賃貸契約の制約や不便をなくすサービスを目指す「NOW ROOM」の代表インタビュー

- NOW ROOMが目指すのは賃貸の不便をなくした自由な暮らし
- サービスのきっかけは代表のイギリスでの原体験
- 課題である物件の在庫管理はあと1年半での解決を目指す
スマホアプリから月単位で、多様な部屋を気軽に借りられるサービス「NOW ROOM」。水道光熱費込みで家具家電付きの物件のみを扱い、2021年4月に全国での取り扱い室数が8万室を突破。「自分の原体験からこのサービスが生まれた」と語るのは株式会社NOW ROOMの代表取締役千葉史生さんです。今回は千葉さんにNOW ROOMのビジネスとそれを通して見えてくる賃貸業界の課題についてお話を伺いました。聞き手はデジタルマーケティング・ビジネス支援の株式会社エヌプラス代表であり、DXやスマートシティなどのコラムも執筆、不動産テックに詳しい中村祐介。
選択肢に制限のある賃貸業界を自由にすることを目指す
取材はオンラインを通じて行った。
左: 株式会社エヌプラス 代表 中村祐介 右:株式会社NOW ROOM 代表取締役 CEO 千葉史生氏
中村祐介(以下、中村):「NOW ROOM」のサービスを一言で表すと、「一ヶ月から住める家具家電付き賃貸」というイメージなのですが、まずはサービスの目的や内容についてお話いただけますでしょうか。
千葉史生氏(以下、千葉氏):はい。まず「暮らすを自由に」というのがNOW ROOMの企業理念です。といっても何かを押しつけるというわけではなく、暮らしの選択肢を広げようよ、という感じですね。住まい選びには現在コストや時間、選択肢など様々な制約があると思うのですが、それを解決するために特にテクノロジーと仕組み化にこだわっています。
特徴としては「オンラインで完結するため速い」、「セール物件も多いので安い」そして2021年4月に発表させていただきましたが全国で8万件取り扱っているということで「物件数が多い」の3つがあります。現在NOW ROOMへの登録者は2万9000人(2021年4月現在)で、毎月約600人がNOW ROOMを利用して入居されています。平均の入居期間は約2.5ヶ月で、リピート率は30%になっていますね。
中村:利用者は長期間滞在するというのではなく、いわゆるマンスリーマンションの市場と考えていいのでしょうか。
千葉氏:そうですね。ビジネスモデルとしてはプラットフォーム型で、借り上げをするのではなく、空室情報を掲載いただく。掲載課金は発生せず、契約が発生した段階で報酬をいただく、完全成果報酬型です。取り扱いは普通賃貸、マンスリー賃貸、シェアハウスなど業態を問わず行っています。
中村:今年3月、インドの格安ホテル大手OYOが日本国内の不動産賃貸事業から撤退するというニュースがありました。OYOは借り上げですね。
千葉氏:借り上げをすると、やはりその管理コストもかかってしまうので、なかなかスケールアップできないという悩みが出てくると思いますが、私たちにはそういうリスクはないですね。
中村:通常のマンスリーマンションを借りると、意外と手続きに時間がかかってしまい突発的な出張時などに間に合わないということもありますが、NOW ROOMではそういった点はどうでしょうか。
【出典】株式会社NOW ROOM
千葉氏:私たちのサービスはすべてオンラインで完結しています。スマホのアプリ上でお部屋探しをされる方が多いのですが、アプリ上では5タップで契約が完了するため、ホテルを予約するような感覚で部屋を借りられます。また、ホテルの当日予約のように、空室情報があれば直前割引を行うこともあり、簡単に利用可能です。
中村:マンスリーマンションだけでなく、短期間での賃貸にはシェアハウスや民泊もありますが、こちらはどうですか? 特に民泊では住宅宿泊事業法によって年間での営業日数が180日以内と決められているため、貸し手も残りの日数をどうするか悩むところではないでしょうか。
千葉氏:そうですね。民泊は180日間という壁がありますよね。貸し出しできる180日以外の185日をどうするか、という点でマンスリーマンションとの併用を考える事業者様も多いかと思います。こんなとき、NOW ROOMがご協力できる形があるかと思います。シェアハウスは少し特殊で、2種類のタイプのシェアハウスがありますよね。ひとつが鍵付き個室のシェアハウスで、会社の寮などがこれにあたります。それぞれ個室が集まっているというイメージです。そしてもうひとつがリビングなど共有スペースの活用にも力を入れているコミュニケーション型のシェアハウスです。私たちがターゲットにしているのは前者で、箱としてのシェアハウスですね。こちらも同じようにNOW ROOMで探しやすく、契約もスムーズなので魅力を感じてもらえると思います。
中村:会社の寮という単語も出てきましたが、個人手配と法人手配で違いはありますか?
