WeWorkのライバル!?イギリスのシェアオフィスの先駆者The Office Groupとは

  • 0
  • 0
  • 0
  • LINE
WeWorkのライバル!?イギリスのシェアオフィスの先駆者The Office Groupとは

はじめに

複数の異なる企業の人が同じ空間を共有し働くオフィス環境を提供する、シェアオフィス・ビジネス。このビジネスで世界各国に進出するアメリカのスタートアップ企業、WeWork(ウィー・ワーク)が、2018年7月5日、東京・日比谷に日本では5つめ(1)となる事業所を開設しました。7月9日から早速1000人規模の利用者が同拠点の利用を開始すると発表しています。

一方、遠く離れたイギリスのロンドンでは、The Office Group(ジ・オフィス・グループ、TOG)という次世代型オフィスを提供する企業が注目を集めています。国外にはまだ展開はしていないものの、イギリス国内ではWeWorkに劣らない知名度を持ち、ロンドン市内で比べればWeWorkより多くのシェアオフィスを展開しています(2018年7月現在)。

一部メディアからはWeWorkのライバルとも言われている同社。果たして、どのような企業なのでしょうか。今回は、WeWorkとはまた違った独自の価値を提供するTOGをクローズアップします。

1)2010年にアメリカのニューヨークで設立されたシェアオフィスのパイオニア的企業。2017年にSoftbankとの合弁会社WeWork Japanを設立して日本に上陸しました。2018年2月に六本木に日本初の拠点を開設してから半年の間に日比谷、丸の内、銀座、新橋、六本木など国内ビジネス主要エリアに5つの拠点を構え、2018年8月には6つ目の拠点である神宮前(渋谷)拠点の開設を控えています。利用者の行動から集めたオフィス利用にまつわるデータを次のオフィスを建設・デザインする際に生かし、効率化(デスクをどの向きでどの位置にどの向きで置くのが最もスペースを効率的に使えるのか、など)することを強みとしています。

※この記事では1ポンドを約145円で換算しています(2018年7月8日時点)

目次

The Office Groupとは

【出典】:https://www.theofficegroup.co.uk/

The Office Group(ジ・オフィス・グループ、TOG)は、2002年にCharlie Green(チャーリー・グリーン)とOlly Olsen(オリー・オルセン)によって創業された、イギリスの不動産テック企業です。同社は2017年の6月に、世界有数の投資会社Blackstone Group(ブラックストーン・グループ)に株式の大半を売却し、現在はグループ傘下に入っています。

Blackstone Groupによるプレスリリースで、オルセン氏はBlackstone Groupへの売却について以下のように述べています。

今回の株式の売却は、私たちTOGと私たちの新しいパートナーであるBlackstone Groupにとって、ビジネス拡大を加速させるための大きな一歩であり、共にとてもワクワクしています

TOGは設立の翌年に、未上場企業への投資を専門とするBridges Ventures(ブリッジズ・ベンチャーズ、現Bridges Fund Management [ブリッジズ・ファンド・マネージメント])から約17億5000万円(≒1200万ポンド)もの融資を受け、シェアオフィスとして提供するための7つの物件をロンドン市内に購入しました。

TOGの創業時に出資をしたこの投資会社Bridges Venturesは、Lloyd Dorfman(ロイド・ドーフマン)という起業家によって買収されます。ドーフマン氏は、2010年に外貨両替の専門店を運営するTravelex Corporate(トラベレックス・コーポレイト)や、小包の配送サービスを提供するDoddle Parcels(ドドル・パーセルズ)を創業したことでもよく知られています。この買収により、ドーフマン氏がTOGの会長に就任し、その後2017年までの約8年間、TOGを牽引。ドーフマン氏率いるTOGは、27もの新たな物件をシェアオフィスとして提供することになりました。

当初TOGはオフィス物件を購入してTOGオフィスとして提供をしていましたが、同社が現在TOGオフィスとして提供する75%の物件は、賃貸のオフィスを借りています。

ドーフマン氏が会長としてどのような戦略をとったのか、詳しい情報は見つかりませんでしたが、2017年のBlackstone Groupによる買収の後にグリーン氏がイギリスのラジオ局Jazz FM UK(ジャズ・エフエム・ユーケー)に出演した際、過去8〜10年間のTOGの成長について言及しています。

グリーン氏とラジオDJの会話によると、2007年〜2009年の頃、つまりドーフマン氏が会長に就任する前のTOGの収益は、約14億5千万円(≒1000万ポンド)。それが、Blackstone Groupがドーフマン氏より約75%(正確な数字は非公表)の株式を買い取るまでに、725億円(≒5億ポンド)の値をつけられるまでに成長したと言います。

