ブロックチェーン技術の現状と、今後の不動産業界に及ぶ影響とは

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ブロックチェーン技術の現状と、今後の不動産業界に及ぶ影響とは

はじめに

仮想通貨にも使われているブロックチェーン技術は、あらゆる産業構造に変革をもたらすとされています。

不動産ビジネスでも情報のやりとりや不動産登記の仕組みに応用されることが期待されており、すでに不動産IT各社も研究をすすめています。しかし、不動産ビジネスの現場にどんな影響があるのかは、今ひとつ伝わってきません。

そこで今回は、日本ブロックチェーン協会の樋田桂一(ヒダ ケイイチ)事務局長に、ブロックチェーン技術が不動産ビジネスの現場に与えうる影響ついて聞きました。

この記事で使う用語について

ビットコイン:2009年に誕生したインターネット上で使える仮想通貨の1つです。 特徴は、中央銀行の監督下にない代わりに、ブロックチェーン技術という分散型台帳によって成り立っていることです。

ブロックチェーン技術(分散型台帳技術):ビットコインを実現するために生み出された技術。世界中に点在するコンピュータに改ざんを防ぐ仕組みで分散してデータを保管し、不特定多数の人(特定参加者に限定も可)が参照できるようにしています。

データベース:一定の形式で整理されたデータの集まりのことを指します。ブロックチェーンとの大きな違いは、中央集権型で、必ずデータの管理者が存在する点が挙げられます。

ブロックチェーン技術の普及には、まだまだ時間がかかる

Q:ブロックチェーン技術が注目されています。これはどういう技術なのですか。

ブロックチェーン技術は、分散型台帳技術と訳されます。この訳が一番わかりやすいと思いますね。いろいろなところに分散された台帳に時間や取引内容を書いた記録を改ざんが困難な形で残す技術です。ブロック、チェーン、ノードなどわかりにくい言葉が並びますが、分散型台帳技術。そう覚えてください。

Q:不動産の取引や所有権の確認にも応用できると期待されています。どのようなメリットがあるのでしょうか。

ブロックチェーン技術を使えば管理のコストが下がり、いつでも過去の記録までさかのぼって確認ができると言われています。取引の情報も含めて記録できるため、不動産の登記などにも使えます。

Q:今は『所有権』は法務省、いわば公的な機関で管理しています。それが必要なくなると。

技術的には可能です。

しかし、日本ではすでに不動産登記は法務省が管理しています。法務局にいけば誰でも確認できる。現状は問題なく運営されていますよね。そのような環境では、ブロックチェーン技術が急速に普及することは考えにくいです。

そう考えると、おそらくまずは不動産の権利やその管理が確立されていない国などでブロックチェーン技術が使われていくはずです。きっと、大いに役に立つでしょう。

Q:日本ではブロックチェーン技術が普及しにくいそれはなぜでしょうか。

新しい技術が大々的に取り入れられるには、技術への信頼がなければいけません。ブロックチェーン技術については、まだ技術も信頼もそこまで確立されていないんですよ。仮想通貨でも、それぞれのコインで別々のブロックチェーン技術が使われています。

不動産登記は、皆が同じように利用できなければいけないので、まずどの技術を採用するのかを決めなければいけません。規格化ですね。

実は、ブロックチェーン技術という言葉の定義も決まっていません。今は同じような特徴を持っているけど、それぞれ違う技術がブロックチェーン技術とひとまとめで呼ばれている。これを世界共通のものに統一していくだけで、5〜6年はかかると言われています。

Q:まずは、技術の規格化に56年。それほど長い時間が必要なんですね。

かかるでしょうね。世の中を変えるような大きな技術が生まれるときは、いくつかの技術が同時に生まれて、だんだんと1つの技術に収れんしていきます。デファクト・スタンダード(事実上の基準)と呼ばれるものですね。そうなるまでは、5~6年はかかると思います。

国連も注目!ゼロから仕組みや制度を作るのに役に立つのがブロックチェーン技術

Q:そのほかにも普及への障害はありますか。

法律上の問題もあります。ブロックチェーン技術によってなされた不動産登記が法的な証明になるかどうかは法令や判例で裏付けられなければいけません。そのような法制度の整備は日本ではまだ行われていないし、判決もでていません。そんな状態で、財産の保全に関わる重要な記録をブロックチェーン技術で運用していけるでしょうか。やはりまだ先になるでしょう。

