不動産×AI。IESHILのチーフプロダクトマネージャーが語る不動産テックのこれから

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不動産×AI。IESHILのチーフプロダクトマネージャーが語る不動産テックのこれから

はじめに

不動産経済研究所が、2019年6月17日に、不動産テックセミナーを開催しました。会場は、東京都渋谷区のシダックスカルチャーホールです。このセミナーにリブセンスでIESHIL(イエシル)のプロダクトマネージャーを務める稲垣景子が登壇しました。このときの登壇内容を余すことなく紹介しているのが、本記事です。早速、ご覧ください。

 

目次

  1. 「お客様にとっての一大事に、できるだけよい価値提供をしたい」
  2. AIが得意とする3つの分野
  3. アメリカで注目を浴びる、買取再販
  4.  →Opendoor(オープンドア)
  5.  →Offerpad(オファーパッド)
  6.  →knock(ノック)
  7.  →Zillow(ジロー)
  8. 売却のスピード化と、不透明性の解消
  9. iBuyerが抱える3つの課題
  10. iBuyerという受け皿から、こぼれ落ちるユーザーの存在
  11. “かけあわせ”の未来に目を向ける


「お客様にとっての一大事に、できるだけよい価値提供をしたい」

稲垣:ただいまご紹介にあずかりました、リブセンスの稲垣です。こういった場で話をさせていただくのが、私は少し不慣れなため、今日は、お聞き苦しいところがあるかもしれません。そのときは、ご容赦願えればと思います。

本題の前に、私のキャリアについて、簡単にキーワードを紹介させてください。現在はIESHILのチーフプロダクトマネージャーですが、キャリアのスタートは、ウェディングプランナーでした。結婚式を新郎新婦(当事者)として迎えるというのは、多くの人にとって、人生のなかで何度もあるわけではない、すごく限られた機会です。この意味で、結婚式も不動産売買も、当事者となるお客様にとっては、同様で、また同時に、とても重要な出来事です。「この一大事に、できるだけよい価値提供をしたい」という思いが、私のキャリアに共通したキーワードになっています。

では、本題です。まず、リブセンスのことに少しだけ触れされていただければと思います。

稲垣:リブセンスの基幹事業は、成果報酬型の求人情報系サービスです。トピックスでご紹介すると、これまで『ジョブセンス』として運営していたサービスを昨年、『マッハバイト』にリブランディングしました。ほかに、エンジニアの採用に強い、転職系のサービスである『転職DRAFT(ドラフト)』などもあります。

次に、不動産事業として運営しているメディアのご紹介です。大別して、次の4メディアを不動産ユニットで運営しています。最初にはじめたメディアは、成果報酬型の不動産物件メディアである、『DOOR賃貸(ドア賃貸)』です。次にローンチさせたメディアが、私がたずさわっている『IESHIL』です。2015年からスタートしました。


稲垣:ほかにも、不動産事業者様向けの『IESHIL CNNECT(イエシル コネクト)』や、不動産テックのニュースサイトである『SUMAVE(スマーブ)』なども運営しています。そんなリブセンスにいる私が話す、本日のテーマは、不動産×AIです。

AIといっても、かかわる領域が広いので、まずは簡単に、不動産テックとの概況と、そのかかわりをご紹介できればと思います。こちらをご覧ください。不動産テック協会が昨年(2018年)11月に公開した、不動産テックカオスマップの第4版です。

画像出典元:一般社団法人不動産テック協会HP

稲垣:このなかで、現在、AIがとくに活躍しているジャンルのみを白く残し、それ以外をグレーアウトさせたのが、次のスライドです。

稲垣:イエシルが分類されている【価格可視化・査定】のジャンルはAIが活躍する主戦場です。ほかに、「お客様ごとに、どんな物件が向いているのか」という提案(レコメンド)をする【物件情報・メディア】のジャンルでも、AIは強みを発揮しています。加えて、最近のAIトレンドを申し上げますと、スペースシェアリングです。『WeWork』さんをはじめとした、スペース活用のジャンルでAIが使われるようになり、話題になっています。ただし、これは、2019年6月“現在”の話です。

あえて、このスライドのタイトルにも、AIが活躍するジャンル、として“現在”という注釈をつけていますが、これには理由があります。なぜなら、将来は大きく変わるだろうと予想しているからです。では、“未来”のAIは、活躍の場をどこのジャンルまで広げているかと申しますと、次のスライドで示しました。

