ソフトバンク・ビジョン・ファンドが900億円を投資! 住宅価格を一変させる可能性を秘めたアメリカのスタートアップKaterraとは

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ソフトバンク・ビジョン・ファンドが900億円を投資! 住宅価格を一変させる可能性を秘めたアメリカのスタートアップKaterraとは

はじめに

2017年末のCompass(コンパス)への500億円の投資に続き、1月にはアメリカの建設テックスタートアップKaterra(カテラ)への900億円の投資を発表したSoftbank Vision Fund(ソフトバンク・ビジョン・ファンド)。

この投資により、Katerraの時価総額は3200億円(30億ドル)を超えたと報道されています。創業者のマイケル・マークス(Michael Marks)氏は、より高額な出資を希望していたとインタビューで答えています。これほどの資金を得ても、まだ足りないと言うマークス氏がKaterraを通じて行いたいこととは何なのでしょうか。

その答えを得るべく、今回の記事では、注目のスタートアップKaterraを徹底解剖していきます。

目次

Katerraとは

Katerraは、2015年にマイケル・マークス氏によって創業されたゼネラルコンストラクター(以下ゼネコン)です。ただ、通常のゼネコンと異なるのは、自社をIT企業とも名乗っている点です。この理由には、本記事の後半で触れています。

現在、1000人以上の従業員を抱え、2018年3月時点では公式ホームページによると、アメリカを含め4カ国にオフィスを構えています。

建設業界の世界市場規模は1280兆円(12兆ドル)。マークス氏によると、その中で住宅建設の市場規模は430兆円(4兆ドル)。アメリカ国内だけでも53兆円(5000億ドル)にのぼると言います。

これは、Katerraの自社ホームページに掲載されている映像です。創業者のマークス氏を始め、役員とマネージャー陣がKaterraのビジョンについてインタビュー形式で語っています。

インタビュー内で、Katerraの目指すゴールは、「今までの建設プロジェクトにかかっていた時間を半分以下にし、より多くの人の手の届く価格の家や設備を提供すること」だと言っています。

創業以前は、Flex Ltd.(旧Flextronics)という設計段階から電子機器の受託生産を請け負う企業のCEOを13年間務めたマークス氏。全く異なる業界にいた彼は、なぜ建設業界へ参入したのでしょうか。

建設業界での経験が皆無であることについて、マークス氏は以下のように述べています。

従来の物事を、実は異なったやり方でできることに気が付き、行うのは常に、全く別の業界から来た企業です。

だから私たちは、建設業界とは全く違った規制の下で、全く異なる環境のオペレーションを行なっていた人たちを集めています。こうした異なる知識と技能を建設業界に持ち込むことで、私たちは素晴らしいことを実現できるのです

まさにマークス氏は、他業界出身の自身だからこそできる改革を建設業界で起こそうと考えたのでしょうか。

Katerraによると、アメリカの建設関連会社はこれまで、全収益の1%以下しかテクノロジーへの投資を行ってこなかったそう。これは、他の業界と比べても、最低レベルの投資率だと言います。こうした投資への消極的姿勢が、過去数十年間の留まるところを知らない”生産性の低下”、それに伴う”建設費・住宅価格の高騰”を招いてしまったというのが、マークス氏の見解です。

McKinsey&Company:https://www.mckinsey.com/industries/capital-projects-and-infrastructure/our-insights/the-construction-productivity-imperative

これは、世界最大の規模を誇るコンサルティングファームのマッキンゼー・アンド・カンパニーが2015年に出したレポートの一部です。線グラフはそれぞれ1994年以降の製造業と建設業の労働者一人当たりの生産性を示しています。オレンジで示された製造業の生産性が上がり続けているのに対し、青で記された建設業の生産性は低下しているのがわかります。

さらに、イギリスの経済専門紙エコノミストは、2017年のアメリカの建設業の生産性は、1960年代後半と比べて、約半分にまで落ち込んだことをデータで示しています。

Katerraのサービスとは

Katerra:https://katerra.com/en/how-we-do-it/process.html

創業者のマークス氏は、”より良い家を、より短い期間で建て、より手頃な値段で買えるようにしたい”と言います。

そこで考案したのが、一つのプラットフォームを使って、建物を建てる際の全ての工程を自社で管理し、施工するサービス。

Katerraは、建設における工程は大きく3つあるとしています。それが、上の画像でも示されている「Design(デザイン)・Supply(供給)・Assemble(組み立て)」です。この3つを自社開発のプラットフォーム上で一元管理することで、無駄がなくなり、早く安く建築物を建てられると言います。

しかし、本当にそんなことが可能なのでしょうか。アメリカのニュース放送専門局のCNBCのキャスターは、マークス氏に対して、以下の疑問を投げかけます。

“建設業界は、労働組合の力が強く、地域によって独自の建設規制があるかと思います。また、プロジェクトによって、この建材はあの国から調達しなければならないなど、供給の面でも非常に細かい規制がありますが、そんな中で、建設業界の分業体制をどのように一元化するのでしょうか?”

