直面した課題と業務効率。中小規模の管理会社の不動産テック導入事例を聞く

取材先
株式会社エヌティーコーポレーション
エリア:西早稲田駅徒歩2分
従業員数:正社員数39名
平均年齢:40代
事業内容:3,000室以上の賃貸管理と、建物の共用部分の管理の2本立て
株式会社エヌティーコーポレーションは、社内や仲介会社に対して積極的にITツールを導入する一方、ご高齢のオーナー様に配慮してオーナー様に対するIT化を慎重に行うなど、それぞれの立場に立ったサービスを提供しています。
今回は、松岡氏にインタビューを行い、不動産テクノロジーの導入事例やコロナ禍における変化、今後の展望について伺いました。
賃貸管理事業におけるコロナ前・コロナ禍の動向について
SUMAVE:御社のコロナ前、コロナ禍の動向を教えてください。
松岡氏:弊社の実績は、コロナ禍でもそこまで下向きになったという実感はないですね。お部屋を借りられる方はどうしても必要なケースがあるので、実績としてはそれほど落ちていません。
ただし、外国籍の方の借り手は若干落ちたという印象はありますね。弊社は西早稲田、高田の馬場近辺で事業をやらせていただいていますが、日本語学校が多いので外国籍の方が部屋を借りられるケースが多くなっています。留学生の方はそもそも入国ができなかったりするので、そのような方が少なくなった印象です。
SUMAVE:外国籍の方に対して、言語の対応はどうされているんですか?
松岡氏:スタッフの中で、1人中国語が堪能な者がおりますので、中国の方が契約される時は、その者が対応することがあります。
導入している不動産テックのツールとは?
SUMAVE:御社では、どのような不動産テクノロジーを導入していますか?
松岡氏:先月ぐらいからイタンジ株式会社の「ITANDI BB(イタンジビービー)」の運用をはじめました。仲介会社の方にITANDI BB経由でお申込みいただいて、契約まで進んでいくという取り組みをこれから行っていくところです。
ただ、IT化というと、弊社はなかなか進んでいなくて、結局、書類などのやり取りは紙ベースで行っているので、これからIT化を進めて行こうかなというところです。
また、2年前から株式会社いえらぶGROUPの「いえらぶCLOUD」を基幹システムとして導入しています。今までは、クラウド型でない自社内製のシステムを使っていました。しかし、メンテナンスの費用や手間などがかかるので、いえらぶCLOUDを使うことにしました。コロナ禍で、クラウド型のシステムで在宅の切り替えもスムーズに運ぶことができているので、すごく助かっています。
SUMAVE:ITANDI BBといえらぶCLOUDは、それぞれどのように活用していますか?
松岡氏:申込はITANDI BB、基幹システムはいえらぶCLOUDを使用しています。
実際は、いえらぶCLOUDでも申込のシステムがあるんです。本当は賃貸管理の基幹システムと併せて、一貫して導入できれば良かったのですが、弊社との折り合いがなかなか難しく、申込はITANDI BB、賃貸管理はいえらぶCLOUDを使っているような状態です。
SUMAVE:他にも御社で導入している不動産テクノロジーはありますか?
松岡氏:富士フイルムビジネスイノベーション株式会社のDocuWorks(ドキュワークス)も導入しています。文章の電子化をするのに都合がいいので、賃貸業務に関してはこれからどんどん使っていきたいと考えています。
業務効率化、作業軽減の実感あり。いえらぶCLOUD導入による変化
SUMAVE:いえらぶCLOUDを導入したことで、業務が効率化できた実感はありますか?
松岡氏:いえらぶCLOUDは、賃貸管理の業務を一貫してできるシステムになっているので、業務が軽減されているという実感があります。
特に、収支報告の業務は効率化できていますし、慣れればかなり使いやすいシステムです。
システム導入後、帳票の出し方がだいぶスムーズになりました。以前は自分でエクセルのシートを作って打ち込みをする必要がありましたが、いえらぶCLOUDでは、システムの中だけで完結できるので、作業としてはかなり軽減されたという印象があります。
基幹システムを移行する際の苦労
SUMAVE:いえらぶCLOUDを導入する際に苦労されたことをお聞かせください。
松岡氏:弊社は中小規模ですが、賃貸だけで言えば3,000室くらいは管理しているので、3,000室分のデータが前のシステムに入っていたわけですよね。それを全部移し替える作業を2年前に行ったのですが、なかなか上手く移行できないこともありました。前のものを今のものとすり合わせる作業が大変な時期がありました。今もその作業をしている途中ですが、だいぶ落ち着いてきたところです。
SUMAVE:いえらぶCLOUDを導入する際、従業員の方の研修は行いましたか?
