全国巡って知った 不動産テックを使いこなす管理会社の社員教育

- 「賃貸住宅フェア2023」のセミナーレポート
- 不動産テックサービスに振り回されてはいけない
- DXを阻むのは「社員のやる気」
- 物件の付加価値もテクノロジーが差をつける
2022年7月に東京ビッグサイトで「賃貸住宅フェア2023」(株式会社全国賃貸住宅新聞社主催)が開催されました。当日は、SUMAVEでも取材をした「COSOJI」などの不動産テック企業もブースを出展、多くの人が訪れました。今回はフェアで行われたセミナーのうち「全国巡って知った 不動産テックを使いこなす管理会社の社員教育」をレポートします。講師はプリンシプル住まい総研 所長 上野典行氏です。上野氏はリクルートでリクナビを開発、その後住宅領域で住宅情報タウンズやマンションの編集長を歴任し、プリシンプル住まい総研を設立しました。
プリンシプル住まい総研 所長 上野典行氏
不動産テックサービスに振り回されてはいけない
不動産テックサービスは次々と登場していますが、上野氏は「不動産テックに振り回されてはいけない」と話します。「様々なサービスがあり、興味を持つのはいいが見極める必要がある」と話します。「単に新しいから導入する、ではなく、(1)目的の設定、(2)複数の手段を検討、(3)導入後の振り返りが重要になります」
例えば、コロナ禍でクレーム対応が1.3倍になっている場合、(1)目的の設定は、「なんとか対応件数を減らそう」「感情的な対応ストレスでの退社を減らそう」「今の人数で迅速に対応できるようにしよう」などが挙げられます。その上で、(2)複数の手段として「入居者アプリの導入」や「入居者が自分で解決できるFAQを充実させる」「コールセンターとチャットセンターを連携させる」などが挙げられます。その上で(3)導入後の振り返りとしてそれぞれ「既存入居者がアプリを結局使ってくれなくて二度手間になっていないか」「FAQの閲覧回数やコール件数、社員の退職率などのデータ」「無理に連携しなくてもトラブルになっていないか」などの視点が必要になってくると話します。
「単純作業は自動でやってもらったほうがいい。例えば、不動産情報の入力作業を人力でだけでやると大変。同じ情報をコピペする業務は、RPAなどを用いて自動化する。そうすれば24時間365日稼働してくれるわけです」
「自動化で恩恵があるのは事務作業。例えば交通費の登録業務では、旅費交通費を個々人毎に集計し、会計システムへ登録していたケース。WinActorというサービスを使い、入力を自動化することで生産性を上げました」
大切なのはITではないと上野氏は強調。「不動産業界は遅れていると言われがちの業界。今こそ女性も含め多様な働き方で楽しく仕事ができるようにする工夫が必要」と話します。
DXを阻むのは「社員のやる気」
経営者がDXに興味を持っても、社員も含め動く必要があるのは言うまでもありません。しかし、上野氏は「社員にとってDXは給料と関係ないと思われがち。それにより進まないこともある」と話します。「例えば電子申込が進めば管理が楽になると思う人はいるでしょう。しかし、仲介業は依然として対面が多い。仲介の担当は自分の関係ないと思ってしまうでしょう。同じように先ほど少し紹介したオーナーアプリや入居者アプリは、社長や経営層がうれしいだけだと思ってしまう。これでは進みません。
大切なのは社員へのアプローチの仕方であり、上野氏は「例えば仲介管理で多店舗展開をしている会社の例ですが、来店数の多い土日は禁止にして、平日にIT重説とした。そうすると、営業マンは土日の接客数が増えて目標達成したり、早く帰ったり出来るようになった。ならば別の会社でもやろうということになりました」と話します。
「電子契約も同じで、IT重説をすれば普段使っているレターパックが届かないなどのトラブルが減ることを伝えれば社員もやろうという気持ちになる。オーナーアプリや入居者アプリも同様で担当者にとってトクだと思わせることがコツ」。
物件の付加価値もテクノロジーが差をつける
不動産会社、特に管理会社に上野氏が解説をしてきましたが、ここから同氏は不動産の商品である物件について話をしていきます。
「日本は新築神話があり、新築の家賃設定は強気であることが多い。築古物件との家賃格差は広がるばかりです。しかし、このアンケートをご覧ください。築年数にこだわる人、こだわらない人は半々です」
築年数にこだわる、こだわらないは半々
と、リクルートの調査をもとにプリンシプル住まい総研が集計したデータを見せます。「お部屋を選ぶ際の基準として、築年数をどのようにお考えですか」という質問に対して、「リフォームされていてきれいなら、築年数が古くてもかまわない」が大半を占めていました。そこで上野氏は「実際にお客様がこだわるのは、築年数ではなく設備の差ではないでしょうか」と話し、例えば築年数が古い物件の場合、「ネット無料」であったり「防犯カメラ」「宅配ボックス」が設置されていないことを指摘。「古い物件もリフォームし、ネットサービスなどをいれることで空室改善が期待できる。さらに設備強化された物件は賃料相場も高くなる」と解説しました。
大切なのは設備投資
上野氏はDXも含め不確実な世の中で経営課題を解決していくためにはトップアプローチが不可欠と話します。「社員に丸投げしてはなりません。経営者が課題感をもって動くことがなによりも大切。その際に経営者に求められるのは常に改善を考えることです。企業の目標を設定し、その目標に対して具体的な施策を行う。そして、その結果を計測する。この繰り返し。先ほどご説明した(1)目的の設定、(2)複数の手段を検討、(3)導入後の振り返りの3つです」とセミナーをしめくくりました。