まずは、ブロックチェーンとはどういう技術なのかの定義をしっかりして、技術的にもそれぞれ違う技術のなかでどれが生き残っていくかを見極めていかなければいけません。そうして技術的な信頼が確立され、その先の法律的な裏付けを経て、不動産登記や取引にブロックチェーン技術が使われるようになるかもしれない。そういう段階を経るはずです。不動産登記だけに限らず政府の制度として利用されるようになるには、10年はかかると思います。

Q:こうした制度が確立されていない国では、低コストで安全な仕組みが作れる可能性があるということですね。

そうですね。例えば、国連で検討されているのが、難民の身分証明にブロックチェーン技術が使えないかということです。世界には何千万人もの難民がいます。彼らは国や地域を捨てて避難しているわけですから、国籍もパスポートも持っていない人たちばかりです。だから必要な公的サービスを受けることができない。そのような状況下でも使える制度や記録はこれまで存在していません。こうした問題を、ブロックチェーン技術を使って解決しようとしているんですね。

Q:新しい制度、仕組みを作るときにブロックチェーン技術を使えば、安価でセキュリティ性の高いものができるかもしれないということですね。

そうですね。それに現状では、ブロックチェーンに書き込まれる情報の真正性を誰かが確保する必要がある。万能の技術として語られますが、ブロックチェーン技術があれば全てが解決するとは、私は思っていません。

重要なのは技術ではなく、不動産業界全体が本気でやろうとするかどうか

Q:不動産登記など公的な証明だけではなく、ビジネスなど少数利用者のためのブロックチェーン技術活用も期待されていると聞きます。例えば、管理している賃貸不動産がたくさんあってそれぞれの契約状況を紙ベースでやっている。こうしたアナログな作業をブロックチェーン技術で効率化をはかるといった使い方などは考えられますか。

紙台帳の非効率性は情報を電子化していないだけなので、まずはデータベース化が必要です。データベース化した上で、不動産情報を複数の会社で共有する、というときにブロックチェーンは役立つかもしれません。不動産仲介時の誰かから誰かが買ったとか借りたといった情報のやりとり、権利移転の情報記録はブロックチェーン技術を使えば、従来のシステムよりも安価で簡単にできるでしょうから。

ただ、できる、できないとは別に法律上の証明が必要です。例えば、ブロックチェーン上では「ある人が家を買ったことになっているけど、元々の所有者は聞いていないと主張している」となったときに、どうするか。ブロックチェーンは、誰がいつ書き込んだのかを特定することができるので、誰が書いたかは特定できます。しかし、その書かれた情報の真偽を別の公的機関など、信頼できる第三者が証明しなければいけません。

何者かが、誰かのパソコンをハッキングして、書き込んだのかもしれない。現在の登記簿ではそうならないように、公的機関により内容書き換え時の適切な管理、記載内容が正しい事の裏付けが行われています。ブロックチェーンでの不動産権利移転の証明をやるとしても、しかるべき信用を持った機関がやらなければならないと思います。

Q:スマホなど通信技術を使ったスマートロックとブロックチェーン技術を組み合わせて遠隔管理する取り組みも生まれています。

*ここでは、株式会社シノケングループが、株式会社Chaintopeと資本提携して開発をスタートしたサービスを指しています。同サービスは、民泊物件と民泊物件の利用者をブロックチェーンでつなぎ、民泊物件の利用権利移転を自動で行えるようにすることを目的としています。

すでにありますね。でも、それによって革新的に何かが変わるわけではないと思います。大きな革新があるとすれば、不動産会社がそれぞれバラバラに持っている情報を、ブロックチェーンを介して全てつなげるならば、大きな革新になるでしょう。

例えば、全ての不動産会社やポータルサイトの持っている情報を利用者も含め一覧で見ることができる。人を介さずにそれぞれのデータをつなげるのです。ブロックチェーン技術を使えば、比較的低いコストでこれを実現でき、また、誰がいつ書き換えたのか、責任の所在が明らかになるので不正にデータの書き換えをされることもないでしょう。そのため、物件所有者や管理会社はそこに最新の情報をそのまま直接載せることができる。そうすれば、物件情報の一覧性が高くなります。そこに契約条項も載せて、契約・決済までそこでできれば、仲介手数料の削減も含め、不動産の取引がいっぺんに効率化する。

Q:そうなるとポータルサイトは、存在意義がなくなってしまいませんか。

いや、そんなことはありません。そこはそれぞれの競争になりますから、サイトの使いやすさや、利用者への付加価値情報の提供などで勝負できます。利用者が直接情報を探して、一気に契約まで完結できる仕組みまで考えるのであれば、かなりダイナミックな仕組みを作らないといけない。そこをブロックチェーン技術で解決する。

