スマートロックとどう違うの?tsumug代表が語るコネクティッド・ロック「TiNK」とその未来像

- tsumugが開発したコネクティッド・ロック「TiNK」はLTE通信する電子錠の機能を有し、いろいろなサービスやモノとつながることができる。
- 鍵の受け渡しが無用になり、管理会社にとっても内覧したい顧客にとってもメリットがある。
- 守るから拡張するものへ、「TiNK」は鍵の概念を覆し、新しい価値を提供する可能性を秘めている。
はじめに
「最高の安全で安心を生み出す未来の鍵」をコンセプトに、2017年11月に発表されたコネクティッド・ロック「TiNK(ティンク)」シリーズは、鍵を進化させて不動産ビジネスに変革の波を起こすかもしれません。
「TiNK」は、独自の機能によって、鍵の管理や受け渡しといった不動産管理会社の手間を大幅に削減できるだけでなく、宅配やクリーニングなどのサービスと連動することで一般消費者の生活をも便利にする大きな可能性をもっています。
メルカリやシャープといった上場企業からも出資を受け、すでに大手賃貸管理会社アパマンショップホールディングスグループと連携。2021年までに賃貸空き部屋の100万世帯に導入を目指しています。
今回はこの「TiNK」シリーズを開発、提供している株式会社tsumug(ツムグ)の牧田恵里代表取締役に、コネクティッド・ロックの可能性についてお伺いしました。
目次
- いろいろなモノやサービスとつながっていくコネクティッド・ロック「TiNK」とは?
- 不動産管理会社にとって新たな収入源となるようなサービス展開の可能性をもつTiNK
- 鍵の受け渡しは無用に。管理会社にとっても内覧したい顧客にとってもメリットがある
- テクノロジーが常識を覆す。鍵は”守る”から”拡張”するものへ
いろいろなモノやサービスとつながっていくコネクティッド・ロック「TiNK」とは?
Q:はじめにコネクティッド・ロック「TiNK」(ティンク)の特徴について教えてください。
牧田恵里(以下、牧田):ひとことでいうと、LTE通信する電子錠です。初期設定でWi-FiやBluetoothとの連携が必要なく、単体で携帯電話用の通信回線規格であるLTE通信をする機能が特徴です。それによってどこにいてもすぐにアプリから部屋の鍵を発行・削除することや、誰が鍵を開けたのかを知ることができます。
たとえば電気自動車の開発を推進するアメリカのテスラ社が自社の自動車を”コネクティッドカー”と呼ぶように、「TiNK」も開け閉めだけではなく、いろいろなサービスと連結して生活のさまざまなシーンを便利にすることができます。鍵というデバイス自体がいろいろなモノやサービスとつながっていく。だから私たちは、「TiNK」をコネクティッド・ロックと呼んでいます。
Q:他のスタートアップが作っているスマートロックとは何が違うのでしょうか?
牧田:他社製品をすべて知っているわけではありませんが、スマートロックと呼ばれるものはドアの内側だけ、それもサムターンの上に取り付けるものが多いと思います。
それに対し「TiNK」は、操作部の室外機とサムターン部分に設置する室内機がセットになっています。室外機にディスプレイがあり、そこに表示されるテンキーで暗証番号を入力するか、登録しているNFCカードをあてると鍵の開閉ができます。デジタル機器に不慣れな⽅でも直感的に操作ができるようなデザインとなっています。
Q:両側に取り付けるとなると、工事も大変なのでしょうか。
牧田:導入する際には、鍵を交換する必要がありますが、工事というほど大げさなものではなく、ドライバー1本あればできます。工事の専門知識も技術もない私でも、簡単に取り付けることができました。これも「TiNK」の大きな特徴といえるでしょう。
Q:LTE通信を採用している点もおもしろいですね。
牧田:端末が直接クラウドにつながっている仕組みの電子錠は、他にはないかなと思っています。LTE通信によって端末単体でインターネットに接続できる。つまりスマートフォンが扉についているようなイメージです。
そのため今後、「TiNK」のソフトウェアをアップデートしたりアプリケーションを追加したりすれば、もっといろいろな機能を追加することもできます。
Q:具体的にはどんな新しい機能が想定されますか?
