見せてねという要望が多くなっています。我々もそういうのを見せていかないと、と思っています。「部屋探し」ということだけで見るとどこの会社も同じように部屋の情報を提示しているので、そこにあまり価値はないですよね。でも今は、住んだ後のリアルな体験はどうなのというところまで情報を求めてくるケースが多いです。

ハウスコムの田村穂代表ハウスコムの田村穂代表

奥谷氏:未来を見せていくとなると、自社で提供しきれない気がしますが、そのあたりはコラボレーションとかをやっていくんでしょうか? 商売だけでみれば不動産契約をすればいいだけでしょうが、どうお考えですか?

田村氏:それぞれの地域でお客さんのペルソナ像も違い、求められるものも地域ごとに異なります。だから営業マンにもその地域のことを知りましょう、と伝えている。例えば国道に面している部屋はうるさいとか経験すればわかりますよね。しかし物件情報のサイトにはこのようなことは書かれていない。これと同じで、部屋探しをされている段階で“ここのスーパーは安いですよ”、“この幼稚園の年長さんの運動会は感動しますよ”とか、地域の情報をお伝えする。そうすると“じゃあお父さん運動会は休みを取ろうか”とか具体的にイメージできます。

奥谷氏:お客さんの立場になってというか、状況を読み取ることで良い体験、ご提案をするということですか。

田村氏:そういう意味でいろんな業界の人と話していくのが大事ですね。

カスタマーサクセスを重視した先にあるのが「お客様のためのDX」

秋田氏:次のトピックがお客様のためのDXです。お客様を中心に据えて、どうDXを進めていくのかというのが鍵だと思います。ハウスコムさんの取り組みはどうでしょうか。

田村氏:今までは物件の写真を撮って、キッチンなどの主な設備をお客さんに説明できるようにしていましたが、いまはコンセントはどこにいくつあるか、とかそういうところまでやっています。まだまだですけど。お客さんの立場に立つという視点を今日はいろいろ伺いたいと思っています。

奥谷氏:今の話を聞いて思うのは、究極「カスタマーサクセス」を考えないといけないことですね。やっぱり体験自体をより良く、長持ちさせるのはカスタマーサクセスがすごく大事。この言葉はBtoBの世界ではよく言われますが、小売業や不動産業界ではあまり言われていませんよね。でも、家を探すだけなら機能的価値の提供は既に充分にあって、その先を考えるのがお客さんのためのDXなのかな。

顧客時間共同CEO取締役で、オイシックス・ラ・大地の専門役員COCOの奥谷孝司氏顧客時間共同CEO取締役で、オイシックス・ラ・大地の専門役員COCOの奥谷孝司氏

藤井氏:いま日本の状況からすると、新しいお客さんを獲得することにコストがかかります。人口はどんどん減っていくし、みなさんの技術がある程度固定化され、レッドオーシャン化している。一方で、デジタルが浸透すると、行動データをもとにこの人は家のことを探しているのかとか、移動しているとか何をしているのかが分かるようになる。これなら、既存のお客さんを支えて、成功体験を実現(カスタマーサクセス)しやすくなっているとも言えます。新規顧客の獲得も大切ですが、いかに既に接点あるお客さんを成功に導いていくか、ビジネス用語だとLTVを高めていくかが重要になる。

秋田氏:サブスクリプションもそうですよね。お客様が体験して、実際にトライして、課金される。そこは入り口で、そこからどれだけサービスをアクティブに使っていただくか。満足してもらえると新たなお客様を連れてきてくれます。

奥谷氏:僕の2冊目の本でも書いていますけど、繋がり続ける価値というのがあると思います。デジタルで繋がることで、お客様の行動が可視化できる。今、新しいビジネスをしている多くの会社さんは、繋がりつづける価値、提供したい体験というものがあって、手段としてサービスを展開するという会社が増えています。例えば福岡にあるYAMAPさんは、安心安全な山登りを目指しているサービスですが、地図の情報だけでなく、ギアをシェアするプラットフォームや一緒に山登り仲間と繋がるコミュニティもある。今ではECもあり、スノーピークさんのようなメーカーからすると、山登りのサポーターだと思っていたら競合になっている。

秋田氏:コミュニティが独自に進化しているということですか。

奥谷氏:一見すると安心安全な登山ができるというアプリですよね。でも山を登らないときも登山日記を楽しめる。さらに、ロイヤリティプログラムもやっていて、ロイヤリティが山に還元される。こうなると自分がやっていることがソーシャルグッドにもなってくる。ユーザーは機能を理解し、体験して、繋がり続ける。YAMAPの社長がこのアプリを作った背景には、自然と人を繋がなければいけない、それを山を楽しむことで実現してほしいという思いがあった。そしてこのアプリは企業からすると(上記写真:スライドのトライアングルの)上から下へ、ユーザーは下から上につながった。エンゲージメントバリューの高い会社だなと思います。

藤井氏:Netflixも競合がどこかって聞かれたときにFortniteって言ったらしいですね。遊んでいるコンテンツをYouTubeに置くだけで動画コンテンツになっちゃうから、一番怖いと。

奥谷氏:これからのマーケティングは時間の取り合いです。契約を決めたら終わりではなく、使用後や購買後の時間をどれだけ取れるかによりますね。可処分時間の奪い合いです。

