コロナ禍も後押し AIやチャットボットを活用する賃貸仲介プラットフォーム「ietty」の代表インタビュー

- 「ietty」によって賃貸仲介を透明化する
- コロナ禍が後押しし、ユーザーのオンラインへの抵抗が下がる
- ゆくゆくはテクノロジーの力で不動産業界全体の改革を目指す
【画像出典】https://ietty.me/
オンライン不動産仲介を行っている「ietty」はAI搭載のチャットUIがユーザー属性、物件情報、物件の評価情報といったデータを掛け合わせて分析することで、ビッグデータからユーザーに最適な物件を提案しています。従来型の不動産業界では、すでに空室のない物件をウェブ上に掲載し来店者には「もう決まってしまった」と別の物件を紹介するなど、物件を探している人にとって誠実とは言えない側面がある、と話すのは株式会社ietty代表取締役社長の小川泰平さんです。今回は小川さんに賃貸業界の課題とiettyのビジネスについてお話を伺いました。聞き手はデジタルマーケティング・ビジネス支援の株式会社エヌプラス代表であり、DXやスマートシティなどのコラムも執筆、不動産テックに詳しい中村祐介。
トランザクションの多い「仲介」に着目
取材はオンラインを通じて行った。
左:株式会社エヌプラス 代表 中村祐介 右:株式会社ietty 代表取締役社長 小川泰平氏
中村祐介(以下、中村):小川さんはもともとデベロッパー出身ですよね。サービスを始めたきっかけを教えてください。
小川泰平氏(以下、小川氏):住友不動産で5年働いていて、最初は用地の取得をする部署にいました。その後、賃貸住宅の営業企画の部署に異動したのですが当時から不動産業界には負の側面が大きいなと思っていました。
中村:具体的にはどの部分でしょうか?
小川氏:多くの人がおっしゃっていると思いますが、不動産業界は提供する側とされる側の情報の非対称性が顕著な業界なんですね。そこでこの情報をもっと開示して、透明性のあるサービスを提供していきたいと考えました。
中村:不動産業界のなかで、売買や管理などの選択肢もあったと思います。賃貸を業とする仲介を選ばれた理由はあるのでしょうか。
小川氏:トランザクション(取引)の多さです。トランザクションが多ければ、そこで蓄積できるデータの量も多く、たまる速度も早い。また、仲介は売買や管理などと比べて、業務がシンプルというのもあります。シンプルで数が多いものをITを使って効率化するだけでなく、データを基に新しいソリューションの提供ができると考えました。
中村:通常だと、売買があり、管理があり、仲介がある。扱う額は売買が強いが、数でいうと仲介が圧倒的に多い。そこに目をつけたわけですね。
小川氏:仲介でノウハウを蓄積できれば、管理にも売買にもアプローチできると考えています。
コロナ禍を通じてオンライン接客への抵抗がなくなり、利用者は倍以上に
これまでのオンライン賃貸仲介と、iettyとの違い。【ietty社から提供を受けたものを編集部で一部修正】
中村:iettyのサービスは、アプリを用い、アンケートとチャットで物件を探すというものです。まだエリアは限られていますが、実際に裏側ではどのようなことが行われているのでしょうか。
小川氏:ユーザーがiettyに登録をすると、機械学習を用いて約10分後にはスコアリングされます。どれだけ急がれているのか、まだそれほどではないのか。賃貸は入社や転勤、大学入学などライフイベントにあわせてニーズ化することも多いので、優先順位をつけさせてもらいます。
中村:アプリを入れるといつまでに借りたいかなどのアンケートが出てきますね。
小川氏:そうです。また、物件を探しているときに最寄り駅を一駅しか選択していない場合は物件数が純粋に少なくなってしまうので、二駅目の登録を促すなどのアクションもここで行います。
中村:これまで運営されてきているからこそお聞きしたいのですが、コロナ禍でユーザーの行動で変化のようなことはありましたか?