2015年に約63億円(≒4300万ポンド)だった収益は、2016年には約100億円(≒6900万ポンド)に拡大。2017年末には約140億円(≒9800万ポンド)、さらに1885年創刊のイギリスの新聞「The Telegraph」(ザ・テレグラフ)の取材によると、2019年には約220億円(≒1億5000万ポンド)にまで達するそう。

TOGは、どのようなサービスを提供することで利用者のニーズを満たし、これほど売上を拡大させることができたのでしょうか。

The Office Groupのサービスと5種類のメンバーシップ

TOGは、「デザイン性を重視した柔軟性のあるオフィス、会議室、コワーキングスペース(2)を提供すること」を主要事業としています。具体的なサービス内容と価格をみていきましょう。

2)2000年台半ばにアメリカで広がり始めた、異なる企業に所属する(もしくはフリーランスの)、さまざまな業種の人々が同じ空間に集まって仕事空間を共有するためのスペースのことを指します。

付随施設

【出典】The Office Group:https://www.theofficegroup.co.uk/membership/

TOGは2018年7月現在、イギリス国内に39のオフィスを展開しています。拠点によって併設・提供しているスペースは異なり、会議室は39か所全拠点で提供していますが、デスクワークに適したコワーキングスペースは29か所、ラウンジに関しては28か所のみ。また、全拠点のうち30か所では、セミナーなどの開催できるイベントスペースも併設。TOGのサービスの一つとして会社住所の貸出機能もあり、こちらは31か所で利用可能となります。

さらに一部オフィスには、食事のできるスペースや瞑想のためのスペースなども併設されています。このように、拠点の周辺環境・ユーザーニーズによって提供するサービスが異なるのが大きな特徴です。

TOG提供の付随施設は、以下の8種類が基本となっています。

  • アルコールも提供しているバー
  • ジム
  • 自転車置き場
  • シャワールーム
  • 屋上庭園とテラス
  • 映写室
  • 瞑想のための部屋
  • 図書館

TOG会員専用アプリ

【出典】Apple Store:https://itunes.apple.com/in/app/tog-co/id1148916400?mt=8

TOG共同創業者のグリーン氏は、TOGの提供価値について「The Telegraph」の取材にて以下のように述べています。

従来の商業用不動産市場では、人々は「場所を借りること」に対してお金を払っていた。だから市場はとても事務的で退屈なものになっていた。それは企業の「柔軟性のある空間の使い方をしたい」という、本来の要求を反映していないものだ。

今、人々が求めているのは、自分たちを取り巻く雰囲気やその空間に他に誰がいるのか、ということ。彼らは働く空間で生まれる、社会的な交流を求めているんだ

グリーン氏は、「人々はもはやオフィスをただの『働く場所』『作業する場所』として借りる、という行為に価値を見出さなくなってきている。今や、シェアオフィスを借りることで得ることができる『コミュニケーション機会』や『インスピレーション』、『ビジネスチャンス』に対して価値を見出し、お金を払うように変化しつつある」と主張します。

TOGは、一定以上の金額を支払っている会員に対し、自社のアプリへの登録権を付与しています。15000名を超えるTOGのメンバーは、アプリで自分のビジネススキルなどを載せた顔写真付きのプロフィールを掲載することができ、会員同士はプロフィールをスキル別に検索して、お互いに連絡を取ることもできるのです。

またTOGのアプリを開くと、イギリス国内39か所にあるTOGオフィスそれぞれに何人のメンバーがいて、彼らがどこの会社に勤めているのかまでわかるようになっています。

5種類のメンバーシップ

【出典】The Office Group:https://www.theofficegroup.co.uk/membership/

こうした施設を利用するには、TOGのメンバーになる必要があります。TOGのメンバーは、大きく分けて5種類あります。

料金が手頃な順から、バーチャルメンバー、ミーティングルームメンバー、ラウンジメンバー、コワーキングメンバー、そしてオフィスメンバーになります。

最もお手頃なプランのバーチャルメンバーは、月会費7300円(≒50ポンド)。これは、オフィスを必要としない人のためのメンバーシップです。「仮想の」という言葉の通り、バーチャルメンバーは追加料金を払わない限り、オフィスを利用することはできません。TOGから提供されるサービスは、会社の住所の貸し出しと代理の電話対応、かつ郵便物の預かりや転送です。

2つめのミーティングルームメンバーは、バーチャルメンバーと同額の月会費7300円(≒50ポンド)を支払うことで、イギリス国内にある計250を超えるすべての会議室を15%割引の料金で利用する権利と、会議室予約専用の担当者を割り当てられます。Wi-Fiやプロジェクターなどを使いたい場合は、無料貸し出しを行っているそう。