松岡氏:いえらぶCLOUDは従業員全員が使うようなシステムですが、研修なしで運用を開始しました。研修を行うとしたら、とてもじゃないですけど時間が足りない感じでしたね…
わからないことがあれば、個々がいえらぶCLOUDのサポートに電話して解決するという方法で運用を開始しました。電話でいえらぶCLOUDのサポートセンターに問い合わせる際、非常に丁寧な対応をしてくれます。
いえらぶCLOUDを導入した決め手と管理会社ならではの悩み
SUMAVE:いえらぶCLOUDを導入した決め手を教えてください。
松岡氏:いえらぶCLOUDを導入した決め手は、クラウド型で汎用性が高いという点です。
クラウド型でない場合、IT企業に依頼して、自社専用のシステムを作ってもらうという形になると思うのですが、賃貸管理はシステム自体の選択肢が少ないんですよね。
自社専用のシステムを作ってもらう場合、費用がかかりますし、メンテナンスにかなり気をつかう必要があります。システムに関する知識を持った人間が社内にいないと、管理ができないことも課題でした。そのようなことがあって、クラウド型のいえらぶCLOUDを選びました。
正直なところ、機能としては、以前使用していた自社の内製システムの方が融通が利く部分がありました。いえらぶCLOUDだとパッケージになるので、今までの弊社のやり方とは違うやり方をしなければならないところが懸念点でした。旧システムから新システムへ移行する作業も大変でしたね。
ただ、いえらぶ株式会社の方にこちらの要望を伝えると、システムの改修に関して積極的に話を聞いてくださるので、非常に助かっています。
内見、オーナー対応…ITツール活用に対する課題と今後の展望
SUMAVE:内見の対応や鍵渡しはどのように行っていますか?
松岡氏:内見の対応はIT化が全然進んでいないというところが現状です。鍵渡しも、仲介会社の方から連絡をいただいて、鍵の場所を伝えている状態です。いえらぶCLOUDで、仲介会社の方が鍵の番号を確認できるなどの機能がありますが、まだそこまで対応できていないんですよね。
SUMAVE:SNSはどのように活用していますか?
松岡氏:一応ホームページを更新しているのですが、社内全体でまとまって行うという流れは、これからですね。
今使っているシステム自体には、弊社と入居者、弊社とオーナー様を結びやすくする仕組みがすでに組まれているので、仕組みを上手く活用していきたいです。SNSで更新の案内を出せるような機能がいえらぶCLOUDで使えるみたいなので、そのような機能を活用したいなというところです。
不動産テクノロジーの活用でオーナー様との関係強化を目指す
SUMAVE:御社ではオーナー様向けに、賃貸経営に関するオンライン相談会を行われているようですが、はじめたきっかけを教えてください。
松岡氏:いえらぶCLOUDを導入したことが大きいですね。以前のシステムでは、顧客の対応に関する機能がありませんでした。いえらぶCLOUDを導入して顧客を管理する機能がついて、活用しなきゃ損ではないかということで、仕入れや売買の担当が積極的に使っていますね。
メールなどで一斉にオーナー様へオンライン相談会の情報を配信しましたが、60代~70代など年齢層の高い方からも反響をいただいています。
今管理している物件は、オーナー様がお年を召された方が多くなってきているので、税金の相談や、相続の相談をされる方も多いです。相続があったときも引き続き弊社に管理を任せていただけるような関係を構築できるように、オンライン相談会をはじめました。
いえらぶCLOUDを導入してから、オーナー様の管理をしやすくなっています。
ITツールを積極的に導入できない理由
SUMAVE:御社で業務をIT化していく上での課題をお聞かせください。
松岡氏:仲介業は入り口なので、借りるお客さまに対してIT化をアプローチしやすい業態だと思うんですね。弊社は管理業なので、借りる側だけでなく、貸す側もいらっしゃいます。貸す側は若い人がまずいらっしゃらないので、オーナー様の立場に立つと、なかなか強制的にIT化していくことは難しいですね。
例えば、システムを導入しても、収支報告書はまだ紙で郵送しているのですが、IT化しようと思えばできなくはないと思います。しかし、その様なシステムの使い方に不慣れなオーナー様がかなりいらっしゃるので、こちら側で強行して「弊社は紙を出さない仕組みにしました」と言っても、なかなか納得していただけないのではないかという部分があります。
借りる側のことをメインで考えれば、もっと早くIT化を進められるような気がするのですが、オーナー様のことを考えるとなかなかそうもいかないという事情が管理会社としてはあります。
ペーパーレス化を目指す上での課題
SUMAVE:御社で今後IT化していきたい業務はありますか?
松岡氏:弊社では、IT重説や電子契約などのペーパーレスを進めたいと考えています。
現状、ITANDI BBの申込データをいえらぶCLOUDに流すための仲介システムが必要なので、いえらぶ株式会社のRPAロボットを使って取り込む仕組みを作っているところです。
SUMAVE:ペーパーレスする上での課題、懸念点はありますか?
松岡氏:書類を紙で持ちたいという方がけっこういらっしゃることと、記名押印を契約書にしなければいけないというところで、その辺りを電子契約でどこまで対応できるのかな…というのはありますね。
SUMAVE:現状、書類の管理はどのようにしていますか?
松岡氏:社内の他に、事業所近辺にも倉庫を2~3個借りていて、そこに紙の帳票を溜めて管理している感じです。年限が来たらまとめて廃棄するという仕組みになっているのですが、帳票の数が膨大なので、廃棄の際、まとめる作業にも時間がかかるので、早く電子化を進めていきたい部分ですね。
不動産業界全体のデジタル活用についてのご意見
SUMAVE:不動産業界全体のデジタル活用について、印象やご意見をお聞かせください。
松岡氏:賃貸管理事業に関して言えば、弊社は借主と貸主の間に入っている業態なので、借りる側にも貸す側にも配慮ができるシステムがあればいいな…と感じています。
賃貸管理向けのシステム自体も、選択肢が少ないという印象があります。大企業であれば、自社で使いやすいシステムを作って、IT部門も自社で設けられますが、弊社の様な中小規模の場合はなかなかそういう訳にはいかないんですよね。
なので、提供していただく企業の方々に、中小規模の管理会社でも管理できるシステムの選択肢をもう少し増やしていただけたらな…と感じています。