アメリカ不動産テック企業のヴァイスプレジデントから中古住宅市場のトレンドを学ぶ

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アメリカ不動産テック企業のヴァイスプレジデントから中古住宅市場のトレンドを学ぶ

はじめに

2019年1月11日に開催された、第5回PropTech Meetupのイベントレポート記事です。株式会社LIFULLの本社8階にあるセミナールームにて開催されました。主催は、PropTech JAPANというコミュニティです。国内の不動産テック領域や建設テック領域において、さらなるイノベーションを起こすことを目的に、活動しています。PropTech Meetupのイベントは、その一環です。

第5回PropTech Meetupより、本記事では、アメリカ不動産テックトレンドの解説をクローズアップします。登壇者は、アメリカの不動産テック企業で、ヴァイスプレジデントを務める、市川紘氏です。

市川氏は、シリコンバレーにあるMovoto(モボト)という不動産テック企業にて、事業開発・ファイナンス部門を統括しています。前職は日本のリクルート。SUUMO(スーモ)で、当時の最年少部長として、新規事業開発部門の責任者をしていました。

今回のイベントレポートでは、アメリカ中古住宅市場のトレンドを紹介します。アメリカのトレンド、日本の商慣習やユーザー事情に精通した市川氏による講演をご覧ください。

市川紘とは

「最初に、私が所属している会社の紹介と、私自身の紹介をさせてください。私は、『Movoto(モボト)』という米国不動産テックベンチャーに勤めています。『Movoto』の本社があるのは、米国のベイエリアで、本社に在籍しているのは40名ほどです。地域は、サンフランシスコとサンノゼのあいだくらい。そこから、私は来ました。

支社がある地域は5つです。サンノゼ、ロサンゼルス、ラスベガス、サクラメント、フレズノにあり、仲介会社のオフィスになっています。そこで働いているのは、日本でいうところの仲介営業マンである、“エージェント”です。総勢250名ほどです。あとは、インドのバンガロールに開発拠点を持っています。

以前の私は、『リクルート』のSUUMO(スーモ)で、営業、プロダクト、経営企画、事業開発など、多岐にわたる業務をしていました。そんなキャリアの持ち主なので、米国の不動産テック企業から一時帰国をした身ではありますが、“よそ者”ではないということを来場者のみなさんにお伝えしたいです。ぜひ、“仲間”として、温かい目で講演を聞いてもらえれば幸いです(笑)」

Movotoとは

「私が在籍している米国の不動産テック企業『Movoto』について、もう少し、ご紹介させてください。当社では、不動産ポータルを主軸にすえながら、不動産仲介業もしています。オンラインポータルも、オフライン仲介もやっている会社です。

仲介会社としては、全米第2位のユーザー数を誇る、ポータルサイトを持っています。オンラインのトラフィックにおいて、『Redfin(レッドフィン)』に次ぐ2位という立ち位置です。

経営メンバーを紹介します。顔写真の1番左が、エンジニア部門出身のCEOである、Imtiyazです。ヴァイスプレジデント(副社長)として、3名おります。左から2番目のMaxがみているのが、営業部門です。左から3番目が私で、経営企画や事業開発部門を統括しています。現在のエンジニア部門は、1番右のUmaがトップになります。

私が『Movoto』の一員となったのは、2016年です。当社は、米国不動産テックのど真ん中にいる企業で、いやがうえにも、業界のトレンドに敏感になります。このトレンドを日本語で発信しはじめたのが、去年(2018年)のなかごろでした。個人ブログとして、米国不動産テックトレンドをテーマにしたブログを書きはじめました。ブログがきっかけとなり、今日、この場に私を呼んでくださった桜井さんをはじめ、いろいろな人に声をかけてもらえるように。「ブログの内容がマニアック過ぎる」などの意見をいただきながら(笑)、現在も書き続けています。今回、興味を持ってくださったかたは、ぜひ、ブログを読んでもらえればとも思っています」

約130兆円という巨大な米国中古住宅市場とは

「では、本題です。米国の不動産市場のトレンドを紹介します。このテーマで話をするときに、決して、外すことのできないキーワードが、中古住宅市場です。

米国の中古住宅市場は約130兆円という巨大な市場規模にもかかわらず、テクノロジー化が遅れています。「ある日、突然、テクノロジーが巨大な市場を激変させるのではないか」「テクノロジートレンドを注視する必要がある」などの思惑が渦巻き、いまも、多くの起業家や投資家から注目を浴びている市場です。連日のように、テクノロジーを駆使したスタートアップがニュースをにぎわせています。

広く産業を見渡すと、米国の動向が数年、遅れて日本にやってくる、ということが少なくありません。こうした大局観から、現在の米国中古不動産マーケットを読み解くことは、日本の中古不動産マーケットを占うことにもつながる、ということがいえます。そこで、米国の中古不動産マーケットのトレンドを詳しく紹介したいと思います」