【出典】株式会社NOW ROOM
千葉氏:個人のお客様が中心でしたが、最近は法人営業にも力を入れ、法人のお客様も増えてきました。法人手配というと総務などのご担当者が管理会社とやり取りをして手配をすることが多いのですが、複数の物件のやり取りをするのは手間だと感じられることも多い。これまでご担当者が各社(マンスリーマンション事業者)に対して個別で対応していたものが、私たちのもとで一本化できるということで、喜ばれています。
中村:総務の担当者からすると作業工数が削減できるということですね。ちなみにどういう企業の需要が高いのですか?
千葉氏:一番多いのは人材派遣などをしている企業ですね。コロナ禍の影響で1日や2日の出張というのは減ったけど、一ヶ月、二ヶ月という常駐が必要な出張の需要がまだまだ多いようですね。急に出張が決まった、というケースなどでご利用いただくことが多いですね。
拡大する市場に対し、プレイヤーが少ない今を攻め時と捉える
中村:ターゲットとしているマンスリーマンション市場の傾向はどうでしょうか。
千葉氏:マンスリーマンションを見てみると、市場規模としては約110万室で、さらに大きく成長していますが、まだまだ私たちのようなプレイヤーが少ない。その結果、課題解決が遅れている印象です。
中村:ここで出てくる課題とは何でしょうか。さきほど契約完了までに時間がかかるという従来型のマンスリーマンションについて話が出ましたが、それ以外にもありますか?
千葉氏:マンスリーマンションの市場規模は増えているのですが、それを横断的に検索し、契約までできるサービスがまだまだ少ないことでしょうか。NOW ROOM以外の既存ポータルサイトなどでは、掲載料が発生します。このため、マンスリーマンションの事業会社、管理会社側がすべての部屋を掲載できない。
中村:そうなると、「おとり物件」のような情報が増えてしまいますよね。全部を掲載すると掲載料がたくさんかかってしまうので、安い物件情報を掲載し、その問い合わせのあったお客様に対して別の部屋を案内するというような。この場合、物件とのマッチングに時間がかかってしまい、双方にマイナスでしょうね。
千葉氏:NOW ROOMではその課題を解決することができると思っています。
中村:マンスリーマンションをホテルライクに使えるようにしているわけですね。気になるのは保証の部分です。従来のモデルでマンスリーマンションを借りる場合、保証人なども必要になることが多いと思いますが、ここはアプリで完結するということだとどのように審査するのでしょうか。
千葉氏:その点も私たちが注力している部分になります。家賃の保証会社とAPI連携をしていて、アプリ上で借り手の方のお名前やお勤め先などを入力していただくと30分程度で普通の賃貸でも必要な保証のための審査が完了します。実はこれは短期賃貸では初めての試み。マンスリーマンションの事業者様からもかなり便利になったねとご評価いただいています。また、保証内容も家賃保証、物損保証、死亡保障とすべて含んでいるので事業者様にも安心してNOW ROOMを使っていただけます。
中村:借りる側にとっては時間がかからず手軽という点、貸す側にとっては保障の部分でも安心できるという点のどちらにもメリットがあるというわけですね。
イギリス滞在中の経験から見えた、日本の賃貸の課題は「複雑な仕組み」
中村:NOW ROOMのサービスについてですが、もともと設立のきっかけを教えてもらえますか?
