新しい「部屋の探し方」で業界を変えたい - ハウスコムが不動産テック導入を進める意図は?

- デジタル化・データのオープン化に課題を持つ不動産業界
- 間取りや賃料などの物件情報ではない、街や土地の周辺情報の魅力
- 「部屋の探し方」が大きく変化する時代で、お客様が本当に求めている付加価値を提供していきたい
不動産業界で注目され始めた「不動産テック」は、今どんな道を歩み、これからどこへ向かうのか……。
いち早く不動産テックに着目し、「AIを活用した物件検索」「Web来店予約システム」「AIチャット」「オンライン内見」など多くのサービスを展開してきたハウスコム株式会社。
今回は、「不動産業は変わらずにいられるだろうか」と自社内、不動産業界全体に問い続けている、ハウスコム株式会社 代表取締役社長 田村 穂(たむら・けい)氏に、不動産業界の現状と課題、不動産テックの可能性を伺いました。
―――不動産業界はなかなかデジタル化への取り組みが進んでいないというイメージがありますが、実情はいかがでしょうか。
田村社長:確かに、不動産業界はまだアナログな部分も多い業界です。しかし遅ればせながらではありますが、デジタル化への取り組みは少しずつ進んでいます。
もともと、数ある不動産屋は、蓄積してきた膨大なデータを持っていました。例えば、◯◯駅周辺に住んでいる人が、学生か社会人か、男性か女性か、独身か家族か、どのくらいの年齢層か、などの属性データ。他にも、属性毎のニーズ、その部屋に決めた理由、居住年数などのデータも何十年分も持っています。
しかし、データがバラバラで一元管理ができていない事、データ共有がされずクローズドな業界であった事から、これらのデータをほとんど活用できていませんでした。
―――″データがバラバラ"とは具体的にどういう事でしょうか。
田村社長:例えば、Aという物件を複数の不動産屋が取り扱うとすると、各社がそれぞれの物件コードで物件Aを管理し、写真等の物件に関する情報もそれぞれで用意します。つまり同じAという物件の情報が、会社ごとにバラバラに管理されてしまうという事です。
物件の情報は不動産屋にとって非常に大切です。そのため、データの共有やオープン化など考えられないというのが不動産業界の流れであり、デジタル化が遅れた要因でもあります。
―――不動産業界のクローズドな部分やデジタル化が遅れている事に、課題を感じていたという事ですね。これら課題とはどのように向き合うべきでしょうか。
田村社長:「不動産業界は変わらずにいられるだろうか」これは私が営業にいた頃からの口癖です。
八百屋や酒屋がコンビニエンスストアに、薬屋がドラッグストアへと進化しましたが、不動産屋は不動産屋のまま。時代が変わり、お客様のニーズや物の探し方、購入の仕方は変化していくなら、私達だって変わらなければならない。
賃貸仲介業から賃貸サービス業に向かっていくハウスコムは、不動産業界をリードすべく、間取りや賃料など「限られた情報」を提供してお部屋探しをサポートするだけでなく、お客様に付加価値をつけた豊かな情報=本当に知りたいと思われている情報を提供していきたいです。
そのために、私達が持つデータを積極的にオープン化して、業界全体を前進させたいと思っています。
―――データのオープン化が進むとどのような変化が起きると考えますか。
田村社長:例えば、私が部屋を探そうと思った時に知りたいのは、住みたい街、暮らしたい部屋の“周辺情報”です。半径500mエリアにどんな人が住んでいるのか、どんな学校があるのか、事件や事故の発生率はどれくらいか、などの周辺情報が“事前に”欲しい。その上で住む街や暮らす部屋を決めたいと思うでしょう。
私がかつて担当していたエリアでは、地元のおばちゃんが営む不動産屋に太刀打ちできませんでした。私が部屋の特徴や利便性をお客様に伝えられても、その土地の歴史や風土、隣人達の人柄は語れません。でもお客様は、部屋以外のそういった情報に魅力を感じ、部屋を決めます。
物件以外のありとあらゆる情報を、街の不動産屋は持っているのです。こうした真の強みとなる情報をテクノロジーで結びつけてオープン化できれば、不動産業界と消費者の信頼性をさらに高められると思っています。
―――データ共有やオープン化でのハウスコムの狙いを教えてください。
田村社長:地元に住んでいる人達のFacebookやTwitter、InstagramなどSNSから「住みたい地域の情報」を取り込んで、今よりもっと幅広い情報をお客様に提供できるようになりたいと考えています。
情報を羅列するだけではなく、一人ひとりのニーズにあった情報を提供し、リアルな店舗で生身の人間と対面して、想像以上の満足を体現させていく……そうやって、今ある「部屋の探し方」を変えていきたい。そのためにも、リアルな店舗はそのままに、その周辺をテクノロジーで変えていく必要があるでしょう。
―――テクノロジーが進んでも、対面する人間も大切という事ですね。不動産テックのサービス導入が進むなか、社員の意識や教育、採用などに変化はありましたでしょうか。
田村社長:不動産テックを導入した当初は、離職率が高い時期も……。特に営業事務職は辞めていく人が目立ちました。それまでは単一的な業務が多かったため、変化に対応できない人が多かったのではないかと思います。
一方で、若手からの企画・提案が増えました。導入したテクノロジーサービスを使ってあんな事ができる、こんな事をしたらいいのではないか、という積極的な意見が増えてきて、新しい人材が育ちつつあると感じました。
組織変革も進めました。人事総務部は「人材開発室」に名称を変更して、データをもとに採用から育成までを手がけるようになりましたし、「サービス・イノベーション室」を新たに開設し、マーケティングデータから顧客満足度を上げていくなどの仕組み作りを重ねています。専門部署を設置する事で、PDCAサイクルのスピードもグッと早まりました。
最新技術を取り入れたサービスを速いスピードでリリースできるのは、こうした組織づくりがあるからだと思います。離職率も現在では創業以来の低さとなっています。
―――不動産テックに取り組むなかで実感した事を教えてください。
田村社長:技術の発展とともに、お客様の「部屋の探し方」はものすごいスピードで変化しています。従来のインターフェースや検索方法ではない、地域に根ざしたデータを集めるなどしてこれまでとは違った尺度、探し方、選び方を追求していかなければならないと実感しました。
今後は、これまで蓄積してきた顧客データの活用やマーケティングによって、一人ひとりのニーズに合った情報、お客様が本当に求めている付加価値を提供していくことで暮らし全体をサポートしていきたいと考えています。
また、我々の想像を超えたアイディアを持つ若い人材を巻き込んでいきたいです。今の時代に合った「部屋の探し方」を見つけられる若い世代と一緒に、賃貸サービス業で業界をリードしていきたいですね。