牧田:基本機能にオートセキュリティ機能、キーシェアリング機能、ゲストキー発行機能などがあります。その他オプション機能として、帰宅お知らせ機能、シニア見守り機能を今後想定しています。
たとえば友人や恋人とお酒を呑んで帰宅したとき、鍵を閉め忘れてそのまま寝てしまった……なんてことはありませんか?「TiNK」ならば、自宅でもホテルのオートロックのように自動的に鍵が閉まるオートセキュリティ機能が導入できます。
キーシェアリング機能では、恋人用の鍵を発行したり、逆に削除したりもできます。これでわざわざ物理合鍵をつくることも(別れたときに)回収する必要もなくなりますね。
さらに、期間限定の鍵を発行するゲストキー発行機能があれば、外出していても家族や友だちを家の中に案内することができます。
また今後追加を予定している、帰宅お知らせ機能・シニア見守り機能は、端末からLTE通信しているので、子どもが帰宅したかどうかを保護者に通知したり、離れて暮らす家族の見守りもすることができたりするオプション機能です。
こうした私たちが想像する将来的に「TiNK」で体験することができる生活を、Webページで公開していますので、ぜひ見てください!
不動産管理会社にとって、新たな収入源となるようなサービス展開の可能性をもつTiNK
Q:ところでスマートロックのメーカーは一般消費者向けに販売していることが多いですが、「TiNK」は不動産管理会社や住宅メーカー向けに販売している点も他社と違いますね。
牧田:私自身の経験からいえば、特に賃貸や分譲マンションなどで一般消費者が鍵を購入することは少ないので、今はまだ企業さまに話をしています。具体的には不動産管理会社や建材メーカーや戸建て建築、リフォーム会社に注目していただいていますね。
Q:「TiNK」は家電より、住宅設備に近いといえるのでしょうか。
牧田:IoT製品はどこまでが家電といえるのか難しいですね。
「TiNK」は鍵の開け閉めだけではなく、サービスとつながることが特徴です。そのためには不動産管理会社などと提携したほうがよい面が多いと考えています。
たとえば、ゲストキー発行機能を活用してフリマサービスと連動したらどうなるか、といった生活の様子も動画でご紹介しています。オンラインフリマなどのサービスでは出品することはとても簡単だけど、売却した後で商品を配送するのが大変。そこで、「TiNK」でゲストキーを発行して、配送業者の方に荷物を引き取ってもらい、梱包と配送をお願いする、という使い方もできるようになるかもしれません。
こういうサービスが提供できるようになれば、不動産管理会社にとっても新しい収益源になり得るのではないでしょうか。不動産業界の方には新しいサービスを展開するためのツールとして、使って欲しいと思っています。
鍵の受け渡しは無用に。管理会社にとっても内覧したい顧客にとってもメリットがある
Q:お話をお伺いしていると、「TiNK」には不動産会社の視点が強く反映されているように思います。
牧田:私自身が投資用不動産の販売や賃貸仲介を経験していたことが大きいのかもしれません。仲介の現場では、お客様と対面で接するので、どんな方なのかがよく見えています。お子様がいれば「お子様の見守りとして使えますよ」と「TiNK」を紹介してもらったり、「TiNK」があれば男性の一人暮らしで、深夜まで忙しく働いているのであれば、家事代行を提案したりすることもできますよ、など。使い方しだいでは、いろいろなプラスアルファのサービスが提供できるようになりますよね。
さきほどお話したように、「TiNK」はまちがいなく不動産会社に新しいサービスと可能性を提供できると信じています。デバイスとあわせて、管理会社のためにAPI(外部から利用できる仕組み)で「TiNK」を管理できるシステムも提供していこうとしているのはそのためです。これは実際に私たちが開発で使用しているものと同じで、私たちにとってもさまざまなデータを取得することができるのでメリットは大きいんです。
Q:すでにアパマンショップホールディングスと提携されていますよね。
牧田:不動産会社側のメリットは、新しいサービスが収益源になるかもしれないという可能性だけではありません。
たとえば、内覧時の鍵の受け渡し。仲介会社から連絡をもらって、来店した案内担当の方に鍵を渡し、ご案内していただきます。その鍵の保管方法は様々ですが、厳重に管理するために、専用の金庫や部屋を用意している会社もありますよね。それでも無くなってしまい、鍵を交換しなければならないこともあります。不動産管理会社にとっては、人件費や管理コストもかかる課題でもあります。
でも「TiNK」ならば、この対人でしかできなかった鍵の受け渡しが無用になります。仲介会社だけでなく、原状回復時のリフォーム業者さんにも同じように簡単に鍵機能を付与できます。退出したらログ(記録)が残るので、リフォームが完了したこともわかります。「明日から、内覧案内してもよい」と、最新の状態がわかるのも手間の削減効果が大きいと思います。
Q:これまで物理鍵で発生していた問題を、テクノロジーが解決してくれるということですね。
牧田:鍵の受け渡しがなくなれば、不動産会社だけでなく、内覧したい顧客にとってもメリットはあります。たとえば私は部屋探しをするとなると、たくさんの部屋をじっくりと見たいタイプ。いつも仲介会社の方が同行してもらうのはいいときもあるのですが、ときにはひとりでじっくりと見たいなと思うときがあります。そんなとき、管理会社に連絡して、ゲストキー発行してもらい、無人で内覧して、後から「どうでしたか?」と連絡がくるような仕組みがあるといいなと思っています。
もちろん、仲介会社は必要ない、というわけではありません。物件や地域の情報に関してはとても詳しい方がいるので、すごく参考になることは多いです。ただ私のように部屋を探す際に、何回も、それこそ10回くらい気軽に内覧したいという人も多いと思うんです。その際に毎回仲介会社の方にご同席いただくとなると気詰まりですし、予定を調整する手間もかかります。無人でも内覧できるようなニーズはあるんじゃないかと思うんですが……どうでしょう?
