不動産DXのリーディングカンパニー「ハウスコム」が新サービス発表会を開催 語られた不動産仲介の未来とは?

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不動産DXのリーディングカンパニー「ハウスコム」が新サービス発表会を開催 語られた不動産仲介の未来とは?

 不動産賃貸仲介や管理業務などを手掛けるハウスコム株式会社が、1月27日に新サービスなどの記者向け発表会を行った。2015年にいち早く「オンライン内見」サービスを導入し、2021年1月には外部有識者も交えた「DX推進会議」を立ち上げるなど、不動産業界のテック化をリードしてきた同社は、テック化が加速する時代をどう捉え、どんな取り組みを推し進めるのか。

■田村穂代表が語るビジョン

 発表会では、ハウスコムグループの沿革や事業内容が紹介されたあと、田村穂(けい)代表取締役社長執行役員がビジョンを語った。
 田村社長が最初に取り上げたのが「2025年の壁」だ。経済産業省が2018年に発表した「DXレポート」で指摘された言葉で、複雑化・老朽化した既存のシステムが残り、DXが推進されなかった場合に起きる企業の競争力の低下や日本経済の停滞を表している。ハウスコムでは「2025年の壁」を見据え、数年前から物件管理・顧客管理・契約管理のシステム刷新を進めてきたという。

 田村社長によると、ハウスコムのDXへの取り組みが始まったのは2015年ころからだった。
「これまでの不動産会社でいいのかという問いから始まりました。従来の不動産仲介は、内見は現地に行って、お店で契約する、つまり、お客様と不動産業者で時間と場所を共有するものでした。一方、オンライン内見などは、時間は共有しますが場所を共有しない世界。お客様はどちらを選択するのかと考えたとき、目指す方向は明らかでした。この先には時間も場所も共有しない世界があるはずです」
そして、2025年には不動産業界の形そのものが変わってくると田村社長は見る。
「例えば、現在は賃貸仲介業者が部屋を紹介し、そのあとは管理会社がサポートするという役割分担がありますが、お客様はそれを一体と考えています。その垣根がなくなってくるでしょう」
 場の「マッチング」を担っている賃貸仲介業者から脱皮し、「ライフスタイルを丸ごとデザインする企業」を目指すという。会見のなかで田村社長が「2~3年後のイメージ」だと述べた部屋探し動画では、オンラインでつながったライフスタイルデザイナー、顧客データを元に住む街の提案を行う様子が描かれていた。

■DXには二つの方向性

 さて、同社が考えるDXの方向性はふたつある。
 まず、DXを推進することによる「CX(カスタマー・エクスペリエンス/顧客体験)の最大化」、そしてもうひとつが、「EX(エンプロイー・エクスペリエンス/従業員体験)を最大化し、新しい価値を生み出した結果としてのCXの最大化」だ。
「我々仲介業者は営業担当の従業員を介してお客様と接します。お客様の体験を最大化することに直接働きかけるのはもちろんですが、それに加えて従業員体験を最大化するよう働きかけることが必要です。従業員体験が良くなれば、必然的にお客様にも新しい価値を提供できるようになるのです」(田村社長)

同社がイメージするDX推進(会見資料より)

 不動産仲介業は、CXをとりわけ重要視すべき業態と言えるだろう。多くの場合、物件を紹介できる仲介業者は1社ではない。同じ商品でも、それを「売る」側がどんなCXを提供するかによって顧客が感じる価値は大きく変わってくるのだ。

顧客が感じる価値は、CXによって物件本来の価値よりも高まることもあれば、損なわれることもある(会見資料より)

 CXの向上に直接働きかける手段を、田村社長は「攻めのDX」と位置付ける。新商品・サービスの開発やマーケティングなどを進めているという。同社が2021年10月に始めた「スマートレント」サービス(詳細は後述)も「攻めのDX」の代表的な取り組みのひとつだ。

 一方、自動化・業務効率化・デジタル化などシステムをつくって情報入力や事務処理の手間を省くDXは、EXに働きかける手段と言えるだろう。
「テクノロジーやデータを使って効率化を進めます。そうしてできた時間は、従業員がお客様に最大の価値を提供するために使うことができる。EXの向上はCXの向上に直結します」