3つめが、ラウンジメンバーです。月会費は11000円(≒75ポンド)。ラウンジメンバーはロンドン市内27か所のオフィスのいずれかのラウンジスペースであれば、月32時間までの入場ができます。これには、オフィスに付随した屋上庭園とバーへの立ち入りも含まれます。また、ラウンジメンバーはミーティングメンバーと同様、すべての会議室を15%オフの価格で利用できます。ラウンジメンバー以上のメンバーには、TOGアプリへの登録が認められます。

4つめが月会費55000円(≒375ポンド)〜のコワーキングメンバーです。コワーキングメンバーはイギリス国内の17か所のオフィスのコワーキングスペースと、27か所のラウンジスペースを制限なく利用できます。このメンバーシップの特徴は、自分のホームビルディングを1か所決め、そこに限り1日24時間いつでも入場して仕事ができる点にあります。

追加で最低25000円(≒175ポンド)を支払うことで自分専用のデスクを持つこともできます。もちろん、ワーキングメンバーには、ラウンジメンバー以上に与えられている屋上庭園やバーの使用、ミ−ティングルーム利用時の15%割引などのサービスはすべて適用されます。

TOGのホームページによると、4名以下の小規模の会社のオフィスとして使うのであれば、コワーキングメンバーとしての登録がおすすめとのことです。

最後が、オフィスメンバーです。オフィスメンバーは、TOGのオフィススペースを賃貸で借りている企業の従業員を指します。TOGは、2名から400名規模の会社であれば、賃貸で貸し出すオフィススペースを提供できるそうです。残念ながら、価格は明示されていませんでした。

オフィスメンバーには、27か所のラウンジ使用やアプリ登録など、ラウンジメンバーと同様の利用権が与えられています。

オフィスメンバー以外のすべてのメンバーは、TOG従業員による電話対応(4500円[≒30ポンド〜])や、郵便物対応([7500円≒50ポンド〜])に加え、ロッカーの貸し出し(3600円[≒25ポンド〜])などのオプションをつけることもできるようです。

ユニークなThe Office Groupの所有物件

2018年7月現在、イギリス国内39か所でオフィスを提供しているTOG。創業してしばらくはロンドン市内に限定してサービスを展開していましたが、現在はロンドンから北に電車で3時間ほど走ったところに位置する中都市Leeds(リーズ)、同じくロンドンから西に電車で2時間弱に位置する港町Bristol(ブリストル)にも進出しています。

TOGが提供しているオフィスの特徴は、一つとして同じデザインを使用していないところにあります。壁の色を同じにしたり、同じ床カーペットを使用したりしないのがTOG流です。

【出典】:The Office Group:https://www.theofficegroup.co.uk/office/20-eastbourne-terrace/

上の写真は、ロンドン北西部最大の駅、Paddington(パディントン)駅のすぐ横にあるTOGオフィスです。写真からは、青を基調としたすっきりとしたモダンなデザインであることがわかります。

【出典】:The Office Group:https://www.theofficegroup.co.uk/office/133-whitechapel-high-street/

こちらは、ロンドン北東部に位置するAldgate East(オールドゲイト・イースト)駅にあるTOGオフィスです。オールドゲイト・イースト駅は、ヴィンテージショップが立ち並び、アートや音楽、ファッション好きが集うBrick Lane(ブリック・レーン)の最寄駅。内装には、ブリックレーンと同じくアートとファッションの街として知られるマイアミの建築様式であるArt-deco(アール・デコ)様式が使用されています。

アール・デコ様式で見られる、白い石材の壁と木製ブロックの床に、パステルカラーを基調とした備品や家具が備えられています。ここからも、ブリックレーンの街に集う人に合わせてデザインされたことがわかります。

またTOGは、かつてイギリスの公共放送BBCがリースしていたビルもオフィスとして提供しています。このオフィスの壁には、BBCがテレビ放送の休止時間帯に表示していた画面の絵が飾ってあったり、イギリス国内の人気ロックバンドのモチーフを使ったトリックアート作品を置いたりと、BBCが使っていた当時を彷彿とさせる趣向を凝らしています。

【出典】acrylicize:http://www.acrylicize.com/projects/the-office-group-henry-wood-house/

【出典】The Office Group:https://www.theofficegroup.co.uk/office/henry-wood-house/

他のオフィスのデザインにも興味がある方は、TOGの提供する39のオフィスの紹介ページへジャンプして見てみてください。

共同創業者のオルセン氏は、TOGが提供するオフィスのデザインをあえてユニークなものにしていることに関して「The Telegraph」の取材に対し以下のように述べています。