稲垣:真っ白ですね(笑)。つまり、すべてのジャンルでAIが活用される時代、それが、未来の不動産テック領域です。これは、極端な物言いではなく、未来では、確実にそうなるだろうと私は考えています。

すべてのジャンルで使われるほどに、AI活用の場が広がるならば、AIのできることは、ものすごく広そうだ

稲垣:このように思われるかもしれませんが、私の認識は違います。「AI、という言葉に含まれる意味合いは、とても多く、幅広いシーンで使われている」というのが、私の認識です。そこで、「今後、AIは不動産取引に何をもたらすのか」というテーマに踏み込んでいきたいと思います。

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AIが得意とする3つの分野

稲垣:不動産業界でも、AIが活用されるようになって久しいですが、AIにも得意な分野というものがあります。その点から、ご紹介します。次の3つです。

  • 自然言語
  • 評価・予測
  • 画像認識

稲垣:自然言語の分野で代表的な活用事例は、不動産会社の店舗スタッフとお客様の間のコミュニケーションコストを減らす、チャットボットです。あるいは、クチコミの解析では、「書き込まれた言葉はポジティブかネガティブか」「この言葉は一体、どんな意味合いで使われているのか」などをキチンと読み取るなど、意味解釈の点で活躍しています。

画像認識の分野では、LIFULLさんが取り組みをされていることで、ご存じの業界関係者は多いのではないでしょうか。従来、デジタルデータとして認識させることが難しかった間取り図ですが、現在は、手書きの間取り図を正確に判別できる時代です。

稲垣:私がもっとも着目している評価・予測の分野では、多くのデータを活用することで、AIが定量的な推測をしていきます。これが、業界で俗にいうAI査定です。物件の売りどき、物件の買いどき、物件の分析、どんな顧客にどんな物件が向いているのかのレコメンドなどで、AIが活用されています。当社のサービスであるイエシルでも、物件の査定にAIを活用しています。この分野で、最近、話題になっているトレンドがありますが、ご存じでしょうか。それは、iBuyerです。次に、そのトレンドについて考察したいと思います。

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アメリカで注目を浴びる、買取再販

稲垣:iBuyerとは、物件を買い取って、再度、販売をするという“買取再販”型のビジネスモデルで、現在アメリカで非常に注目を浴びています。従来、人間が算出していた査定結果をAIに任せることで、企業が物件を買い取るスピードを速めることができます。ユーザーからすると、売却するまでのスピードを圧倒的に短縮できる、という点が大きなメリットです。売却スピードの高速化は、AIによる査定算出が大きな要因ではありますが、ビジネスモデルとプロセスの要素も見逃せません。従来の売却とiBuyerによる売却イメージを比較したものが、このスライド(画像上)です。通常、物件の売却には4者がかかわります。

  1. 買い手
  2. 買い手のエージェント
  3. 売り手
  4. 売り手のエージェント

稲垣:これに対して、iBuyerでの物件売却は、売り手とiBuyer企業の2者による取引です。かかわりが4→2者と半分になり、合意形成コストが小さくなる、というビジネスモデルが、売却のスピード化を実現させる特徴になっています。ただし、これは、従来の買取再販型にも同様のことがいえます。この売却のスピード化=売却期間の短縮という点でみると、iBuyerのプロセスもポイントです。

稲垣:ここでは、査定のAI化が大きな役割を担います。人がやれば、平均して1か月くらいかかる簡易査定や訪問査定をAIに置き換えることで、査定結果を示すまでの物理的な時間を大幅に縮めたのです。このビジネスモデルを実際にアメリカで活用し、いま、活躍している4プレーヤーをご紹介します。まずは、『Opendoor(オープンドア)』です。

稲垣:iBuyerの草分け的な存在として知られ、資金調達の額は昨年(2018年)だけでも約325億円にのぼります。次にご紹介するのが、2番手となる存在の『Offerpad(オファーパッド)』です。

稲垣:『Offerpad』はAIを活用するものの、それだけではなく、仲介経験者の知見をアルゴリズムに反映することで、独自性の高いサービスを強みにしています。次は『knock(ノック)』です。