■「ライフスタイルを丸ごとデザイン」

 これらDXへの取り組みは、同社が目指す姿に直結する。2024年~26年ころまでには、日本の通信インフラは5Gネットワーク化すると考えられている。高速大容量通信が一般化した先にハウスコムが見据えるのは、先にも触れた「部屋探しにとどまらない、『ライフスタイルを丸ごとデザインする』ライフスタイルデザイナー」としての姿だ。田村社長は、賃貸仲介の未来をこう語る。
「『申し込みのダブルブッキング』のような事態はなくなり、問合せをした段階でどの物件の審査が通るかなどもわかるようになるはずです。お客様と我々業者の情報の非対称性もなくなっていく。そして、部屋探しのあり方も変わるでしょう。少し前までの仲介業者は、あくまで物件の紹介、ちょっと気が利いてくるとその地域のことを説明するというのが役割で、それが普通の部屋探しでした。でも、これから先の仲介業は、いわば『チケットを売る』ような感覚になってくると思う。テーマパークのチケットを売り買いするように、『吉祥寺という街に住む』ことを体験するためのチケットをお客様に買っていただく。家探しは部屋を決めるというよりも、その地域コミュニティに入り、体験するための入り口になるはずです」

■間取り図を販売する業界初の新サービス

 会見では、そんなハウスコムのビジョンを形にするためのサービスも紹介された。
 ひとつが、グループ子会社のハウスコムテクノロジーズがリリースした「らくマド 」だ。ハウスコムグループが保有する間取り図データを他社へ販売するSaaSサービスで、公開する間取り図は20万件に及ぶ。全国展開する大手事業者が自社で作成した間取り図を他社に公開するのは、業界初の試みだという。

全国200店舗以上を擁するハウスコムのスケールメリットがあってこそのサービスだ(ホームページより)

間取り図は不動産仲介の現場に欠かせない基本的な情報だが、これまでデータの共有はほとんど見られず、各社それぞれが同じ物件の間取り図を作成していた。
サービス・イノベーション室の安達文昭室長はサービスをリリースした狙いをこう語る。
「これは、業界全体の業務効率を改善し、生産性を高める取り組みです。業界の慣習として、自社が持つデータを外部へ提供するのは嫌がるケースが多い。しかし、当社の社風は『オープン・サービス・イノベーション』です。競争ではなく共創で地域の不動産業者に活力を与えたいとリリースを決めました」
 サービス利用は先払いのチケット制で、3件1000円のお試し利用から、100件33000円のまとめ買いまでニーズに合わせて選択できる。
間取り図の作成自体はそれほど難しい業務ではないが、ベテランスタッフでも1件20分程度の時間はかかる。特にこれからの繁忙期、よりきめ細かく顧客と向き合いたい事業者からの引き合いは強そうだ。

■昨年10月ローンチのサービスに反響750件

 二つ目が、去年10月5日にローンチした「スマートレント」サービスだ。ハウスコムが物件の借主となって初期費用などを一括払いし、入居希望者に転貸することで、入居者は初期費用と家賃の額を自由に設定できるようになるもの。
物件を借りる際の初期費用は平均で家賃の5~6カ月分とされる。例えば家賃6万円、敷金・礼金1カ月分ずつの物件を借りる場合、仲介手数料や入居月と翌月の家賃を加えた初期費用の目安は33万円程度にのぼる。だが、このスマートレントサービスを使えば、初期費用を半額に抑えて残りを家賃に含める(概算で家賃は6.52万円程度)ことも、初期費用をゼロにする(概算で家賃は7.04万円程度)こともできるのだ。

入居者アンケートでは、初期費用が高くて住みたい物件をあきらめた経験がある人が57%もいたというデータもあるという。スマートレントがひとつの解決策になる

 新生活の開始にあたって手元資金を残しておきたい需要は大きく、サービスローンチから3カ月半で750件以上の反響があった。新展開として、初期費用に加えて引っ越し費用も家賃に含めるサービスや、家具・家電のレンタルプランも始まっている。
 サービス開発を担った第5営業部の尾﨑雅哉部長は言う。
「ニーズはまだまだ眠っていると思っています。これからも、例えばクレジットカード払いをできるようにしたり、法人向けのサービスを始めたりと新展開を意識しながら拡大を図っていきます」
 既に30社を超える管理会社がこのシステムの利用を承諾しているほか、ハウスコムが仲介を手掛ける自主管理物件の多くでもスマートレントサービスを利用できる見込みだ。

 ハウスコムがテクノロジーへの投資を惜しまないのは、目の前の顧客に寄り添い、顧客が感じる価値を最大化するために他ならない。今後の展開にも期待したい。

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