「オンライン鍵渡し」への挑戦!不動産会社が仕掛けた、来店の必要が一切いらない賃貸契約へ迫る(後編)

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「オンライン鍵渡し」への挑戦!不動産会社が仕掛けた、来店の必要が一切いらない賃貸契約へ迫る(後編)

※この記事は後編記事です。前編記事が未読のかたは、先に、『マイボックス』の開発秘話に焦点をあてた前編→利用率96%を達成した『マイボックス』が、当初に採用していた致命的なUIとは(前編)をご覧ください。

――ハウスコム株式会社が開発したサービス『マイボックス』は、苦難を乗り越えて軌道にのりました。利用率96%という記録をたたき出し、成功と呼べる成果を挙げたのです。

弱点が見当たらない『マイボックス』ですが、あえて課題を聞くと、サービス開発に際し陣頭指揮をとった同社サービス・イノベーション室の室長、安達文昭氏はこう切り出しました。

『マイボックス』には1つだけ、リリース時に実現できなかったことがあります

それは、ハウスコムが『マイボックス』最大の特長として考えたサービスでした。          

具体的にどんなサービスなのか、なぜ実現しなかったのか。答えは、安達氏の口より、1つひとつ語られました。そこにあったのは、ハウスコム苦闘の日々です。今回の後編記事では、知られざる『マイボックス』の挑戦をご紹介します。

以下は、前編記事の最後の質問です。続きをご覧ください。

Q:最大の特長として考えていたサービスですか、どんなものですか?

オンライン鍵渡しサービスです。ハウスコムは、お客様が一度も来店することなく賃貸契約が完了する世界の実現を『マイボックス』で目指しました。本来は、「部屋探しから契約まで」ではなく、「部屋探しから鍵渡しまで」を完結できるサービスとして、『マイボックス』を立ち上げたんですよ。

鍵の受け渡しを『マイボックス』内で完結させるため、他業界の企業を訪ね歩きました。その結果、「部屋探しから契約まで」の『マイボックス』としてリリースせざるを得なかったんです。

描かれた青写真。鍵が利用者へ渡るまで

Q:オンライン鍵渡しサービスで、具体的にどんなことを実現したかったのですか?

入居者が、新居の鍵をコンビニで受け取れるサービスの実現です。そのためにハウスコムとしては、まず、誰かに鍵を引き取りに来てもらわなければなりません。弊社店舗への集荷ですね。

Q:そうなると、運送業界へ話を持ちかけたのでしょうか?

はい。入居者の利便性を考えて、私たちは鍵の受取先にコンビニを選びました。となると、コンビニと提携している運送会社に、鍵の引き取りをお願いする必要があると考えたんです。そこで、ヤマト運輸さんなのか、佐川急便さんなのか、西濃運輸さんなのか、日本郵政さんなのか、みたいなことを社内で検討しました。

限られた期間のなかで検討を重ねた結果、当時は日本郵政さんがもっとも理解を示してくださって、OKの返事をもらえたんです。

Q:「店舗から集荷してもらい、部屋の鍵をコンビニへ届ける」は、実現できるとわかったわけですね。次は何をしましたか?

鍵を預かってもらうコンビニへの相談です。私たちは、ここで壁にぶつかりました。部屋の鍵は貴重品の扱いになるので、トラブル時は責任問題へ発展します。対策はとても重要で、課題が山積みとなりました。

Q:たとえば、どんな課題があったのかを教えてください。

鍵が紛失した場合でお話しましょう。まず、入居者への対応ですが、スペアキーを用意すればよいという単純な話で解決するでしょうか。もしかすると、紛失した鍵が第三者に悪用される危険性を考慮し、玄関ドアのシリンダーごと交換する対応が望ましいのかもしれません。

紛失した鍵がマンションのオートロックを兼ねていたらどうでしょう。マンションに、別のセキュリティシステムを導入する必要があるかもしれません。スペアキー、シリンダー交換、新セキュリティシステムの導入費用を負担するのは誰なのか、ということも課題の1つです。コンビニ店のスタッフさんに、新たなオペレーションが増えることも予想されます。枚挙にいとまがありません。

「スマートキーならどうでしょうか?」代案の行く末

Q:課題のすべてに、妥協点を見いだせなかったのでしょうか?

というよりも、個別に具体策を吟味する猶予がなかったんです。それを頭では理解しているんですが、「ここがクリアになったら、部屋を探すお客様へ来店の必要が一切いらない賃貸契約を提供できる」という思いを拭いきれない自分がいます。

交渉を進めていたコンビニさんとの会議の場で、私たちはこうもいいました。「スマートキーならどうでしょうか? あれは、電化製品ですよ」と。電化製品は、すでに集荷・配達されています。なんの問題もありませんよねと。しかし、「鍵ですよね」と一蹴です(笑)。言葉のあやで押し切ろうと試みたんですが、だめでした。

何がいいたいかというと、なんとか食い下がりたかったんですね。その思いが、真剣な話し合いの場に、冗談ともとれる打開策を大真面目に提案させたんだと思います。だめだとわかっていても、いわずにはいられない、なんとかしたいという気持ちの表れでした。

Q:日本郵便は2017年、駅のコインロッカーを改良して、宅配物の受け取りを可能にしています。そうした選択肢や新たな受取先の開拓で課題を解決する予定はないのでしょうか?