一方で、私も仲介営業をやったことがあるのでわかるのですが、営業する側も10回も内覧されるとヘコむんですよね(笑)。「どうせ選んでもらえないんだろうな」と思ってしまう……。それが呼ばれたときだけいくという仕組みになれば、効率もよくなるし、営業の人に詳しい話を聞きたいということはそれだけ興味があるということ。そうなれば営業の方もモチベーションは高くなりますよね。
賃貸も売買も投資も、仲介や販売の現場は大変なので、このように手間がかからない方法を模索してもよいのではと思っています。
Q:鍵管理のコスト削減でいえば、受け渡し頻度の多い賃貸不動産でのニーズが高そうです。そのほかの不動産ビジネスでの使い方はどうでしょうか?
牧田:アパマンショップホールディングスさんとの取り組みが最初に始まったので、賃貸が先行していますが、賃貸以外にもハウスメーカーや民泊代行会社ともプロジェクトを進めたいと考えています。
実際の不動産ビジネスの現場にいる方のほうが、我々以上に鍵について課題を感じている方が多いはずですから、「TiNK」で「こんなサービスできる?」とか「こういったサービスとつなげてみたい!」とか、相談ベースでもいいのでどんどん問い合わせして欲しいですね。もっといろいろなことに対応できると思って開発していますので、さまざまな企業と一緒に可能性を探っていければと思っています。
テクノロジーが常識を覆す。鍵は”守る”から”拡張”するものへ
Q:最後に、牧田さんご自身のことについて少し教えてください。そもそも牧田さんはなぜ起業したのでしょうか?
牧田:tsumugを立ち上げたのは、ある目的を達成するためです。
実は私自身、鍵で恐い思いをしたことがあるんです。以前、交際していた男性に合鍵を渡していたんですが複製されていて、私が知らない間に部屋に不法侵入されたんですね。
それまでは、物理鍵を安全だと信じて使っていたけど、そうじゃないとそのときに気がつきました。じゃあ、物理鍵に代わるものって何なんだろうと思って作ったのがコネクティッド・ロック「TiNK」なんです。物理鍵で信じられてきた価値観が、もっと現在のライフスタイルに合わせて便利に使える状態にしていきたいと考えています。
Q:「TiNK」という名前の由来は?
牧田:「TiNK」とは、Trust=信頼と、Link=連結からつくった造語です。信頼がリンクしていく、という意味です。
鍵は自分と自分の信頼する人に受け渡されていくものです。管理会社と仲介会社もそうですよね。管理会社は仲介会社を信用して鍵を渡します。大家さんから入居者に対しても、「大切に使ってくださいね」と信頼したから鍵を受け渡す。
でも、事業を始めてから気づいたことですが、鍵に求められているものは、防犯とか堅牢性だけではないんです。これからは鍵を介して他の人と部屋という空間を共有するだけでなく、さまざまなサービスともつながっていく時代。たとえば宅配をお願いして家にいないと受け渡しができないことに不便を感じている人が、その不便を補填する宅配会社と鍵を介してつながることで、それぞれにベネフィットを共有していくことができます。鍵は”守る”だけでなく、生活やビジネスを”拡張”させていくもの。テクノロジーでこうした新しい価値観を広げたい。これが私が起業した目的です。
Q:鍵というそのものの概念が変わりそうですね。
牧田:いまは物理的な鍵が主流ですが、将来的にはなくなるかもしれません。鍵について調べると3000~4000年前から、物理鍵の根本的な構造は変わっていないそうです。鍵穴に鍵を入れて回す行為は、人間にDNAレベルですり込まれているのかもしれません。小さな子どもでも鍵穴にさしてまわす動作を自然に覚えますよね。それほどまでに浸透しているものを変えるには、大きな変化が必要になります。
でもようやくテクノロジーのおかげで、何千年も根付いてきた鍵の概念が変わるかもしれない。テクノロジーが常識を覆す、ようやくそのタイミングがきたのかなと。ライフスタイルをも変える新しい概念がやってきたということだと思っています。