日本の不動産業界は DX でどう変わるのか? 変えるべき「業界」「企業」「顧客体験」の 3 要素 |HOUSECOM DX Conference

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日本の不動産業界は DX でどう変わるのか? 変えるべき「業界」「企業」「顧客体験」の 3 要素 |HOUSECOM DX Conference

日本の不動産業界は DX でどう変わるのか? 有識者によるパネルディスカッション

川名 正吾氏(以下、川名氏):進行を努めます、株式会社フィルライフの川名です。「DX」という言葉自体を初めて聞くという人は減っていると思います。変革というワードもよく聞きますね。今日はこの技術を提供する側、導入する側のふたつの視点で議論をしたいと思います。みなさんまずは自己紹介も兼ねてお願いします。

野口 真平 氏(以下、野口氏):イタンジ株式会社の野口です。イタンジという会社はGA technologiesの子会社にあたります。イタンジでは主にリアルタイムで物件を流通させている業者間流通を展開しています。バーティカルSaaSと言われるような、業界特化型のサービスを展開しています。

清水 孝治 氏 (以下、清水氏):SRE ホールディングス株式会社の清水です。ソニー不動産という名前でソニーからスピンアウトし創業し、当初は不動産の売買仲介事業を行っていましたが、その後DXツールの外販に取り組みをはじめました。机上査定、契約重説作成をクラウドでできるサービスを展開しております。

田村 穂氏(以下、田村氏):ハウスコム株式会社の田村です。賃貸仲介のサービス業をメインで行っています。エリアは関東、東海圏、あと大阪ですね。我々はDXを活用して従業員、お客様の体験をよくしていこうと考えながらやっています。

川名氏:みなさんありがとうございます。では早速ひとつめのトピックにいきましょう。「DXを推進していく中で感じる大きな変化」。これについてそれぞれの立場からお話を伺えればと思います。とくにDXという言葉がまだ巷に出てなかったときと、今を比べてという話も伺えればと思います。

野口氏:非常に難しいんですけど、一番はコミュニケーションの在り方でしょうか。10年前に比べると、明らかに通信速度が速くなって、電子上のコミュニケーションがしやすくなっています。2022年5月に規制緩和があり、それに伴ってあらゆる取引が電子上で行えるようになったのが一番大きな変革です。それまでのデジタルサービスって基本的に社内に閉じていたんですよ。誰かがエクセルとかに入力して、それを管理する。そのデータを誰かに伝えるときは紙や電話で行っていました。デジタルサービスというのが会社の中で閉じているものだったのが、電子端末の発達と規制緩和で外部とやりとりできるようになりました。これが極めて大きいですね。あらゆるものが電子データ化されるようになった。データの量と質が明らかに変わっているのがDXを推進させる要素になっています。例えば申込書などはユーザーが入力したものがダイレクトに反映されるからスピーディーで写し間違いがないんです。

イタンジ株式会社の野口 真平 氏

川名氏:通信と法改正の変化は大きいですね。

清水氏:DXがなぜここまで注目されているかというと、やはりテクノロジーの進化です。AIを使った査定システムをクラウドで提供していますが、昔は作れたとしても精度が悪く不動産の実務に耐えられませんでした。それが5、6年前ですね。でも今までできないと思われていたことが、ディープラーニングやAIの進化でできるようになりました。チャットGPTとかが出てきたのが象徴ですね。実際に触ってみるとかなりのことができそうだと、我々も内部で考えています。こういう進化が大きいトレンドになっていくと思います。

川名氏:技術の変化があったということですけど、当時からあったけど、まだまだ進展してなかったということでしょうか? それか当時はなかったものが生まれてきたんでしょうか?

清水氏:ディープラーニングが生まれたのは大きいですね。実務に耐えられるものができてきたということです。

田村氏:DXという言葉が出てきてから、我々の業界では入居者側の立場に立ったものにしようという意識が出てきています。以前は大家さん側に立ったものの考え方でした。様々なデータを取れるようになったことで、より入居者側のサービスを展開していけるようになった。ただ、まだまだできていないところはあるけれど、効率性は高まってきたと思っています。本来のデータを活用して、そしてどんなデータを活用することでお客様に新たな価値を見出すかというところは模索中なのかなと思っています。

川名氏:不動産業界においてDXの導入って進んでいると思いますか?