千葉氏:個人的な経験になりますが、イギリスの大学院に進学する際に現地では、簡単にいろいろな場所に住めるなと思ったんです。はじめて訪れた何も知らない街なので、いろいろな場所に住んでみようと思い物件を探したところ、デポジットは少し必要でしたが、それ以外にお金がいらず、部屋には家具家電もついていました。おかげで滞在中は10ヶ所以上気軽に引っ越しできました。2016年に帰国し、部屋を借りようとしたら2年間縛りで敷金、礼金、仲介手数料も必要。さらに家具家電も自分で揃える必要があったので、全然自由に部屋探しができないなと感じたのです。もっと自由にできればいいのに、と思ったのがきっかけですね。
中村:たしかに、日本で家を探すと、借りるのも時間とお金がかかるし、借りてしまうと引っ越しを気軽にするのも難しいですよね。最近は敷金をならして、家賃に乗せるという仕組みも出てきましたが、それではやはり課題解決にはならない。
千葉氏:そうですね。先ほどまでお話しさせてもらったマンスリーマンションではもちろん敷金・礼金がもともとありませんが、普通賃貸の部分でも同じようになくしていきたいですね。やはり初期費用のない物件は早く借り手が決まります。そこを管理会社様などにもお伝えし、なくす方向にもっていきたいと考えています。
中村:会社設立からNOW ROOMのローンチまで少し期間がありますよね。この期間の話も伺っていいでしょうか。
千葉氏:2019年に最初はホテル事業を行っていました。これは無人チェックインシステムを導入したホテル事業でtoB向けのビジネスですね。1年目で黒字化もでき、結果VCからスムーズに次の資金調達もできました。この時の資金調達でもtoB向けではなく、toC向けのサービスを作りたいと思い、VCにもその話はしていました。
中村:このtoC向けのサービスがNOW ROOMですね。最初からtoC向けを意識していたということでしょうか。
千葉氏:そうですね。ちょうど観光客が増えて、ホテルも増えてきたタイミングでもあり、また民泊の180日規制もできたタイミングでもありました。ここでtoC向けに振り切った方がいいのでは? と思い、黒字化していましたが2019年11月からホテル事業の売却を始めました。2020年の1月に整理も進んだところで、ホテル事業からNOW ROOMの事業にシフトしましたね。純粋にNOW ROOMに将来性を感じたので資金調達の1億円のうち約7割をアプリ開発に投入していました。
中村:アプリを見てみると、アプリ自体はシンプルですが、後ろのシステムはコストがかかってそうだなと感じます。
【出典】株式会社NOW ROOM
千葉氏:まさにそうなんですよ。在庫管理システムなどかなり力を入れていますし、開発コストもかかっています。
お客様がNOW ROOMで探せば、必ず見つかる環境づくりを目指す
中村:業界としての課題ではなく、NOW ROOMの課題としてこれから解決していく内容というと、先ほども出ていた市場を取っていくという点でしょうか。
千葉氏:それももちろんですね。合わせて今力を入れているのが在庫管理です。いかに在庫状況をオンタイムでお客さまに提供できるか、ということですね。NOW ROOMにお客さまが集まっても、気になる部屋がすでに埋まっていたら意味がありません。その作り込みが私たちの一番の課題ですし、ここを克服できると強くなると確信しています。
中村:在庫管理に時間がかかると、ユーザーにとっても部屋探しに時間がかかり、事業者にとってもそのやり取りが手間になりますしね。これはどれくらいのスピード感で解決できているのでしょうか。
千葉氏:お客さまが部屋へのリクエストをアプリ上で送って、在庫がなかったというケースが以前は30%だったんですが、今は10%にまで下がってきています。在庫の把握率はまだ30〜40%ですが、ここも100%を目指していきたい。
中村:それはNOW ROOMだけではできないですよね。連携する事業者たちと協力してということでしょうか。
千葉氏:そうですね。NOW ROOM単体では難しいと思います。在庫管理は管理会社さんにとっても手間なんですよ。今は効率化のために情報をもらって、私たちで手打ちで入力することもしています(笑)。もちろんオートメーション化していくんですが、今は任せれば大丈夫という仕組みや関係性を作っているところです。オートメーション化についてはあと1年半くらいでの完了を目指しています。
中村:その先には、ミッションとして掲げている暮らしがテーマになってくるのでしょうか。
千葉氏:おっしゃる通りです。暮らしのあり方が大きく変わったり、何かを押しつけるというつもりはありませんが、NOW ROOMを通じてより便利になると思っています。そんな存在感のあるものにNOW ROOMがなれるのではないか、という手応えは感じています。