アフターデジタルの組織づくり

秋田氏:次のトピックにいきたいと思います。アフターデジタルの組織づくり。どういう組織でそれを形にしていくのかという点についてフォーカスをあてていきたいと思います。

田村氏:デジタルの世界と少しずれますが、地域社会とどう関わっていくか。地域分社化していこうという流れが我々にあります。今までは、一都三県と東海というペルソナも近いところでやっていました。ここからどう拡大していこうかという時に、地域に根ざしていく必要性を感じ、小さい組織を作っていこうとなりました。

藤井氏:住んだ後の価値はすごく重要で、それってローカルごとに変わるんだよねってお話しをされてきましたよね。住んだ後の価値提供をローカルごとに支えないといけないので、ローカルそれぞれの価値を分社ごとに理解して揃えなきゃいけない。まさに住んだ後の価値を大事にしようということを進めていくことなると、今考えておられる組織づくりが適しているんじゃないかなと感じました。

ビービット執行役員CCOの藤井保文氏ビービット執行役員CCOの藤井保文氏

奥谷氏:ジャーニー型でカスタマーサクセスを追求するためには、組織は小さければ小さいほうがいいですよね。

古い業界でどう変わり、デジタルスキルを身につけるのか

秋田氏:古い業界でDXに取り組むヒント。これが次のお題になってきます。古い業界での取り組むヒントをぜひご意見いただきたいと思います。

奥谷氏:SUZUKI MOTORSの事例をお伝えしたいです。東北にあるバイクのディーラーさんなのですが、販売手法としてYouTubeを活用しているおもしろい会社です。実際に鈴木さんにも僕はお会いしたのですが、バイクを販売するという業界を彼らなりのDXで変えた人なんです。もともと祖父から引き継いだバイク屋さんをやっていて、当時は中古のバイクを取り扱っていました。そのバイクをYouTubeで丁寧に見せて売るという取り組みを行い、成功しています。この勝利の方程式を活用し今は新車販売も行っています。YouTubeの体験を経て顧客が鈴木さんからバイクを買いたい、と思う関係性ができています。バイク業界では2年に1回くらいのタイミングでバイクの買い換え時期があるそうで、従業員には2年後のお客さんを作ってるんだよと伝えながらバイクの面白さや楽しさを広めているそうです。とにかく購入者やユーザーと徹底的に楽しく繋がる。買った後の体験を充実させる。古い業界も鈴木さんのように小さいところからはじめれば、おもしろいことができるんじゃないでしょうか。

秋田氏:最後のテーマです。社内のデジタルスキルの底上げ方法は? ということですね。進め方のコツ、みなさんのご経験やお考えからヒントをいただければと思います。

藤井氏:デジタル人材をとにかく採用しようとなりがちですが、業界やユーザーのことをわかっている人が、ハイレベルでなくてもいいのでデジタルスキルを身につけた方が成果はあがると思います。データサイエンティストの方がその業界のことについてデータからインサイトを掘り出せるかというと、そうではないのがほとんどです。なぜなら業界のことをわかっていないので仮説がほぼ出ないから。うまく出来ている会社さんは、データサイエンティストの方に1カ月バックヤードやお店に立ってもらって、そこから仮説を思いついてもらう。

田村氏:その通りですね。我々も社内の人よりも外部の人を呼んでるんですが、それだけだとつまらない発想しか出てこない。内部のエッセンスを入れていかないといけませんね。

奥谷氏:お客さんと従業員のことを考えるとヒューマンリソース(HR)の大切さがあると思います。アプリ入れたからよろしくと言われても店舗では聞いてないとか、実際に使用する人がアプリ使いにくいよ、とかすぐ落ちるよとか、現場の声をHRの方が拾って上に上げていけると良い。DXは役員含め全員で取り組むもので、ツールやアプリを押しつけるのではなくHRの方がフェアな立場で意見を拾い上げ、そこからスキル教育していこうという話になったりするといいんじゃないかなと思います。

秋田氏:私もHRに関わっているのでおっしゃる通りだと思います。

藤井氏:いかに社内にも意義を伝えていくかが大事です。守りも大事だけど、社員に対してもっと攻めのアプローチをしていくのも大事かな。いかに社内で目的意識や価値のためにデジタルがあるかの納得感を全員でもっているか、納得できないとこを解消していくというのがデジタルスキルの底上げにも重要だと思いました。

秋田氏:最後に一言ずつおねがいします。

田村氏:今日聞いた話の中にはすぐ取り入れたいなという内容もありました。HR(人材開発)の方を交えて取り組んでいくなど、すごく感銘を受けました。

藤井氏:(今日の登壇者は)論調がみんな一緒なんですよね。結局DXに真摯に取り組んでいると同じ波長になってくるんだなと思いました。顧客の観点からみて、繋がる理由はなんなのかということを引き続き問い続けるのが大切なのかなと思います。

奥谷氏:DXというのは、CXとEXの掛け算。これをぜひ考えて実行してほしいと思います。またDXという言葉をカスタマーサクセスに置き換えて、カスタマーサクセスを考えていきましょうということが伝わればいいのかなと思います。

▼2022年8月25日に開催された「HOUSECOM DX Conference」の第二部のレポートはこちら
<DX推進で売上25%アップ 九州のホームセンター「グッデイ」に学ぶ組織変革のアプローチ|HOUSECOM DX Conference>

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