あります。具体的な手段や、いつごろまでにという見通しをお伝えすることは難しいですが、ハウスコムはオンライン鍵渡しの実現を諦めていません。これは記事にしてもらって結構です。

昨日のことのように覚えている出来事があります。日本郵政さんへご相談に行った当初、「鍵の受け渡しに郵便を使いたいと考えている人に、初めて会いました」そういわれたんです。

となると、不動産テックを推し進めたい弊社としては、新たな不動産テックの開拓者として名乗りを上げたいという気概が芽生えます。「もしかしたら、力になれるかも」そんなアイデアをお持ちのかたや、「実はやっています」という企業がいらっしゃるなら、ぜひ話を聞きたいですね。

リネットから、アイデアはひらめいた

Q:そもそも、オンライン鍵渡しのアイデアは、どんなきっかけで生まれたのでしょうか?

ささいなことなんですが、きっかけは、洋服のクリーニングでした。これはハウスコムとは関係なく、個人的なことなのであえて社名をいいますが、私はリネットさんの大ファンなんですよ。

Q:洋服の宅配クリーニングサービスですか?

ええ。私は、のりの効いたシャツを着るのが好きで、頻繁にクリーニング店へ行ったり来たりをやりたい性分です。しかし、仕事の帰りが遅くなると、家の近くのクリーニング店は閉店しています。それならと思って、仕事を早く片付けて定時に帰ったとしても、そもそも自宅の周辺にあるクリーニング店は営業を終えてしまっているんです。

Q:土日にクリーニングへ出すわけですか?

そうなるわけですが、“シャツをクリーニングへ出す”“仕上がったシャツを受け取る”という作業が土日にしかできない状況が常態化すると、次のようになるんです。

土日の予定として“クリーニング店へ寄ること”の優先順位が高くなります。次第に、外出予定をクリーニング店の営業時間基準で考え、最終的には、「着終わったシャツに休日を拘束されている」そんな気になるわけですね。一週間分の洗濯物を持ってクリーニング店へ行くのは面倒でもあります。

でも、リネットさんなら、家から宅配でクリーニングへ出せて、クリーニング済みのシャツを自宅の宅配ボックスに入れて置いてもらえます。すごくありがたくて、便利で気に入っているんですよ。

リネット:https://www.lenet.jp/

リネットさんにあるような、「利用者、シャツ、クリーニング店の3つの関係性、いいよな」って、常々、思っていました。この関係性を自分の業界に置き換えたらどうなるだろうって考えたとき、ひらめたのが「入居者、鍵、不動産会社」でした。

“オンライン鍵渡し”は、なぜ、店舗スタッフに喜ばれるのか

Q:利用者がクリーニング店へ行くことなくシャツを受け取れるように、入居者が不動産会社へ行くことなく部屋の鍵を受け取れるようにしたかった、ということですか?

ええ。でも、それだけではありません。入居者が不動産会社へ来て鍵を受け取らなくて済む、ということは、店舗スタッフにとってもメリットなんです。

業界のかたならご存知かと思いますが、鍵渡しは土日に集中することが多いです。店によっては繁忙期に、「一日鍵渡し当番」のような役割のスタッフを一人すえ、そのスタッフに、鍵の受け取りに来たお客様の対応だけを任せます。

これは、店舗の接客効率を下げないためのアイデアです。もし営業スキルの高いスタッフが、部屋探しを済ませたお客様を対応し、これから部屋を探すお客様を待たせてしまったら、店舗の接客効率が下がってしまいます。

一日鍵渡し当番がいることで、得意な営業に専念できるスタッフは仕事へのモチベーションも高まります。これが店舗スタッフにとってのメリットです。結果として、売上を伸ばすことが多いものです。オンライン鍵渡しが実現すれば、鍵渡し当番を設けることなく、同じ効果を期待できます。

Q:鍵渡しの役割を任せていたスタッフに、カウンターでの接客など、本来の仕事を任せられることにもなるわけですね?

その通りです。オンライン鍵渡しは、弊社の合言葉を体現するサービスでもあり、社長も「そのアイデアいいな! 絶対にやろう! 現場も喜ぶ! 」と、背中を押してくれました。店舗のスタッフは仕事の負担が減り、生産性をあげられるため、うれしくて喜ぶのです。

『マイボックス』に込められた思い

Q:『マイボックス』は御社の合言葉を体現するサービス、とのことですが、合言葉とはなんですか?