小川氏:新型コロナウイルス(COVID-19)感染拡大で、顕著だったのは接客対応が直接対面からオンライン(ビデオ通話)になったことですね。iettyでは、アプリなどのチャットがファーストコンタクトになりますが、その後は来店による店舗でのオフライン接客というのが多かったんです。ですが、今ではリアルでの対面接客よりもビデオ通話によるオンライン接客の比率が増えています。
中村:どのくらいの増加でしょうか?
小川氏:2020年1月の段階でオンライン(ビデオ通話)の利用率は約13%でしたが、2021年3月には約60%まで増加しています。
中村:5倍近く増加ですか。やはり今までの不動産の常識(=内見は現地で、など)が変化し、それが新常態として定着してきているのかもしれませんね。
強みは一気通貫、弱みの接客部分を提携で強化
中村:iettyのこれからの課題感はどこにあると考えていますか?
小川氏:今のところは、実際の物件を見たい時などの「人」の部分でしょうか。iettyは「1.マーケティング」(広告やPR、クチコミ)で人を呼び、「2.テクノロジー」(チャットボットなど)でお客様に仲介の新しい体験をしてもらい、最後は「3.セールス」でクロージングをするというジャーニーですが、この1と2はだいぶ磨けてきたという自負があります。足りないのは3の「セールス」でこれをどのような形に磨いていくのかを検討しているところです。
中村:2017年には、センチュリー21・ジャパンと伊藤忠商事との資本業務提携がありました。センチュリー21のフランチャイズ店舗と組むことで、「3.セールス」の拡大を目指したということでしょうか。
iettyの強みはマーケティングから接客、セールスに至るまでを自社で一気通貫して対応する点【ietty社提供】
小川氏:おっしゃる通りで、自社だけではなく、私たちにない強みを持つパートナーさんと組みながら、お客様によりよい体験をしていただけるようにしていきたいと考えています。
中村:不動産仲介のネットサービスというと、SUUMOやHOME’Sといったサービスが古くから存在しています。これらは、膨大な登録物件数をほこり、そのデータをユーザーが検索するというサービスとして存在していますが、iettyはこれらと何が本質的に違うと考えていますか?
小川氏:お客様にとって見える部分での違いは、検索ではなくレコメンド、物件をアンケートやチャットを通じてご提案していくということ。そして、物件の契約にいたるまで一気通貫でiettyが対応していることです。挙げていただいた他社のサービスは、ユーザーがめぼしい物件を見つけたら問い合わせをする。そして問い合わせをした後は、受け付けた不動産仲介業者がメールや電話で対応していく。
中村:SUUMOやHOME’Sが送客までを主なビジネスにしているのに対して、iettyは契約まで一気通貫で提供している。同じように物件情報を集めて、ユーザーに提供しているのに、サービスのデザインが違うことで体験も大きく変わってくるわけですね。
事業会社としての知見をBtoB領域にも展開していく
中村:BtoB領域の状況もお聞かせください。
小川氏:自社開発のAIとチャットボットを活用した不動産サービスに加えて、福利厚生サービスのiettyBIZやチャットソリューションの外販を行っています。iettyBIZは法人向けの福利厚生サービスで、従業員がietty経由で部屋を決められます。法人向けにオフィス仲介事業も行っていますね。チャットのソリューションは、チャットを通じてコミュニケーションを目指す企業に対して、設計から運用までを支援するサービスです。また、不動産仲介業の方々に向けた管理ツールも提供をはじめています。
中村:iettyのこれからはどのように見ていますか?
小川氏:まず賃貸仲介分野で誠実な社会を作り「iettyに不動産のことを任せれば大丈夫」と言われるようになりたいです ね。業務内容としても契約の部分でスマートコントラクトの導入や、ほかの事業者さんと組むことでiettyの中で決済まで完結するようになるとおもしろいなと。いずれにせよ「誠実を、テクノロジーで実現する」というミッションを一番大事にしていきたいです。
中村:誠実さという部分は、以前取材をしたCOSOJIの代表インタビューでも登場してきたキーワードです。不動産の情報の非対称性を、業界出身者が変えようとしている動きは、これからも加速しそうです。