ネット証券やネット銀行に続いて「ネット不動産」は重説などの書面電子化で生まれるか?

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ネット証券やネット銀行に続いて「ネット不動産」は重説などの書面電子化で生まれるか?

重説などの書面の電子化、5月18日に解禁

昨年5月の「デジタル改革関連法案」成立を受け、2022年 4月22日には「宅地建物取引業法施行令及び高齢者の居住の安定確保に関する法律施行令の一部を改正する政令」など閣議決定され、5月18日より施行となります。施行日以降は、事前に相手方への承諾を得た上で、重要事項説明書、契約締結時書面などの書面の電子化(電磁的方法による交付)が可能になります。

不動産テックコミュニティ「PropTech JAPAN(プロップテック ・ジャパン)」は、これに先駆け特別イベント「政府デジタル推進によりネット不動産時代が到来、オンライン完結型の不動産取引の現状と未来とは」を開催。2部編成で第一部はプレゼンテーション、第二部はトークセッションとなっています。今回はそのイベントをレポートします。

第一部:「ネット不動産」は「投資・運用」「管理」「賃貸」領域で普及と予測

第一部では、GAテクノロジーズの川村佳央CCOが登壇し、プレゼンテーションを行いました。

「改正宅建業法が施行されると何が変わるのかと言うと、契約書で押印をして書面の交付が必要だったものが不要になるということです。これまでは重要事項説明などをオンラインで行うこともありましたが、その説明の後に書面の交付があり、これは紙で行わなければいけませんでした」と川村氏は不動産の契約は一部、紙の書面のやりとりが発生してきたことを話します。

「これが法改正の施行で、すべて書面の電子化が可能になります。すべての不動産取引がオンライン化するのが今回のポイントです。もちろん不動産取引は非常に大きなお金が動きますので、ローンを組むとか所有権の移転に伴う登記など一部オンラインで完結できないところは残るものの、契約を完了させるまではすべてオンラインでできる時代になります」

施行後は申し込みから契約までオンラインで可能になる

「私たちはこの変化を『ネット不動産の解禁』と表現しています。ネット証券やネット銀行、ネット保険という、これまであった巨大な産業がインターネットと出会うことで改革が起きてきたことと同じ事が、不動産業界で起きると考えています」

ネット不動産は物件探しから契約までをオンラインでシームレスに行えるイメージ

「ただし不動産は額の大きい取引になりがちです。すぐにすべてオンラインで解決できるようになるかというと、そうでもない。オンラインでの完結しないほうがいい分野もあるかもしれない。次のスライドを見てください」

不動産業界の5分類

「これは国土交通省が整理をしている不動産業界の分布です。5つに分類されていて、1つ目が開発・分譲という、いわゆるデベロッパーのお仕事、そして2つ目が流通です。そして3つ目が投資・運用、4つ目が管理、5つ目が賃貸。ネット不動産は、まず3つ目から5つ目までの投資・運用、そして管理、賃貸の部分から普及していくと予測しています。これらは現在でも比較的オンラインのニーズが高い領域だからです

私ども不動産投資のRENOSYも、今回書類の提出から電子契約までをサポートしました。もちろん実際に改正された法律が施行されるまで書面の交付をしてまいりますが、それ以降はオンライン上での完結も可能です。これにより新しいユーザー体験を提供できると考えています」

RENOSYは不動産取引のオンライン完結に対応

第二部:パネルディスカッション


第二部のパネルディスカッションは東京大学大学院経済学研究科特任教授 不動産イノベーション研究センター(CREI)武藤 祥郎氏、株式会社GA technologies 代表取締役社長執行役員 CEO 樋口 龍氏、そしてモデレーターとしてPropTech JAPAN Founder / 株式会社デジタルベースキャピタル 桜井 駿氏が登壇しました。

桜井 駿氏(以下、桜井氏):今日はお二人にゲストで来ていただきました。先ほどの川村さんの話しはやられたと思いました。何がというと、ネット不動産という表現です。今後、こういう会社が増えると市場の活性化が期待できるように思えます。そこで改めて、今回の法改正によって実務上はどんな影響があるのかを教えていただければと思います。

樋口 龍氏(以下、樋口氏):ネット+産業という点では、ネット証券、ネット銀行、ネット保険などデジタル化が進んできました。共通して言えるのは、顧客がもっと便利になるように追求した先で生まれた業態だと思っています。コロナ禍もあり、不動産も今までのようなユーザーが自分で足を運んで物件を選び、契約するプロセスからの脱却が必要だった。顧客起点で考えれば、自宅にいながら不動産の売買契約や賃貸契約が完結できたほうがいい。決済分野でキャッシュレス化が進み、財布を持たない若い層が増えたように、オンラインでできないことが機会損失になる可能性もでてきます。

桜井氏:武藤先生にもお聞きしたいのですが、先生はもともと国土交通省にいらっしゃって、今は東京大学。不動産のイノベーションの研究をされている。そのお立場から、現在をどのように見られていますか?