稲垣:『knock』は、『Opendoor』や『offerpad』と違い、即時売却だけではなく、「希望する場合は6週間にわたり通常の販売活動ができる」という点に特徴があります。これは、実際に買取再販をした顧客の「もうちょっと高く買ってもらえたはずなのに、安く買いたたかれた」という気持ちに寄り添う施策です。4つ目にご紹介するのは、iBuyerへの参入がもっとも遅い『Zillow(ジロー)』です。

稲垣:北米最大の購入ユーザー数を誇る、そのサービス規模が一番の特徴です。『Zillow』はこれまで、ポータルサイトを使って、集客した顧客をエージェントに流すことを得意としてきました。これに加えてあらたに踏み込んできたのは、自分たちで物件をどんどん買って売るという領域です。彼らのクライアントとの競合性を踏まえても『Zillow』はiBuyer事業を活用できるか、という点は、関係者から注目を浴びています。

この4社が、アメリカではそれぞれの強みを生かすことで、しのぎを削っている状況です。

稲垣:日本国内に目を移すと、このセミナーに、さきほど登壇されたFantas(ファンタス)さんや、すむたすさんなどのプレーヤーが目立ちます。数週間前には、LANDNET(ランドネット)さんが『LANDNET One』による、買取再販事業への注力を告知し、話題にもなりました。

稲垣:スライドの右側に、現金化までの期間という項目がありますが、各社ともに、できるだけ短い期間で買い取って現金化する、という点に注力されている状況です。LANDNETさんに至っては、手付金ではあるものの、“最短1日”を打ち出したサービスを予告しています。

日米ともに話題を集めるiBuyerですが、次にご紹介したいのは、iBuyerビジネスが国内で伸長するキーポイントについてです。大きくわけると2つあると、私は考えています。

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売却のスピード化と、不透明性の解消

稲垣:1つ目。ターゲットが明確であること。iBuyerの特徴である“売却のスピード化”において、もっともメリットを享受するターゲットが存在します。それは、離婚や転勤などを理由に、「とにかく、確実に、早く売りたい」と考える人たちです。

2つ目は、“不透明性の解消”にあります。従来のやりかたは、営業マン個人が物件の査定をして、その査定結果を売り手に伝えるというものです。これでは、査定結果が個人の能力によって左右されてしまいます。情報の不透明性が色濃く残る部分でもあり、売り手からすると、「この営業マンがやっていることは大丈夫なのか」「この金額で売却すると損をしないか」などの不安をぬぐい切れないこともあるでしょう。ここにAIを活用することで、一定の信頼性/客観性/中立性などが担保され、売り手を安心させることができます。この効果に着目する声が、増えているのです。

また、現在は、さまざまなジャンルで、「物の売却」において、消費者の意識を変えるようなデジタルサービスが生まれています。「この時流もiBuyerというビジネスモデルの後押しになる」私はそう思っています。たとえば、『CASH(キャッシュ)』です。

稲垣:『CASH』は、不動産物件に比べると安価ではありますが、デジタルサービスを介して、自分の持ち物を現金化するサービスです。サービスリリースの直後に、あまりの人気の高さから、サービスが一時停止に追い込まれたほど爆発的なヒットを記録しました。自分の持ち物が、現金に生まれ変わるという体験は、消費者に新しい価値観を芽生えさせています。この価値観に人が慣れていくことで、これまでよりも、もっと高額な商品をデジタルサービスで現金化することに、消費者は抵抗感を抱きにくくなるのではないでしょうか。だとするなら、高額な不動産物件を売り買いすることへの心理的なハードルは次第に低くなっていく。そう考えるのは自然なことのように思います。

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iBuyerが抱える3つの課題

稲垣:秘められた可能性に期待できる反面、iBuyerには課題もあると思っています。次の3つです。

  • 査定精度の担保に足る情報(データ)量の確保
  • 経年による資産価値の低下
  • 地震や台風などの災害リスク

稲垣:AIを使った査定結果の精度をどう担保するのか。ここを確かなものにするためには、AIが学習するときの情報(データ)の量が不可欠です。データ活用が進むアメリカ不動産マーケットの特徴として、中古住宅の流通量が日本と比べて圧倒的に多いという事情があります。データを管理するような人が介在せずとも、情報流通がとどこおらない仕組みも整っていて、このあたりの違いは、日本の不動産市場が参考にすべき仕組みといえるでしょう。ほかに、日本の不動産マーケットの特徴を挙げると、時間の経過とともに物件の資産価値が低下しやすい、という点もあります。これは、日本の独特な市場性質でもあり、一筋縄では乗り越えられない課題です。