野口氏:進んでいるといえば、進んでいる。領域によってその速さは全然違います。賃貸と売買を比較しても全然違います。賃貸では3、4年くらいでクラウド予約とかが進みましたが、これは誰かが使い始めて、そこから使う人たちが一定量増えたからです。どこか一社だけが使おうとすると不便でも、みんなが使っていると「使う方が便利じゃない?」ってなるんですよ。5年前とかはイタンジもSNSで「クソだ!」って書かれたりしていました(笑)。でも今はきちんと評価されている。ある一定のラインを超えるまでは遅いけど、そこを超えたら導入の速度は速くなります。売買の領域ではまだ水面化なのかな、使われているけど見えてきてないのかなと思います。

清水氏:売買の領域では、まだまだDXを導入していないところが多いですね。2018年にツールの提供を始めたころから、導入に関してアンケートを取っていますが、今もほとんど変わっていないですね。使ったことがないという人が8、9割を占めています。

不動産業界の中でデジタル化が進まない構造とは

川名氏:不動産会社によってとか、周りの状況によってDXが広がる速度が違うんですね。それでは次に「不動産業界の中でデジタル化が進まない構造は?」ということを考えていきたいと思います。

清水氏:いま、(私たちは)いろいろなツールを提供していますが、導入されないお客様に多いのが、そこに課題を感じていないからということです。今は人手が回っているとか、付加価値を感じられないという人が多いんですね。一方で導入したいという人は、危機感があります。これから人手不足が進んでくると、労働人口が減っていきますよね。今後不動産業界で働こうと希望する人が減ってくるという危機感があるんです。その中でも売上をあげていくために新しいツールを取り入れたいという考えです。人材不足に対応するためにここ数年で導入が進んでいくのでは、と考えています。

SRE ホールディングス株式会社の清水 孝治 氏

川名氏:進みづらい要因は「人」でしょうか?

清水氏:それは関係していますね。例えば、査定の業務などは人ができるようにならないといけない、ツールに頼ると人材の力が社内に残らないのでは、と危惧している会社がいまだに多い。

川名氏:反対に、便利なツールを使ったほうがいいよ、という考えがあったら導入がはじまるんでしょうかね。

清水氏:おっしゃる通りですね。

野口氏:中小零細企業に導入が難しいケースが多いと感じます。大手では進んでいるけど、それ以外の会社の方が数は多いですからね。中小零細企業の多くがまだエクセルしか使っていない状況です。

川名氏:昔は導入するにもコストが高かったけど。いま数も増えてきたし、技術も上がってきたので中小零細も手を出せるような価格帯になってきたという面はありますか。

野口氏:そうですね。安価に全域に対して提供できるような環境ができて、ソフトウェアのハードルが下がってきました。逆に問題はアイテムが増えてきて、どれがいいか、ということです。良いサービスを選ぶリテラシーとか成功体験をつなげていくような、今までにない知識が必要になってきました。

田村氏:我々の扱うお部屋とか建物はそれぞれで持つ情報が違うので、それをデータ化するのにすごいパワーを使います。さらにその部屋ごとにお客様の情報が強く紐づいているので集約してデータ化するのは大変。お客様が本当に知りたいことをわかるデータを定量的に持ち合わせていれば、そこに一極集中して施策に取り組めますが、それができているところはまだないですね。

川名氏:これはやろうと思えばできることなのか、そうでないのか。マインドセットの問題なのか、どうでしょうか。

田村氏:業界の生産性は高くなったと思います。FAXもなくなったし。でも結果としてこうなっているのは、まだまだ新たな価値を見出してないということでしょうか。時間の問題かもしれませんが。

それぞれの立場でDXを推進するためにできること

川名氏:次は「不動産業界全体でDXを進めるためにできること」というテーマに移りたいと思います。

野口氏:難しいですね。放送できないようなことばっかりです。まず業界の中でやるべきこと、そして外側のことがありますよね。規制緩和はインパクトがあり、直近の宅建業法改正はニュースバリューもありました。実態として電子取引以外の前後の取引もDXが進むようになりました。こういった規制を取り除くのは大事です。そして、中で進めていくためには、できることはトライするということかな。発想としていきなり「全面的にデジタル化」という業務を抜本的に変える動きが多いんですけど、これだと絵に描いた餅になりがちです。人が追いついていないので、運用が難しくなります。システムと人は常にセットで、必ず運用が必要です。オペレーションや人の学習も、ステップバイステップで進めていくことですね。まず小さなデジタルの成功体験を作ることが重要かな。ハウスコムさんのような大きなところはどんどんボリュームのある動きをしてほしいです。また、産業全体で足並み揃えてデジタル化しないといけないので、大手だけじゃなくて二極化している中小企業がベースアップする必要があります。

清水氏:売買の領域だと成約事例のデータのような流通していないデータがいろいろなところに溜まっています。それがオープンになるとAIの精度が上がり、業界全体に還元できますよね。そうした我々の考えに賛同してくれる大手の不動産会社も何社かあるんです。データをどんどん提供していくと、ツールの精度がよくなり、結果として業界のサービスが上がっていきます。不動産会社にデータを使っていろいろやりませんか、とお声がけしているところです。

川名氏:これまでの不動産会社はデータっていうのは各社個別でためていて、それによって競争力をあげてきましたよね。データを共有し、良いシステムを作っていくというのはいいことだと思うけど、実際に共有してもらうことのハードルは高いのでしょうか。

清水氏:データは貴重なのでハードルは高いと思っていました。でも企業はそのデータを活かすための技術やリソースがないんですよ。なので、そのツールで生産性上げられるのでどんどんやってほしいと言ってくれています。データを活用できていない会社が多いんだなと気がつきました。

