多様な資金需要を叶える新たな不動産金融の仕組み。クラウドリアルティが目指す資本市場のカタチとは

- クラウドリアルティは銀行融資や既存の証券化スキームでは実現が難しい資金需要に対応できる
- 投資家目線で見ると、クラウドリアルティでは一人一人の価値観を基にしたプロジェクトへの共感も生まれる
- グローバルな展開も含め、誰もが取り残されることなく資本市場へアクセスできる世界の実現を目指す
はじめに
今、全国には820万戸以上の空き家があり、2033年にはその数は2000万戸を超えるという推計もあります(※2016年 野村総合研究所調査)。今後、人口減少を迎え、ますます有効活用が求められていく日本の不動産。空き家に限らず増えて行くことが想定される遊休不動産の中には、視点を変えれば、まだたくさんの眠れる価値があるはずです。このような様々な価値を掘り起こすために、新しい金融の仕組みとして生み出されたクラウドリアルティというプラットフォームがあります。
同プラットフォームは、不動産の証券化と有価証券の電子募集(いわゆるクラウドファンディング)の仕組みを組み合わせ、直接金融の形で投資家と事業者間の資金の融通を実現するものとして注目されています。このP2P型の仕組みを使えば、事業者は、既存の銀行融資等では難しかったタイプの資金調達が可能となり、投資家も少額で小口の投資が可能となります。
これまでにもその仕組みを、京町家を宿泊施設へと再生するプロジェクトや、都心のビルの空室をワークスペースに活用するプロジェクトなどに提供してきました。
そして2019年2月、日本初となる飲食店プロジェクト(※不動産に特化した投資型クラウドファンディングを活用した取り組みとして|同社リリース)が成立し、ジャンルの異なる2店舗がオープン。そこで、代表の鬼頭武嗣氏にこのプラットフォームが目指す先についてお話を伺いました。
これまでの融資では、必要な人にお金が届かない
「美味しいし、よく行くお店だったので、応援したいなと思って投資しました」(50代女性)
「(知名度が低く地元が苦慮している)おおいた和牛を応援するというテーマがいいなと思って投資を決めました」(50代男性)
——これらはクラウドリアルティで資金調達をした飲食店プロジェクトのオープニングレセプションに参加した個人投資家のコメントです。
この飲食店プロジェクトは、東京・大阪・京都で店舗を展開している飲食企業が、新たな飲食店を大阪に開店するために実施。店舗にする不動産の賃借・内装工事等に必要な資金の調達を目的としたもので、クラウドリアルティとしては初の飲食店プロジェクトでした。
大阪市天王寺駅近くにオープンした「焼肉ホルモンブンゴ天王寺店」
大阪市天王寺駅近くにオープンした「炭火とワイン天王寺店」
「以前勤めていたメリルリンチ日本証券では企業のIPOや増資などを支援する投資銀行業務を担当していました。そこで見えてきたのが『本当に必要な人にお金が届かないこと』でした」と鬼頭氏は言います。
これまで資金を調達する方法といえば、銀行から融資を受けることが一般的。
「しかし銀行の融資の源は預金者から預かった大切なお金ですし、昨今の自己資本比率規制などもありますから、リスクのある案件への融資は慎重になりがちです」(鬼頭氏)
一方で、投資をする側としては冒頭に挙げたコメントのように「好きな飲食店だから応援したい」「いいテーマだと思った」という、それぞれの価値観に合った投資がこれまではできませんでした。証券化された不動産であれば一般的には上場REITが投資対象となりえます。ですが上場REITだとしても「新しい1店舗の出店を応援する」という、プロジェクト単位で応援するかどうかを決めて投資できるわけではありません。
「そもそも日本のREIT(J-REIT)が上場するには100億円規模の時価総額が求められますが、冒頭の飲食店のプロジェクトは遥かに小さいサイズです」(鬼頭氏)
銀行からでも資本市場からでも調達がしづらい少額の資金需要。これらを個人投資家の小口出資と直接結びつけられないか。それがクラウドリアルティの出発点です。
「実はこうした少額の出資ニーズがある人々は全国各地にたくさんいらっしゃいます。一方で、日本各地には京町家のようなたくさんの眠れる資産や、資金を必要とする大小様々な不動産があります。こういった様々な不動産に関わる価値創造と出資ニーズを支えるために新しい金融の仕組みを作ることが求められているのではないかと考えたのです」(鬼頭氏)
個人投資家だからこそ生まれる意義
個人投資家は金融機関と比べて意志決定が早く、それぞれの価値観によって多様なリスクが取れます。「利益の分配だけではなく、プロジェクトの起案者が掲げる価値観に共感したり、ちょっとしたオーナー気分に浸ったりするのは、これまで意外と世の中になかった体験だと思います」と鬼頭氏。
こうしてクラウドリアルティでは京町家や都心のビルの空室など“眠っていた価値”を、新しい価値へと蘇らせてきました。「これまで資金調達が困難だった不動産のプロジェクトに資金を回して活性化させることは、地域再生や不動産の新たな価値創造にも繋がると考えています」(鬼頭氏)。
目指すのは誰もが資本市場にアクセスでき、利用できる社会
クラウドリアルティを立ち上げた際に鬼頭氏がテーマとして掲げたのは資本市場における「ファイナンシャル・インクルージョン」だそう。“金融包括”と訳され、誰もが取り残されることなく資本市場へアクセスでき、金融サービスを受けられるようにするというような意味です。
もうひとつ、鬼頭氏が思い描いていることがあります。それは本当の意味での資本市場のグローバル化です。確かに今ある資本市場もグローバルに繋がっていますが、実際は国や地域によって法規制なども異なり、国境を超えて資金調達を行う場合にはかなりの労力を要します。
「そうではなく、我々は分散した各国の資本市場間の相互互換性を担保し、国境を越えて自由に市場にアクセスし合えるような、グローバルでの新たな枠組みを確立する必要があると考えています」(鬼頭氏)
鬼頭氏によれば、すでにエストニアで国境を超えた資金調達の実証を進めており、さらに多くの国や地域にも展開していくといいます。日本発の、国境を簡単に越えられるインターネット時代に適したデジタルな金融の仕組みが、世界の資本市場を変えていく可能性を感じずにはいられません。
まとめ
都市部の過密化から地方の過疎化、空き家の増加まで、ますます有効活用が求められていく日本の不動産。一方で、海外からの観光・移住者の受け入れや、世界へ向けた日本文化の発信など、まだまだ取り組む余地が多く、可能性が眠っている事業もありそうです。
投資家一人ひとりの価値の共感が投資となる。そんな新しい不動産と金融のプラットフォームによって、眠れる価値が息を吹き返し、新たな価値を生み出す。さらには日本国内にとどまらず、日本から世界に向けて、ファイナンシャル・インクルージョンが広がっていく。そんな未来も遠くないようです。