オーナー目線で不動産業界を変えていきたい 株式会社ヤモリの代表インタビュー

- 「不動産の民主化」をミッションにオーナー視点でのサービスを展開
- オーナーの質を高めていくことで不動産市場の活性化
- 物件の情報を一元化することで金融機関とのマッチングもはじまる
不動産オーナーのために開発されたクラウド不動産収支管理ソフト「大家のヤモリ」を運営する株式会社ヤモリ。ヤモリはほかにも「不動産の民主化」をミッションに、クラウドを活用して不動産賃貸事業の学習から購入、管理、売却まで、不動産オーナーの経営を支援するサービスを行っています。今回は株式会社ヤモリ代表取締役藤澤正太郎さんにヤモリが目指す不動産業界、そしてその課題についてお話を伺いました。聞き手はデジタルマーケティング・ビジネス支援の株式会社エヌプラス代表であり、DXやスマートシティなどのコラムも執筆、不動産テックに詳しい中村祐介。
幅広く展開するヤモリのサービスはオーナー視点にこだわる
時折笑顔になりながらの取材はオンラインを通じて行った。
左:株式会社エヌプラス 代表 中村祐介 右:株式会社ヤモリ 代表取締役 藤澤正太郎氏
中村祐介(以下、中村):クラウド管理ソフトの「大家のヤモリ」以外にも、「管理会社のヤモリ」、「ヤモリの学校」、「ヤモリの家庭教師」などさまざまなサービスがありますね。それぞれサービス内容を教えていただけますでしょうか。
藤澤正太郎氏(以下、藤澤氏):そうですね。「大家のヤモリ」は不動産事業に特化したクラウドプラットフォームで、保有物件の収支管理や書類を一元管理でき、物件・名義ごとの月次キャッシュフローや空室率や滞納金額、残債、減価償却といったオーナーにとって重要な指標を可視化しています。現在500名以上のオーナーに利用してもらっています。
この大家のヤモリを軸に、「管理会社のヤモリ」という管理会社向けのオーナー管理ソフトも提供していて、相互のソフトウェアが連携することで、オーナーと管理会社のコミュニケーションや書類のやり取り、承認依頼もクラウドで一元化できます。
ヤモリのユニークな点は、不動産オーナーの視点にこだわってサービスを設計していることですね。オーナーにとって便利なデジタルツールの提供に終わらず、オウンドメディアの「ヤモリの学校」やパーソナルサービス「ヤモリの家庭教師」を組み合わせることで、より多くの人が不動産事業の一歩を踏み出せるようにサポートしています。ありがたいことにここから認知向上に繋がり、興味を持っていただける人が増えています。ヤモリの家庭教師は、オーナーやオーナーになろうとする人、一人ひとりに寄り添うサービスで、ここから200人以上の人が具体的に物件購入に動いています。
中村:どのサービスも、オーナーにとって便利なものになっているわけですね。
藤澤氏:不動産投資を不動産事業として捉えて、資産形成していくオーナーを増やしていくこと、オーナーの賃貸経営の質を高めていくことで、不動産市場の活性化を目指しています。それがヤモリのミッションである「不動産の民主化」ですね。多くの人が不動産業務に挑戦できるようにと考えているので、口コミで人が増えているのは嬉しいです。
中村:SEO対策などもあまりされてないですよね?
藤澤氏:そうです。これまで口コミやご紹介でユーザーが増えている状況です。ヤモリは不動産業者ではない立場で、オーナーと同じ目線でサービスを提供していて、その点がニーズがあるんだなと感じましたね。
中村:だからこそ、オーナーにとっては参加しやすいのかもしれないですね。藤澤さんの前職は三菱商事株式会社ですよね。当時から不動産業界に興味があったんでしょうか?
工務店巡りを通して不動産業界の仕組みを知る
藤澤氏:前職ではインフラ開発と不動産修繕のサービスを立ち上げる業務をしていました。いろんなインフラがある中で、不動産や不動産の維持管理の分野に興味がありましたね。当時から今後100年スパンで見たときに、既存のリアルアセットをどうやって維持管理していくか、が社会課題になると認識していました。空き家の問題や老朽化の問題は非常に深刻で、この課題に対してチャレンジしたいという思いで起業しました。実は前職を辞めたあとに、町の小さな工務店や個人大工とオーナーをマッチングするアプリ(Naosoon)や、管理会社向け工務店アレンジやテナントコミュニケーションを一元化できるクラウドサービス(Joinery)を作って検討していたんです。工務店をたくさん回ったこともあるんですよ(笑)。
中村:それはすごい(笑)。自分でアポを取ってですか?
藤澤氏:はい。電話をかけて・・・・・・みなさん忙しいから、なかなかアポが取れず大変でした(笑)。でも、その経験があったからこそ、不動産オーナーの視点でのサービスを目指そうと思ったんです。業界を変えるには、ピラミッドの頂点にいる不動産オーナーを起点にサービスを作っていくべきだと気がつきました。
そこからヤモリの創立を目指すんですが、法人化したのが2019年11月で、その段階ですでにサービスは固まっていました。元々プロトタイプは自分で作っていたんですよ。それを元に創業メンバーとディスカッションしながらサービスを完成させました。
中村:創業メンバーはどのように探しましたか?