iBuyerは買取再販のサイクルなので、“抱えている在庫(物件)が不良在庫化してしまう”というリスクと背中あわせです。災害に見舞われてしまった場合、在庫が無価値化してしまいます。このリスクを避けるために重要になってくるのが、しっかりと再販益を生みだし続けること。実現のためには、繰り返しになりますが、AIによる物件の査定精度をしっかりと担保する必要がありますし、精度の高い査定結果を安定して顧客に届けるためには、情報流通の基盤をどうするか、というテーマの議論も欠かせません。

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iBuyerという受け皿から、こぼれ落ちるユーザーの存在

稲垣:もう1つ、気になっている点があります。それは、現在のiBuyerがメインターゲットにできる層のボリュームです。メインターゲットである、離婚や転勤などを理由に、「とにかく、確実に、早く売りたい」と考える人たちは、売却を考える人たちの全体の14%に過ぎません。誤解しないでいただきたいのは、「だからiBuyerは伸びない」といいたいわけではなく、「だからこそ、それ以外のターゲットが抱える悩みを解決するビジネスモデルも必要だよね」「iBuyerが解消できない負があるなら、そこに向き合う新しいビジネスモデルも当然、必要だ」といいたいのです。願わくは、それがイエシルでありたい。

稲垣:私は、イエシルというサービスを通じて、そうした人たちの苦しみや不安と向き合ってきました。イエシルの売却ユーザーから、アンケートやインタビューを通じて聞くことができた話があります。そのなかから、代表的な悩みを少しだけご紹介させてもらうと、次のようなものです。

稲垣:「査定をしてもらったタイミングでは、「売りましょう」というアドバイスを受けるけど、ホントにいま、売って大丈夫? 売ったほうがいいの? 」「売り出されたタイミングで、ちゃんと売り切れるのだろうか」「内見交渉では、自分の代理人として、仲介担当者は担当してくれているけど、ホントに自分の味方になって交渉してくれているか」などなど。

稲垣:彼らは、「エージェントを信用していない」というわけではないのです。「心の底から、自分のパートナー、代理人としてエージェントを信じることができたかと聞かれると、難しい」というのが本音なのです。では、このような不安はどこから来ているのかというと、私は大きく2つあると思っています。

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“かけあわせ”の未来に目を向ける

稲垣:1つ目は、エージェントの姿勢です。ユーザーはエージェントを頼るわけですが、それは、不動産取引が複雑で、高い専門性が求められるから、という事情が深く関係します。ユーザーからすると、「素人である自分は専門家であるエージェントに頼らざるを得ない」わけです。この心理を逆手にとられて、「エージェントは、頼られている関係をよいことに、ユーザーに寄り添うことなく、エージェント本人の営業成果や売上アップのために売却をすすめようとしているのではないか」と心配になることがあります。少しでも、エージェントに不信感を抱くとことがあれば、その気持ちは日増しに強くなるでしょう。こうしたユーザーをiBuyerですくいあげ、安心感を与えることは簡単なことではありません。彼らに安心を提供できるのは、「寄り添ってもらえている」という実感を与えられる人だけです。人が人を仲介していくという不動産取引の部分は、変わらずにユーザーから求められるという、背景であるとも考えています。同時に、「信じて任せられる」という部分は、容易に機械が代行できるものではない、そう思います。

稲垣:2つ目は、査定結果への納得感です。

客観性はあるのか

どのくらいの量の情報と比較した検討結果なのか

査定経験の豊富なベテランやプロによる仕事であるのか

稲垣:それらが生み出す納得感の欠如に、ユーザーは不安を抱きます。ここには、AIによる貢献が大いに期待できるでしょう。つまり、大切なのは、人が人を仲介するというオフライン部分と、データやAIが作り出すオンライン部分のかけあわせなのだと思います。これが、AI×不動産の未来を築くのではないか。私はそう考えています。

少し、時間がオーバーしましたが、私からの話は以上となります。ご清聴いただきまして、ありがとうございました。

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