米国のトレンド。中古住宅マーケットを読み解く

「米国で、頻繁に使われる分類軸の図がこれ(画像上)です。縦軸は、Buyer(買い手)、Seller(売り手)という、日本の業界関係者のみなさんにも、お馴染みのキーワードで構成しています。横軸にすえるのは、Search(検索・検討)と、Transactionです。Transaction(トランザクション)とは、内見から契約までのプロセスを表しています。SearchとTransactionは、ユーザーが、どんな段階にいるかを示すキーワードです。米国では、一般に、その2つのキーワードで、ユーザーのプロセスを分類しています」

縦軸
・Buyer(買い手)
・Seller(売り手)

横軸
・Search(検索・検討)
・Transaction(内見から契約まで)

「これら、4つのキーワードでセグメントを構成し、分類図を用いて理解するのが米国のスタンダートです。インターネットの登場以前は、これらのセグメントにあまり厳密な区別はなく、すべてをまるっと、仲介会社が握っていました。当時は、仲介会社に行かないと、消費者は物件情報を入手することができません。これは、”仲介会社に来店した消費者が、そのまま内見へ行き、契約にまで至るケースが多かったから”です。これが、1990年代までの話(下の画像)です」

「この分類図が、2000年代に入ると、変わりはじめます。仲介会社がマーケットを支配する構図が崩れはじめたのです。主な要因は、インターネットの浸透にあります。不動産ポータルの出現により、仲介会社に行かなくても、ユーザーは自分で物件を検索・検討できるようになったのです。日本でいうところの『SUUMO』や『HOME’S』が台頭してきた、というイメージですね。この傾向は、2000年代に突入すると、激しさを増しました。熾烈な争いを繰り広げたのは、数々のテック企業です。代表的な米国不動産ポータルサイトとして、『Zillow(ジロー)』、『Redfin』、『realtor.com(リアルタードットコム)』、『Homes.com(米国企業)』などを挙げることができます」

iBuyerの存在と、テック企業によるTransaction領域への参入

「直近の米国不動産テックで特徴的なのは、従来の【Buyer×Serach】のセグメントから、主戦場がシフトしつつある点です。次のスライドをご覧ください」

「これまで、オンライン化が進んでいなかった売り手(Seller)の市場に、テック企業が参入している、というのが、直近の米国中古不動産市場のトレンドです。まず、アルゴリズムを生かして、オンラインで価格査定をします。査定後、数日以内に物件を直接、買い取ってしまうのです。この業種を米国で、「iBuyer(アイバイヤー)」と呼び、いま、急速な広がりを見せています。さらに、もう一つ、見逃せないトレンドがあります。テック企業による、Transaction領域への参入です」「たとえば、2017年にIPOを果たした『Redfin』や、私が勤める『Movoto』は、不動産ポータルと仲介業務という両方のビジネスを兼ね備えています。つまり、『Movoto』は、SearchからTransactionまでのサービスを一気通貫で提供できる会社です。テクノロジーに強みを持つ、新興仲介会社の参入も増えています。エージェント向けの業務支援に力を入れている『Compass(コンパス)』、『exp(イーエックスピー)』、『Purplebricks(パープルブリックス)』といった企業が代表的です。

また、SellerやTransactionといった領域で目立った動きをみせる、テック企業への投資も増加しています。その筆頭が、ソフトバンクです。ソフトバンクは、Seller分野の『Opendoor』とTransaction分野の『Compass』に多額の出資をしています。両社の評価額は4,000億円を超えており、いわゆるユニコーン企業です。この事実が注目度を高め、現在の中古住宅市場の米国トレンドとなっています」

まとめ

当日は、このほかに、『Opndoor』や『Redfin』などの米国不動産テック企業や、米国の老舗不動産会社のビジネスモデル解説も、市川氏より行われました。また、すぐに利用できるミーティングスペース「ピットイン(Pit in)」のサービスをリリースした、イタンジ創業者の伊藤嘉盛氏(写真下左)がパネルディスカッションに飛び入り参加するなど、内容が盛りだくさんの1日でした。

今回のPropTech Meetupは、とくに、好評だったため、すでに、第2回が企画されています。市川氏の一時帰国のタイミングにあわせ、PropTech JapanのMeetupに市川氏が再度、登壇します。日付は、2019年5月9日 (木)です。今回はさらにテーマを絞り、【経営企画・新規事業担当者向け】第1回PropTech研究会セミナー「日米不動産テック最新動向」というテーマでイベントが開催されます。米国不動産テックトレンドに、日本語で触れることができる、貴重な機会です。記事公開日時点で、まだ、予約を受け付けいるようなので、気になるかたはお早めにお申し込みください。

SUMAVEへも寄稿をしてくれている、市川紘氏登壇予定の【経営企画・新規事業担当者向け】第1回PropTech研究会セミナー「日米不動産テック最新動向」の申込は → コチラ(※イベント申込サイトが立ち上がります)

※なお、以前のPropTech Meetupを知りたい人やPropTech Japanの活動に興味があるかたは、SUMAVEが取材したコチラのレポート記事をご覧ください。

※市川氏による、SUMAVE寄稿は → コチラ

※市川氏の個人ブログは → コチラ

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