武藤 祥郎氏(以下、武藤氏):今回の法改正は大きな一歩です。10年前はやはり紙でないと駄目という風潮でした。しかし、今は紙でなくてもいいという社会になってきている。そして、冒頭のお話しにもあったように「投資・運用」、「賃貸」、「管理」から普及していくでしょう。

樋口氏:不動産は高額だから、オンラインは難しいという声もあります。しかし実際は数千万の売買契約がオンラインで行われています。物件はGoogleストリートビューで確認し、情報もオープンになっているものが多く、家に居ながらにして収集可能。賃貸と投資のオンライン契約率は非常に高くなっている印象です。書面の交付も電子化されたら、この率はより高まると考えています。

武藤氏:GAテクノロジーズさんのようなところは、非常に電子化に理解のあるユーザーさんが多いのでしょう。大手不動産会社もデジタルについては積極的に取り組んでいますが、お客様の層が幅広い。お客様の中には、デジタルに消極的な方もいらっしゃる。大手不動産に行く人と、GAテクノロジーズさんのように先進的な企業に行く人でディバイト(分割)している状態が「今」かもしれません。どこまでがリアルで、どこまでオンラインか。このあたりも私たちの研究対象ですね。

桜井氏:ネット不動産によって、オペレーションはガラッと変わる気がします。これまで集客をネットでして、来店を誘致し、契約へというフローがあり、KPIであったと思いますが、そもそも来店がなくなる。重要事項説明も書類送付が不要となる。こうなると特に仲介会社や管理会社のありようも根本から変わるように思えます。

樋口氏:そうですね。これまではやはりリアルが中心でした。しかし、コロナ禍を経て何かが起きたらリアルだけでは業務ができない。顧客起点以前に、事業の存亡が問われるような経験をした。それにより、不動産関係者のマインドも大きく変わったように思えます。

桜井氏:念のための確認ですが、不動産会社はお客さんを店に呼びたい、あるいは店に呼んで紙で契約したいと思っているんでしょうか? なにかメリットはあるんでしょうか?

樋口氏:来店のほうが、成約率は高いと思い込んでいる不動産関係者は多いかもしれません。オンラインと比べてどう、という明確な根拠はないのですが、過去の成功体験からそうだと思っている。例えば売買でも対面だと成約率が高いといった話がありますが、買わないことも当然ある。そうなると、商談数をたくさんこなせるオンラインのほうが、成約率は高くなるケースも出てくるわけです。

ネット不動産でも、リスクはリアルと変わらない。しかしメリットは増える

桜井氏:デメリットについても考えていきたいです。ネット不動産が普及することで、起こりうる顧客の不利益はあるんでしょうか。

武藤氏:リアルと同じくオンラインでも、地面師のような不動産における諸問題は発生する可能性はあります。不正についてはリアル、オンライン共に見ていく必要がありますね。

樋口氏:一方で、デジタル化されたことによって、当たり前ですけど、トップセールスのやっていることが録画して確認できるようになった。重説は録画もしないといけないので逆に安全性が担保されたとも思います。どう説明したのかってブラックボックスにされていたので、逆に安心感があるかなと。

桜井氏:最後に、不動産取引がオンライン化していくと、今度その先はどんな顧客体験とか事業がありえるのか。そのあたりをお聞かせください。

樋口氏:我々のグループとしてはネット不動産会社として、DXを進めていく。IT化はもちろん、ネット不動産は我々だけでなく、業界全体が進めていく。結果流通額が上がり、消費者事業者すべてWin-Winになるようにしていきたいですね。

武藤氏:研究センターは2年前にできました。コロナの真っ只中で何もなかった。そこからスタートアップで立ち上げてきました。今、まさに不動産のイノベーションってなんなのかを追い求めている。大きな環境変化があるので、何ができるかも考えていきたいですね。

桜井氏:本日はありがとうございました。

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