「不動産業界は変わらずにいられるだろうか」です。弊社の社長である田村穂が、営業職をしていた頃からの口癖なんです。

Q:合言葉の意味や文脈を、教えてください。

もちろんです。業界の現状に詳しい読者は多いかもしれませんが、合言葉の発端となる不動産業界の現状からお話しましょう。

総務省が2014年にまとめた段階で、不動産業界のICT(地域情報化の推進)活用スコアは5.6です。平均が6.7であることを考えると、ほかの業界に比べて情報活用は遅れています。

出典元:我が国産業界におけるICT投資・利活用の現状(総務省/平成26年度版)

具体例を挙げると、目立つのはネットワーク化の遅れです。製造、情報通信業界では、約半数以上がネットワークを整備しているなか、不動産業界は3割に届いていません。2014年当時、不動産業界の部門内ネットワーク化は26.5%でした。 

出典元:我が国産業界におけるICT投資・利活用の現状(総務省/平成26年度版)

ところが、不動産業界では、売上と利益を向上させている企業のICTスコア(8.1)が平均を上回り、向上させられていない企業(3.3)とのスコア差(4.8)は産業別に見てもっとも大きい状況なんです。

出典元:我が国産業界におけるICT投資・利活用の現状(総務省/平成26年度版)

不動産業界の変わらない現状とは、ネットワーク化が進まない、ICT化の進まない現状です。ICT化の進まない企業は今、売上を伸ばせていません。伸ばせているのは、ICT化を進展させている企業なのです。

ハウスコムが売上を伸ばそうと思うなら、ICT化の進展、つまり、積極的な姿勢で不動産テックに取り組む必要があります。

Q:変わらずにいることで、自分たちが淘汰される危険性に目を向けようと、注意を呼びかけているわけですか?

そうです。ハウスコムは、田村の指示のもと、これまで名乗っていた「賃貸仲介業」をやめ、「賃貸サービス業」を標榜しています。仲介だけにとどまらない、付加価値の高い賃貸サービスをお客様へ提供することが目的です。『マイボックス』はその一例であり、田村の合言葉には、そうしたメッセージが込められています。

アセンシャスとの出会い、転貸サービスの誕生

Q:会社の業態を見直すというのは、大きな決断のように感じます。ハウスコムをそうさせた背景には何があるんでしょうか?

強い危機感ですね。アセンシャスという会社で以前社長をされていた鈴木直樹さんとの出会いがきっかけの1つです。

弊社の田村と私は、鈴木さんに直接会って話をしています。鈴木さんは、賃貸契約の仲介手数料に大きな疑問を抱く一人で、その疑問を解決するサービスを手がけました。当時のハウスコムに、強い危機意識を芽生えさせた一人です。この危機意識は、弊社にとってよい緊張感をもたらしています。

Q:よい緊張感とは、たとえば、どんなことですか?

『マイボックス』をはじめとした、新たなサービスを誕生させるためのアイデア、刺激です。最近好調な、外国人向けの不動産転貸サービスもその一例です。

オリンピック関係で日本を訪れる外国人の滞在が長期化するなら、日本に部屋を借りて住むことを考える人も現れるでしょう。そのときに備え、ハウスコムでは独自の外国人向け転貸サービスをしています。

グローバルサポートプランとして展開していて、海外在住の外国人が、外国にいながら日本の賃貸契約を完了させられるサービスです。日本にはじめてきたときは、鍵を渡すだけで、部屋の水道、電気なども使えます。

転貸なので、部屋の契約者はハウスコムで、入居者は来日予定の外国人なわけです。転貸は宅建業法を必要としないので、重説の義務がないこともメリットですね。

Q:実際の反響を教えてください。

とくに、中国のかたから非常に好評をいただいています。そして、中国からの転貸の問い合わせは、90%がハウスコムのFacebookページからのものです。もちろん転貸のサービスサイトは中国語に対応していますが、このサイトへの問い合わせは10%にも満たないんじゃないでしょうか。転貸のサービスは人気があるので、今後も注力したい分野の1つですね。

多言語化? 開放? ハウスコムの新たな挑戦とは

Q:最後に、今後のことを教えてください。新たな挑戦として、どんなことを考えていますか?

大きく2つあります。1つは、サービスの多言語化対応です。転貸で実感している海外からのニーズに、さらに応えていきたいですね。別のサービスとしてリリースするかもしれませんが、『マイボックス』の多言語化なども視野に入れています。

もう1つは、『マイボックス』の開放です。具体的なことについては何も決まっていませんが、『マイボックス』を同業他社へ開放するような試みについては、社長田村の意向の1つです。弊社のFC店へ展開するような可能性も探るように指示を受けています。

開放の背景にあるのは、前述した業界全体のICT化の遅れです。本来、『マイボックス』は、他社との差別化のために作ったサービスですが、業界全体のICT活用を促す起爆剤になるのならうれしい限りです。そのためには、お金を払ってでも使いたいサービスとして、他社に認められる必要があります。となるとポイントは、オンライン鍵渡しサービスの実現なのかもしれませんね。2018年も挑戦を続けていきますよ。(了)

※この記事は後編記事です。前編記事を読み損ねたかたは、『マイボックス』の開発秘話に焦点をあてた前編→利用率96%を達成した『マイボックス』が、当初に採用していた致命的なUIとは(前編)もご覧ください。

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