藤澤氏:メンバーを探すのが一番しんどかったですね。
中村:やっぱりエンジニア探しでしょうか? いろいろな起業家に話を聞きますが、みなさん大変だとおっしゃっていました。
藤澤氏:本当にそうですね(笑)。100人くらいのエンジニアに会いましたね。開発環境が選べて、構想が書けて、ゴリゴリ開発ができる・・・・・・そういうすべてを任せられるエンジニアはやっぱり取り合いになります。日本人がダメというわけではありませんが、日本にいる外国籍のエンジニアにもたくさん会いましたね。創業メンバーのジャーミー・ホールは大学時代から知っています。優秀なのはもちろん、信頼できる相手ですね。コンピューターサイエンスの博士号を取っているジャーミーは、ビッグデータを扱う研究をしたいという気持ちがあったんです。
中村:不動産の持つデータをデジタル化するヤモリは、うってつけだというわけですね。ちょうどデータの話になったので、ヤモリでのデータの管理についてお伺いしてもいいでしょうか。
情報を一元化したことで、融資申込書類も簡単に作成可能に
藤澤氏:大家のヤモリでは、とにかくすべての関連情報をここに集めています。まずは不動産管理にまつわるさまざまな書類を、オーナーさんがクラウドに上げていきます。
中村:それはどういうフォーマットなのでしょうか?
藤澤氏:一番多いのは書類を写真で撮ってそのままクラウドに上げる方ですね。その写真をPDF化する人もいます。
中村:OCR機能などは?
藤澤氏:ありますね。でもこれは有料でのサービスになっています。管理会社によってフォーマットが違うので、OCRの精度をどこまで高められるのかというのも僕たちの課題ですね。クラウドに上げたデータはそれぞれの書類ごとに分類して、ダッシュボードで管理しています。物件ごとにすべての書類を集めることで、修繕履歴や領収書が残るんですよ。
中村:それは将来的に売却するときにも便利ですね。物件の履歴というのは、案外管理しにくいように思います。
大家のヤモリでは様々な項目で情報を管理することができるほか、融資申し込みの書類も作成することができる
藤澤氏:エクセルで管理されているオーナーさんもいますが、融資計算や物件ごと、名義ごとでの管理など全てはできませんよね。そこをヤモリが整理していくことで、データをもとに融資につなげていったり、売却するときの目安にしていくのが目標ですね。
中村:今までそういったツールはなかったということですよね?
藤澤氏:大手管理会社のツールをオーナーさんが使うことはありましたが、オーナー視点というのはあまりなかったと思います。ヤモリはオーナーさんがデータを保有して、複数の管理会社と一緒に同じクラウドサービスを使うことができます。
中村:そこも含めてオーナー視点のサービスと言えますね。今回DNX Venturesや個人投資家から5,000万円の資金調達を行いましたよね。それを踏まえての今後の展望はどんなイメージがありますか?
藤澤氏:会社設立以降、自己資金でサービスローンチまで少数精鋭で開発に取り組んでいました。今回の資金調達は、ユーザーの中にいた個人投資家の方がきっかけになります。キャピタリストのメンバーとは信頼関係を築けており、ヤモリの目指すビジョンにも強く共感してもらえています。今後、ヤモリとしては不動産オーナーの育成や経営支援のみならず、そこにお金が流れる仕組みまで作っていきたいと思っています。
中村:具体的なイメージもありますか?
藤澤氏:すでに大家のヤモリから属性情報と必要書類を入力し、融資申込資料を作成することが可能です。また、実際に提携金融機関をお繋ぎして融資実績もできています。
中村:たしかにヤモリの強みは資料がそろったデータベースとも言えます。融資のためのマッチングもしやすいですね。
藤澤氏:金融機関からもこれだけ資料が揃っているならすぐに融資できる、という声もいただいています。
中村:金融機関から見てもメリットが多くありますね。
藤澤氏:単純にプロセスを効率化するだけじゃなくて、貸した後の管理が見えるのがメリットですよね。従来は不動産物件が貸付後にどう運用されているのかというのは、決算書類を見るだけですが、ヤモリがあればそれだけじゃなく物件の月次収支がリアルタイムで見えて、取引先とのコミュニケーションまでスムーズにできる。昨年から幾つかの金融機関とは話を進めていて実現していきたいです。
最初にヤモリのコミュニティについてお話しましたが、このユーザーコミュニティ自体がヤモリの大きな強みです。不動産業界というのは情報格差がすごくあるんですよね。それをデジタルの力で淘汰していきたいと思っています。今後はヤモリの学校や家庭教師で勉強している人たちが、しっかりと知識をつけて物件を買っていけるようにしたいです。今は200人のコミュニティでも1000人になるともう市場では無視できなくなりますよね。そんな風に日本の不動産を変えていきたいです。