新型コロナ危機と不動産業界とテクノロジー【専門家の視点/2020年5月下旬】

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新型コロナ危機と不動産業界とテクノロジー【専門家の視点/2020年5月下旬】

はじめに 

今回はオンラインイベントレポート記事です。2020年5月18日に一般社団法人不動産テック協会が開催したオンラインセミナーより、早稲田大学ビジネススクール教授・川口有一郎氏(画像下)のプレゼンを紹介します。

川口氏は、日本不動産金融工学学会の会長・副会長を歴任。GIS都市解析、AI不動産評価で工学博士を取得し、ニューラルネットワークの研究にも長く従事しています。研究者というアカデミックな領域から産業界と連携する専門家が、Withコロナ、Afterコロナの世界をどう見ているか。私たちが向かう社会や経済の姿から、求められるテクノロジー/不動産テックとは何かを考えていきましょう。

新型コロナショックの大きさは第一次世界大戦の約6倍


川口:今回のコロナ危機についてお話しをさせていただこうと思います。まずは、認識について。どう理解するかという問題ですね。この認識のしかたが難しいと思っています。


川口:このグラフは、新型コロナウィルスのショックの大きさを測ったものです。ブラックマンデーから新型コロナショックまでを予測しています。アメリカの新聞記事に株式市場の変動記事がでますよね。その記事をテキストマイニングし、その数を月次で集計していくと、新型コロナショックが、ブラックマンデーやリーマンショックと同じくらいの大きさになっていることがわかっています。最近のテクノロジーを使うと、株式市場のVIXを見ずとも新聞記事をテキストマイニングで見ていけば、市場でどんなショックが起こるかがわかるようになってきました。

川口:国内では、いま、コロナの“第1波”がおさまりつつありますけど、これは完全な終わりとはいえないでしょう。私は、100年前のスペイン風邪と今回のコロナには、共通した傾向があると思っています。内閣統計局のデータを見るとわかります。月次の死者数が縦軸です。スペイン風邪のピーク時は、ひと月に4万5,000人がなくなっています。いまとは、比べるまでもないほどに多くの犠牲者が出たのです。着目したいのは終息までにかかった年数です。ワクチンがなかったスペイン風邪当時は感染拡大の波が3回ありました。1回目は1918年10月、2回目は1919年11月、3回目は1920年11月です。これは、今回の新型コロナウィルのような鳥インフルエンザ系のパンデミックが終息するまでに“3冬”を要することを意味しています。現在のコロナに置き換えるなら、中国の武漢ではじまったとされている第1波は2019年の11月です。第2波は、2020年11月にくるのではないかと。第3波があるとすれば、2021年11月と想定できます。ポイントは第2波が今年の11月くらいからやってくるかもしれないという点です。日本での第1波は、1月や2月ということになるかもしれませませんが、中国でコロナが起きはじめたのは2019年の11月、12月です。となれば、東京でも今年の12月(2冬目)には感染者が再び増えるのではないかと、個人的には見立てています。


川口:今回のコロナの影響を株式市場のボラティリティの大きさで見てみましょう。1900年1月から2020年3月までの時間軸で見ると、スペイン風邪のときのボラティリティインデックスは、0.01くらいです。これに対し、新型コロナは0.06になります。マグニチュードでいえば約6倍。スペイン風邪の当時は第一次世界大戦ですから、新型コロナショックの大きさは第一次世界大戦の約6倍といういいかたもできます。株式市場に与えるインパクトはかなり大きいと思います。

経済回復へ向かう、4つのシナリオ


川口:2007年から2022年までの実質GDPの推移です。2009年がリーマンショックで落ち込んでいます。このときの実質GDPは、約470兆円です。これがアベノミクスをへた2019年には530兆円を超えました。そして、コロナショックです。2020年以降のシナリオは大別すると4つあります。一番上の破線(A)が楽観シナリオで4月のIMFです。その下の太い破線(B)が、多くの日本のアナリストが見立てているU字型のメインシナリオになります。次が悲観シナリオL字型です(C)。最後が二番底のシナリオになっています(D)。4つのシナリオの特徴は、結局のところ見通しが立たないということです。


川口:大手不動産会社の2021年の来期の予測はほぼすべてでマイナスです。売上、純利益、営業利益。来年のことは、こんなかたちなんじゃないかということが推定されています。


川口:このスライドは資生堂の決算発表の一部です。来期の見通しが立たないことで、そもそも、見通しを立てていません。その代わり、コロナ後の戦略を出しています。ニュートラルなシナリオだと来年中に早期回復するとしながら、ワーストシナリオが描く本格的な回復は2023年です。治療薬となるワクチンがないと経済は本格的に回復していきませんが、他方で、生活者はニューノーマルな生活を送ることに。不動産市場に話を戻します。


川口:これは、私が描いたワーストシナリオです。不動産サイクルで一番大きな問題は企業の倒産だと思っています。日本のデータがないのでアメリカのデータで代用します。スライドの右側です。アメリカのパーソナルコンピューター産業の企業数の推移で、85年あたりから急上昇して90年代前半へ向けて急落するんです。ここに何があったかというと、イノベーションなんです。企業を作って増やしていく。ところが、あるとき勝負が決まります。ごく少数の勝者がすべてをとってしまうから大多数の企業が消える。同じことが、東京でオフィスビルの賃料が崩壊した平成バブルのときにも、起こったのだと考えています。

川口:今回のコロナによるパンデミックで、企業の倒産がそこまでひどいとはならないとは思いますが、注視しています。今後、どれだけの企業がどれくらいのスピードで倒産してしまうか。この数が増えていかなければ、楽観シナリオのV字型で不動産業界の経済が回復する可能性もあります。ただし、私個人は、V字型の楽観シナリオとワーストシナリオのあいだくらいではないかと思っています。

おわりに

川口氏は、「テクノロジーにかんする見通しの変化」として3つのポイントを上げました。1つ目は、働き方改革によるリモートワークです。最初に緊急事態宣言が発出されてから今日(5月22日)で45日目です。時間がたつにつれ、読者のみなさんもオンライン会議に触れる機会が増えてきたのではないでしょうか。テレワーク下の会議に慣れはじめたいま、オフィスの意味と向き合う関係者も増えています。それは、テクノロジーができることであり、“オンライン”が提供できる価値です。2つ目のポイントは、「Software is eating the world」です。これはアプリを指しています。「テクノロジーの浸透が進み、不動産業界においてもプラットフォーマーの成長が見込まれるのではないか」という指摘です。3つ目は、実店舗とオンライン店舗のハイブリッド型の重要性を挙げていました。巣ごもり消費により、オンラインによる買い物に触れる人は増え、その行動はいまや”あって当たり前”へ。本記事を公開する直前に、東急リバブルが全店舗でオンライン接客をスタートさせたというニュースリリースが飛び込んできました。ビデオ通話による売買・賃貸の相談に対応するだけでなく、物件の内見にもオンライン対応する方針です。4月28日には、オンライン接客を不動産テックでサポートしているスタイルポートが数億円規模の資金を調達するなど、非接触・非対面型の社会へ向かういま、不動産営業のありかたは今後も問われ続けるでしょう。

今回の記事が、「社会がニューノーマルへ向かういま、自社はどうあるべきか」を考える、きっかけになればと願います。自分ができることを。

 

 

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