私たちと契約を結んでいる企業は、国際金融を扱っている企業もあれば、テクノロジー関連のスタートアップ企業、メディアを運営しているスタートアップ企業もある。一方で、昔からある老舗企業も私たちTOGオフィスのメンバーなんだ。もし、僕たちがすべてのビルを同様のデザインにしてしまうと、同じような人や企業からしか選ばれなくなってしまう。だから、あえてそれぞれの土地や文化に合わせてデザインのテーマを変えているんだ

TOGが目指す、オフィスを”ただの働く場所”から”コミュニケーションを通して新しいアイデアの生まれる場所”へと変えるには、企業の大小問わず多種多様な人々を集めることが必要となります。オルセン氏が、同じ素材やデザインを使わず、オフィスの持つ歴史やオフィスのある地区に合わせてデザインやテーマを変えるのは、多様性を実現するための一つの方法と言えるでしょう。

実際に、TOGが公式に発表しているサービス提供先の企業には、スペイン最大手の銀行Banco Santander(バンコ・サンタンデール、サンタンデール銀行)、オンラインストレージサービスを提供するIT企業のDropbox(ドロップボックス)、元国営ガス会社で現在英国内で約40%のガスのシェアを誇るBritish Gas(ブリティッシュ・ガス)など、異なるバックグラウンドを持った企業が名を連ねています。

オルセン氏は、WeWorkやホテル、プライベートメンバーのクラブなどを、競合とみなしたことがないと言います。それは恐らく、自社アプリ開発などのテクノロジー分野に精通している強みと、歴史や土地柄を重要視して一つひとつのオフィスをデザインしている、というTOGならでは強みの掛け合わせに、圧倒的な自信があるからなのかもしれません。

まとめ

“現在TOGは、提供しているオフィスのうち約25%しか自社で所有していないため、今後は不動産会社や不動産オーナーと提携したりして、もっと所有物件を増やしていきたい。グローバルに広がる親会社のBlackstone Groupの力を借りて、柔軟性のあるオフィスの提供をインターナショナルにも展開したい”と「The Telegraph」の取材で答えるオルセン氏。

2018年7月現在、ロンドン市内の32か所でオフィススペースを提供するWeWorkは、同市内で新しく6拠点を開設しようと動いています。これらの新しい拠点が開設されれば、WeWorkのオフィス数はイギリス国内で38拠点に。39拠点を構えるTOGに、オフィス数では僅差となります。

データとテクノロジーを強みにより効率的に仕事を進められるオフィスの開発を追求し、早いペースで事業を拡大し続けるWeWorkと、データやテクノロジーは拡大の一手としつつも、建物の歴史や土地柄にも配慮して一つひとつのオフィスデザインにこだわることで多種多様な業種の利用者を取り込み、利用者相互のコミュニケーションを図る独自のサービスを展開するTOG。

強みがはっきりと異なる両社ですが、どちらがより利用者の支持を得ていくのでしょうか。互いにどのように飛躍していくのか楽しみですね。

 

  • 0
  • 0
  • 0
  • LINE
PR

こちらの記事もオススメです

メタバースで不動産ブームが来る? 海外では約5億円の取引も
メタバースで不動産ブームが来る? 海外では約5億円の取引も
2022.03.01 業界分析、海外事例
スタートアップ大国のイスラエル、大きな資金調達も話題の不動産テック企業とは
スタートアップ大国のイスラエル、大きな資金調達も話題の不動産テック企業とは
2021.02.09 海外事例
【ニュース解説】年間投資額4000億円!米国不動産テックの大型資金調達まとめ(周辺領域編)
【ニュース解説】年間投資額4000億円!米国不動産テックの大型資金調達まとめ(周辺領域編)
2019.12.03 海外事例
中古物件売買の手間や手数料を劇的に圧縮! イギリス発の不動産テックサービスを解説
中古物件売買の手間や手数料を劇的に圧縮! イギリス発の不動産テックサービスを解説
2019.11.19 海外事例
【アメリカ不動産テック】カオスマップ解説 物件売却向けサービス編
【アメリカ不動産テック】カオスマップ解説 物件売却向けサービス編
2019.08.27 海外事例
【アメリカ不動産テック】カオスマップ解説 スタートアップ仲介会社編
【アメリカ不動産テック】カオスマップ解説 スタートアップ仲介会社編
2019.06.25 海外事例

記事広告掲載について

スマーブでは、不動産テックに関する記事広告をお申込みいただく企業様を募集しております。どうぞお気軽にお申込みください。