田村氏:DXのためにできることですか。我々のような仲介業者だけではもう難しいですよね。一社じゃできないかという認識をしないと変わらないと思います。データを我々も持っているけど、活用できていないし、どんなデータを集めるとお客様に価値があるのかがわかりません。そういう知見がないんです。お客様から見たら、仲介業者も管理会社もひとつなのに、みんなバラバラのままです。そういった意識もひとつにしていかないといけないと思います。

ハウスコム株式会社の田村 穂氏

野口氏:集客チャネルを集約するという観点もあると思います。今は情報が分散していて、さらに特定のメディアにパワーが偏っています。これに仲介会社さんが苦しんでいるんですよ。広告費もすごく高くて……これは昔ではなかった現象ですよね。その情報を集約して届けるというサイトは無数にあるけど、見られているところは集中しています。回り回って仲介会社さんや管理会社さんの利益が減っているというのは深刻かなと思っています。これに対しての具体的なソリューションはないんですけど。ほとんどの業者さんがストレスを感じていると思います。全体としてこれにどうやって対処しようかという、理解とディスカッションの場がないなと感じています。少なくともこれを解決していくことに足並みを揃えた方がこの業界の発展には繋がるなと思っています。

川名氏:集客面ではたしかにそうですね。

野口氏:あんまりこういうことを言わないほうがいいですね(笑)。

川名氏:システムやサービスを導入する方も一歩ずつ上がっていけばいいということですよね。コンサルとか難しいことをする必要はなく、基礎的なことをやっていけば生産性が変わっていくということでしょうか。

清水氏:おっしゃる通りです。難しいことをやりますというわけじゃないんですよ。例えば、お客さんとのコミュニケーションで営業マンがLINEを使い始めましたというのもひとつです。お客さんの反応もいいし、写真もすぐに送れるから便利だと。そこからでもいいですよね。その体験からどんどんテックを使っていこうという考え方になると思っています。

チャットGPTの可能性と影響

川名氏:「チャットGPTの不動産業界に与える影響について見解をください」という質問をいただいています。

株式会社フィルライフの川名 正吾氏

清水氏:賃貸業では、お客さんとの簡単な対応はチャットGPTも使えるんじゃないかと思い、可能性は感じています。

野口氏:この技術に今後すごい可能性があるという前提で、直近はそんなにかなというのが感想です。なぜならやはり圧倒的にデータがないから。いまは正確な正解が求められているシーンではまだ使われていませんよね。不動産取引において、まだデータ化されていないことが多く、この状態では使えるという場面が想像できません。ただ、データが増えてくると、将来的にはインパクトすると思います。ここ何年かはまだじゃないでしょうか。

川名氏:まだデータがクラウド上に出ていないからですね。それがある一定のデータが入ってきたら、それから学習が始まるというイメージですね。

野口氏:データがたくさんある領域では効果的だと思います。

清水氏:どこまで我々が集めているようなデータをチャットGPTが集められるかですよね。正解が必要なものをどんどん学習していくというのは、近い将来できると思います。そこまでは汎用的なことや、低レベルなコミュニケーションで使われると思います。

産業全体がデジタルに向かっている

川名氏:ありがとうございます。では今後の展開をお伺いしてもいいでしょうか。

田村氏:我々はお客様にとって価値ある提供をしていきたいですね。一人一人の要望に対して対応できるDXを進めていきたいです。あと、業務をみるとコミュニケーションのやりとりに時間がかかっています。折り返しや繰り返しが多いんですよ。お客様と対面するところは残したいけれど、そこ以外のコミュニケーションをテクノロジーで改善していきたいですね。

清水氏:我々はまずはいろんなツールを提供していくことですね。業務のオペレーションを見ていくと、AIやテクノロジーで効率化できるようなサービス作れると思っています。周辺領域の話をすると、金融機関向けには不動産の時価を測定するAIをすでに提供しています。そういったところは今力を入れている領域です。

野口氏:デジタル取引を一般化するというのがテーマです。一社でできることは限られていて、産業全体がデジタルに向かっていると思います。その中でも身体的な信頼できるコミュニケーションは必要なので、人がよりそちらに時間を使えるように、自動化できるところはするし、そのためのプラットフォームの拡張を考えています。賃貸だけじゃなくて売買、管理など、データの観点でもひとつにまとまっていた方がいいケースが多いと思います。

川名氏:最後一言ずついただいて締められればと思います。

清水氏:いろいろお話させていただきましたが、みなさん難しく考える必要はないと思いますので、まずは試して業務を変えていくことをチャレンジしてもらいたいです。

野口氏:今は過渡期だと思います。とは言っても、競争に勝つとか負けるとかではなく、デジタル化することで全員の効率が上がるチャンスかなと思っています。あまり固定観念を持たず、まずは試してみるという発想を持ってみてもいいんじゃないでしょうか。その上で、業界全体が発展していくことに我々も力を入れたいです。

田村氏:今日はありがとうございました。テクノロジーを使ってお客様の価値が変わっていくこと、これが求められていると思っています。事業者としてお客様を見ながら取り組んでいきたいなと思っています。

川名氏:本日はありがとうございました。

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