逆に聞きたいのですが、不動産業界で何か困っているところはありますか。

Q:管理会社と仲介会社のやりとりは煩雑です。例えば管理会社には仲介会社から一日に何度も電話の問い合わせが来る。この手間も、ブロックチェーンを介して全ての不動産情報がつながれば一気にスムーズになりますか。

技術的にはできます。ただ、ここで重要なのは技術ではありません。不動産業界で働く人たちの全体がやろうという気持ちになるかどうかです。技術的には難しくありません。やろうと思えば、感覚的にですが…6ヶ月くらいでできるのではないでしょうか。でも、既存のシステムから情報を出したり、新たなものを入れたりするのは、お金がかかるし、手間もかかる。しかも全員が参加しないとメリットは薄いから、みんな様子見になるのではないかと思います。

10年後も、今の不動産の仕事はなくならない

Q:不動産証券化との相性はどうでしょうか。

すでにJ-REIT(ジェイリート)というものがありますよね。今は証券取引所が売買の記録を保証している。すでに証券取引へのブロックチェーン技術導入も研究されているので、できると思います。ブロックチェーンならば、J-REITで扱うより小規模の不動産でもできるようになるかもしれない。小さな金額の不動産を証券化して、ブロックチェーンに決済情報まで埋め込んで、小さな金額でやりとりできるようになれば、ダイナミックに動くのではないでしょうか。

*複数の人や機関から集めた資金で不動産を購入し、収益を分配する金融商品のこと。マンションやオフィスビル、商業施設などさまざまな不動産に投資がされています。

Q:できるようになることはたくさんあるようですね。現行の不動産業界の仕組みをもっと効率化できるのも間違いないのでしょうか。

問題は、現状の仕組みを壊してまでやるかどうかですね。例えば、登記簿の作成、管理に関わっている人はたくさんいます。そこに別の仕組みを作って、わざわざ自分の仕事をなくす人はいない。

そもそも不動産業界の現状を聞けば、ブロックチェーン技術以前にデータベースでできることがいっぱいある。それにも関わらず、テクノロジー導入はなかなか進まない。技術以外の要因が大きいのは間違いないですよね。

Q:不動産以外でブロックチェーン技術が期待されている分野にはどんなものがありますか。

IoTや人感センサーなど、人間が関わらない、あるいは関われない分野で期待されています。

例えばGoogle Homeや人感センサーで取得した大量の情報がある。それの情報を活用するために、それぞれの機械が自動で情報のやりとりを始めると言われています。人間が介在せずに、モノ同士でやって行く。そもそも情報量が膨大すぎて、人間が制御できるレベルではないです。その情報をサーバーに販売するときに、ブロックチェーン技術を使ってデバイス同士がやりとりして売買して行く。マシーンtoマシーンのやりとりです。

こうなれば何が起きるのかは、まだはっきりとしたものは見えていません。そういったダイナミックな変革にブロックチェーン技術が寄与すると言われていますね。

Q:ブロックチェーン技術はインターネット誕生以来の大革命と喧伝されています。

インターネットの歴史を振り返れば、不動産業界はテクノロジーの導入が遅れている業種の1つかもしれません。そのなかで、完全にではありませんが、大部分が置き換わったのは不動産広告だけのように思います。不動産のネット広告に取り組む会社と、そうでない会社は大きな差が出てきていますよね。

Q:そこで今、ブロックチェーン技術革命のなかで、率先して取り組めることはありますか。

現場レベルではないでしょう。「不動産業界全体でブロックチェーン技術を生かしていこう」とならなければ現場には関係ありません。

Q:まだ、業界全体で何かを変えようというところまでは、いっていないように思います。

そう思います。データベースの構築など、ブロックチェーンより先に取り組むべきことも多そうです。そういった現状を考えれば、新しい技術が生まれて、効率化されるのはさらに先です。簡単に今の仕事がなくなることはないでしょう。

Q:しかし、新しい技術によって業界問わず、たくさんの仕事がなくなると言われています。そのように不安をあおるような言説も増えているように思います。

インターネットが生まれたときにも、そう言われていましたが、誕生から30年経っても仕事はたくさんある。だから、その心配はないと思います。確かに理屈では、そうなるとも考えられるんです。AIによって人間が考える必要がなくなる。仕事のほとんど機械に置き換えられる。それは技術的には可能なんだけど、それを「受け入れる社会」があるのかはまた別ですよね。

不動産業界では何をどう変えていくのか、そこがはっきりしないと技術も意味がないですね。ブロックチェーン技術が勝手に世の中を変えていくわけではない。世の中を変えていくのは、結局人間だと思います。

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