マークス氏はこれに対し、”だから私たちは、ほとんどの工程をオートメーション化(自動化)しています。アメリカには、11万もの地方自治体があり、構造が信じられないくらい複雑です。しかし、自動化によって、私たちはアメリカ全土の全ての建築物のデータをすぐに取り出すことができ、それと同時にその地区の規制を知ることができます。

また、供給についてですが、電子機器製造業界などの他業界では、ずっと前からグローバルなサプライチェーンマネジメントは、行われています。ただ、建設業界でそれがされてこなかっただけなのです。なので、私たちは、電子機器製造業界でされているのと同じことを建設業界でするだけです。”と答えています。

さらに、こうも言っています。

Katerraのしていることは、タクシー業界でのUber(ウーバー)、宿泊業界のAirbnb(エアービーアンドビー)、レンタルオフィス業界でのWeWork(ウィーワーク)となんら変わりません。彼らも私も、”テクノロジーが存在しなかった業界に、テクノロジーを持ち込んだだけ”です

Katerraの組み立て式建築

Katerraはおもに”組み立て式の住まいと施設(Prefabricated housings/buildings)”の建築に力を入れています。

”組み立て式の住まいと施設”とは、工場で部材を作り、現場ではプラモデルのように組み立てる建築技法を用いて作った住まいと施設のこと。日本では、旭化成ホームズや大和ハウス工業などのハウスメーカーが建てる住宅が基本的にはこれにあたります。

例えば、日本で最も一般的とされる方法で戸建てを建てるとしましょう。 工程は大きく分けて、 以下のような流れが想定されます。

  1. ハウスメーカーが設計図を作成
  2. デザイン会社が内装のデザインを制作
  3. 商社が建材の輸入
  4. 運搬会社が建材を運搬
  5. 現場での施工作業は工務店が担当し行う

顧客側からすると窓口は、相談に行ったハウスメーカー一社かもしれません。しかし、実際の家づくりにはハウスメーカーの提携先である多くの企業が関わり、その結果、建築費は必然的に膨らんでいきます。一つの建物を建てるのに多くの企業が関わるのはアメリカでも同様で、マークス氏はここに”違和感”を覚えたそうです。

Katerraは、こうした違和感を解決すべく、”全ての工程を、一つのプラットフォームで管理して、自社内で一元管理してしまおう。そうすることで、手数料や相互間連絡などの無駄が省かれ、これまでより安く、より短い期間で建築物を建てられるのではないか”というコンセプトを元に創業しました。

こうした背景から、同社は社内に、設計士、インテリアデザイナー、土木工学の専門家、サプライチェーン(供給連鎖管理)の専門家などを抱え、設計から施工まで一気通貫して行える体制と仕組みを確立したのです。

マークス氏は、この一気通貫したサービスについて、「みなさんは、建築構造デザイン、内装デザイン、土木、供給、製造、そして建設の工程をそれぞれ独立した”別のもの”だと思っています。でも、私たちはこれ全てひっくるめて”一つのサービス”だと考えています。」と言います。

17日間で“Dry-In”(防水・耐風)の建物を竣工!?

”より短い期間で”建物を建てられるようにしたいというKaterra。

上の動画の2分25秒からの映像をご覧ください。これは、Katerraが実際にワシントン州のスポケーン市(Spokane, Washington)で行なった、着工から竣工までを早送りした動画です。工期はたったの17日間。

Katerraが大切にしているのは、期間だけでなく、“質の良い建物を安く建てる”こと。この動画のタイトルにもなっている“Dry-In”とは、外壁と屋根に、水や衝撃に強い素材を使うことで、防水・耐風強度を強めた、”悪天候に強い建物”のことを指します。

その他、断熱性や遮炎性、遮熱性、遮音性などの複合的な効果を持つとされる”クロス・ラミネーティッド・ティンバー(Cross Laminated Timber、CLT)”を建材として導入したり、ワシントン州立大学の研究機関と協力して建材の開発と耐久性のテストをしたりもしています。

Katerraがどんな建物を造っているのかを知りたい方は、こちらのポートフォリオを見てみてください。同社はこれまで、戸建て住宅、二世帯住宅、学生寮、老人ホーム、ホテルと多岐にわたる建設プロジェクトに関わっています。

しかし、なぜKaterraは”17日間”という短い期間で着工から竣工までを終えることができるのでしょうか。そのカラクリをみてみましょう。

Katerraのカラクリとは

先ほどの動画の冒頭部分からの映像は、Katerraの自社工場内の様子です。工場では、どの建築物のどの部分を、いつまでに作り、どこに運ぶのかがすべて一つのプラットフォーム上で管理されています。

映像をみてみると、工場内の作業員はいつでも現場からプラットフォーム上の情報にアクセス可能なことがわかります。彼らは、建設現場、運搬担当、オフィスにいる担当者とオンライン上で常に連携が取れるため、建材を過不足なく時間通りに供給することができるのです。

建設日程を圧縮し、作業を最大限に効率化できる理由は、この工場・現場・オフィス間のスムーズな相互連携にあるのです。そして、この自社で開発したプラットフォームこそがそれを可能にし、Katerraが自社をIT企業、建設テック企業とも称す所以なのです。

まとめ

マークス氏は2年以内に、あと7か所に工場を新設したいと言います。全米でサービスを展開できるようにするためです。

2018年1月時点で、Katerraは30を超える建設プロジェクトを予定。その総額は、1400億円(13億ドル)にも上ります。

Katerraの言う”無駄を省き、質の良い建物を、従来より短期間で竣工し、不動産の価格をより手頃にする”という建設業界の変革が実現した場合、不動産価格が大幅に下落する可能性も十分にあるのではないでしょうか。

今後、アメリカ国外でのジョイントベンチャー(共同事業設立)にも意欲的なKaterra。もしかしたら、日本上陸の日も近いかもしれません。

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